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恋のエンジン  作者: 水野
14/25

その14

※その13を分割しました。

 駅名がアナウンスされ、電車は止まった。田中は足早に電車を駆け下りた。駅のホームに降りたところで、名前を呼ばれた。顔を上げると、隣のドアから鳥羽さんが顔を出していた。

 鳥羽さんは流れ出る人並みに押されてこちらへやってきて、おはよう、と言った。僕らは黙ったまま改札をくぐった。

 学校までの道のりが急に遠く見えてくる。鳥羽さんはためらいがちに口を開いた。

「もう止めるよ」

 言葉とは裏腹に、彼女は晴れやかな表情をしていた。決意を秘めた穏やかさ。僕が鳥羽さんに惹かれたのは、きっとこういう部分だと思った。

「どうかした?」

「いや、別に、僕は」

 嘘が下手にもほどがある。

「なに?」

 ぐいと鳥羽さんが迫る。観念した。

「……恋愛と性欲は別なのかな、とか思って」

 鳥羽さんはあっけにとられた表情をしたけれど、すぐに元に戻る。

「私は別だと思っているよ。だから」

 鳥羽さんは即答した、かと思うと突然言葉に詰まった。

「その、えっと、そういう商売とかそういう関係があるんじゃない」

 僕がどういうことか尋ねると、鳥羽さんは口を一文字に結んで返事にした。そこまでしてやっと、鳥羽さんの言いたいことがわかった。

「悪かった。誘導尋問なんてする気じゃない……僕も、そうだといいなと思うよ」

「変なの」

 前を向いて歩く。遠くに田中の姿が見えた。すらりと伸びた体躯と綺麗な髪。後ろ姿でさえ人目を惹く。校門脇の掲示板をちらりと眺め、早足でさっさと校内に入っていく。

 鳥羽さんも田中に気が付いた。

「変わったよね」

「田中のこと?」

 鳥羽さんは頷いた」

「仲いいんだな」

「自分の話は全然しない人だけど、誰とでも仲いいよ。田中さんは」

 感情がこもっていない声だった。

 田中は誰とでも仲がいい。だから僕は昨日、からかわれたのだと思った。もし流されるままになっていたら謀略の餌食になっていただろう。

「見た目に反して皮肉屋なのも加える」

 鳥羽さんは笑った。彼女からもそう見えるらしい。

 看板の前まで歩いた。一枚のポスターが目に入る。藍色の背景に、色とりどりの流しが描かれている。『七夕祭り』と、上部に大きく書かれている。鳥羽さんが立ち止まるのに合わせ、僕も止まる。

「もう夏休みかあ」

 七夕祭りは、市の主催で三日間に渡って行われる。七月七日ではなく七月の下旬に行われるため、『七夕終わってるのに』と誰か呟くのがお決まりだ。今年初めてのフレーズを、僕は鳥羽さんから聞くことになった。

「今年は行けないけど」

 と鳥羽さんは言った。

「当てがないなら、僕と行こうよ」

 鳥羽さんははっとこちらを向いた。一瞬遅れてどきりとする。自分の口からそのフレーズが出てきたのは、本当に予防注射のおかげかもしれない。

「なんで三木くんと私で」

「なんでって、それは」

 鳥羽さんは乗り気でなかった。

「……高三の七夕は今年で最後、だし」

「毎年やってるんだけどね」

 自分の言い訳と沈黙が苦しい。耐えかねた僕は、逃げ出すみたいに右向け右をした。

「いいよ」

 認識するのにちょっとだけ時間を要した。

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