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BACK The new generation   作者: ナスの覚醒
第一節 カァルプリィトゥ
9/49

5話 鉄甲の男

1月30日改稿完了しました。

 先に仕掛けてきたのは向こうだった。

「·····来たか!」

 --速いッ!

 今までで見たことのない速さだ。男の腕が動いた一秒後に衝撃波が生じている。

 オレは飛んでくるパンチを上に跳んでかわす。そして、サッと後ろを向く。

 こういうことはいつか起こるだろうと思っていたので、オレは至って冷静に状況を分析する。

 とても鍛えられた肉体。しかし、右腕は鉄甲で被われていて、目は赤く光っている。オレがかわしたパンチが当たったアスファルトには大きな穴が空いている。だが、男の腕には傷一つもない。おそらく、この人は能力者だ。


 ちなみにオレは転生眼(てんせいがん)という眼を持っている。物知りのジジイ曰く、まだ謎に包まれていて、全く分からないそうだ。今、分かっていることは、夜でもよく見える暗視能力と、気配を目で見ることができる能力だ。だから、この男が後ろいることもすぐに分かった。そして、しっかりとその姿を見られるのだ。


「お前は何がしたいんだ?」

 オレは説得を試みる。できるだけ戦闘は避けたい。

「······ウォォォォォォォ!」

 男は何も言わずにこちらに襲いかかってくる。

 これは、完全に狂っている。

 となると、戦うしかない。

 このスピードなら、オレが振り向く時には殺られているだろう。男の場所は、オレの真後ろからやや左寄り。このまま直進するとすれば、左腕で短剣を持って迎えうつのが最適だろう。

 そして、オレは短剣を取り出す――え?


 オレと男との間は、およそ人5人分くらい。

 短剣がない。どこにもない。

 失くしたのだろうか、どこかに忘れたのだろうか。オレは記憶を遡る。

 確か、昨日·····あっ、政田の家にある。

 さっきは魔獣と遭遇しなかったから気づかなかった。これはヤバい。持ち物を確認しなかったオレの責任だ。だが、後悔してももう遅い。どうにかしないと。


 オレと男との間はおよそ腕を伸ばした距離。

 今、オレが持っているものは杖だけ。

 逃げることも考えたが、そうすれば街で暴れ出すだろう。それだけは阻止したい。

「……よし、杖で戦うか」

 まだオレはこれを使いこなしていない。ずっと杖を避けてきた。

 しかも。相手はなかなかの強敵だ。

 --勝ち目はあるのか?

 --いや、勝ちを信じるんだ。

 --オレならいける!


 オレと男との間は、原子が1つも入らないほどの皆無。

 男が弾丸のようなスピードで襲いかかってくる。だが甘い。オレは右に体を移動して、男を避ける。

 男は足を踏みとどめる。よし、隙ができた。

 オレは杖を揺すって攻撃を仕掛ける。

 だが杖からは火の玉がしか出ない。

 フラフラと飛び、男の手前で弾けてしまった。男にはノーダメージだ。

 --くそっ! やはりまだ使えないか!

 魔術学校などがあればいいものだが、この世界にある訳が無い。ジジイは魔術を使っていたが、それはまた違う種類の魔術で、この杖ではできないらしい。なので魔術は独学で強くなるしかないのだ。しかし、オレは結構めんどくさがり屋なので、魔術を学ばず、ずっと短剣ばかりを使っていた。それが今の状況を作っている。全部サボりまくったオレの責任だ。今更後悔している。それがもうちょっと前だったら、今状況は変わっていたかもしれない。


 男は少し体を引き、再びこちらに襲いかかってくる。

 --か、体が動かない······!

 よく見ると体勢が整っていない。そして、ようやく両足に力を入れるが、もう遅い。

 男の拳はもう目の前まで来ていた。


 とっさにオレは攻撃を腕で受け止める。

 骨の髄まで響く痛み、なかなか応える。

「ウォォォォォォォォ!――」

 男の叫び声は夜の街に大きく響く。

 そして、男は透かさず攻撃を仕掛ける。


 --守りきれない!

 痛みと衝撃波のせいで怯んでしまい、腕が解けてしまった。今のオレには男の拳が4つも6つにも見える。男の拳次々と襲いかかってくる。

 顔にパンチが入る。腹に膝蹴りが入る。頭に肘打ちが入る。そして、何度も鉄甲に打ちつけられる。反撃の余地を許さない隙のない攻撃、その一撃一撃がとても重たい。

 気づくと、体がフラフラとしている。体全身がとても痛く、所々で出血している。

 そう、オレは攻撃をモロに喰らってしまったのである。


 そして、オレは地面に倒れ込んでしまった。

 体が動かない。全身が悲鳴を上げている。男は再びこちらへ迫ってきている。

 もう、だめなのか? ここで終わりなのか?


 --オレは、世界を救えないのか……!



 その時、オレの横に落ちている杖が目に入った。少し短くて、何か神聖なオーラが放たれていて、少し光っている。

 --この杖は、確かあの山の中で······?

