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恋のエンジン  作者: 水野
11/25

その11

 何もしないのが一番よかったかもしれない。

 一度、鳥羽さんと多田と同時に鉢合わせした。お昼休みの終わりかけ。僕らは声を交わしもせず、視線を背けて、足早にその場を後にした。凄く気まずかったから、誰も声を掛けられなかったんだと思う。

「今日はいつにもまして覇気がないね」

 校舎を後にした僕を追いかけてきたのは、鳥羽さんでも多田でもなかった。

「鳥羽さんがよかった?」

 田中は駆け足で僕の隣に並んだ。

「誰でもよかった」

「じゃあ好都合だったね」

 僕田中と顔を合わせて心が安らぐ経験をしたのは初めてだった。

「恋愛と性別って意味わかんないよなあ」

 浮ついた呟きは気が緩んでいる証拠だ。馬鹿にされるだろうかと身構えたけれど、田中は、さあねえ、とだけ言って黙った。

「みんな初めてだから気まずいんだよ」

 田中の口調は優しかった。あらゆる悩みと迷いを肯定するような、この余裕はなんだろう。

「悩みを振り払う方法を教えてあげようか?」

 僕が頷くと、じゃあ着いてきてと田中が言った。

 田中と並んで電車に揺られる。とりとめのない話に耳を傾けているうちに駅に到着した。市立図書館併設の駅だ。

「私の家すぐそばなんだ」

 北口から外に出る。慣れた様子で人混みを歩いていく。高架下をくぐると、頭上を電車して、骨まで震わすような振動が地面から伝わる。

「牧歌的だよね」

 大通りの脇にはファミリーレストランや大手チェーン店の看板が並んでいる。

「悪いところじゃないだろ」

「この場所もそうだけど、何より牧歌的なのは君たちだ」

 君たち。僕は意味がないとわかりつつ左右と後ろを確認した。

「飲み込めない」

「三木くんも多田くんも鳥羽ちゃんのことだよ」

「馬鹿にしてるだろ」

「よくわかってるじゃん」

 レストランの角を折れる。通りから外れたところに公園があった。木立に囲まれ、歩行スペースにレンガが敷き詰められている。静かな水のせせらぎが聞こえる。

 遊歩道の左右には、等間隔で電灯が設置されている。ぽつぽつの人の影が見える。制服とセーラー服姿の先客があった。

「何するんだ」

「人間観察」

 噴水のある広場で四つの歩道が交わる。田中に引っ張られて広場を突っ切る。僕らは遊歩道脇のベンチに座った。

 併設された自販機で飲み物を購入した。僕が百二十円を投入すると、田中は迷いなく緑茶のボタンを押した。

「まあまあ授業料だと思って」

「……それで、誰を観察するんだ」

「あれに決まってるじゃん」

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