 --山の中? そういえばあの人······!

 オレの記憶がフラッシュバックされる。

 あの時、オレはあの人のようになりたいと思ったのだ。あの人はかっこよかった。挫けなかった。たくましかった。

 なのにオレはもう諦めている。挫けている。

 何をしているんだオレ。

 オレの心が叫び声を上げる。

『このままじゃダメだ!』

『負けたくない!』

『まだ死にたくない!』

『オレは、まだ終わりたくない!』


 その時、オレの眠っていた何かが目を覚ました。


 魔術ができないなら経験を重ねるしかない。もう練習は面倒なんかじゃない。オレには希望がある。オレには目的がある。あの人みたいになること。同じ50人のうちの1人として、この戦いを終わらせること。世界を救うこと。


「まだまだ終わらねぇぞ!!」

 オレは再び立ち上がる。

 腕を立て、杖を持ち、両腕にぐっと力を入れる。

 そして両足に力を入れると、視界が広がった。目の前には高速でこちらへ来る男が見える。


「ウォォォォォォォォ――!」

 男の叫び声が再び聞こえる。

 今のオレなら見える。

 この窮地を脱する道が。一筋の希望が。


 男の拳が伸びる。オレはそれを下にかわす。次にもうひとつの腕が伸びてきた。オレはそれを右にかわす。

 そして、杖を構える。


 風向きが変わった。

 頭をひどく打ったせいか、それとも偶然か。

 やっと分かった。

 今までのオレは、どうやら魔術を出すことだけに意識を置いていたようだ。

 だが違う。

 魔術は心で出すんだ。

 心と体は比例する。

 気づくと、周りには光が立ち込めていた。

 男はオレの目の前まで来ている。

 だが、まだ早い。

 あと少し、あと少し、3、2、1――

「――今だ」

 自然に腕が動く。杖は自然に振られていた。

 杖に魔力が集まる。杖が熱い。

 そして、男の拳が自分の顔のすぐ前に来た瞬間、オレは魔術を発動した。


「いけぇぇぇぇぇッッッ!!」


 夜の閑静な住宅街を眩い光が包み込み、大爆発を起こした。

 光が消えていくと、その中心には、ボロボロになった男が立っていた。

 男はまだ生きていた。そして、男はその大きな体を少し後ろに引いて、再びオレのところへ襲いかかってきた。

 その大きな拳にはまだ衰えていない。

 周りに衝撃波が生じる。オレは腕で風を防ぐ。

 腕を顔から離した瞬間、男はもう目の前まで来ていた。

『守ってみせる!』

 瞬間的なその心がオレの杖をまた動かした。

 すると、オレの前には大きな結界ができていた。

 男の拳はオレの手前30センチで止まっていた。

 そして、男をはじき返した。


 はじき返された男はかろうじて立っているものの、かなり疲れているようだ。

 やっと隙ができた。今度は逃さない。

 オレはさらに魔術を発動する。

 魔力弾、魔力波、そして大爆発。

 自分でも動きを制御できないほどの力。

 オレの心はいままでにないくらいワクワクしている。

 これが魔術なんだな。

 そうしてオレの連続攻撃が決まったのである。


 そして、オレは最後の大技を出す。

 ボルテージはMAX、魔力も十分、なんか知らないけどすごいのが出そうだ。

「これで終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 杖からは、巨大な魔力弾が発射された。

 それはどんどん大きくなっていき、男の方へ飛んでいった。

 そして、大地が揺れた。


     ☆☆☆

 明智 瞳は街はずれの物陰からシゲ盛を見ていた。

 何度も目をこすったが、前に見えるのは倒れた男と、1人の少年だった。

 最初は、もう無理だと思っていた。

 もう勝てないと思っていた。

 だが、違った。

 明智はずっと見ていた。

 何度も殴られ、倒れる姿を何度も見た。

 でも、たった1回だけ見た、立ち上がった彼は彼女の心から離れなかった。

 そして彼は勝った。

 その光は私までをも包み込んでいた。ビルとビルの間までも、まるで昼のような明るさになった。

 明智は暗闇の中で拳を握る。

 彼がやられそうになった時、私は見ることしかできなかった。

 怖くて前に出られなかった。

 そして彼は立ち向かった。

 その後、勝った。

 なぜか顔が熱い。劣等感や嫉妬もあった。他の感情もあったが、どんな風に表せばいいのか分からない。

 でも、それ以上にとてもワクワクした。

 そして、明智は思った。

シゲ盛(あのひと)は本当に世界を救えるのかもしれない』と。



 そして、明智は表情を変え、シゲ盛のところへ駆け寄った。


     ☆☆☆


 オレがトドメを刺したすぐ後、明智がオレのところへ駆け寄ってきた。

「お前いたのか?」

「なにか騒がしいからなんとなく来ただけよ」

 そんなことを言っているが、なぜか顔が赤い。

 そんなに走ったのか。素直じゃないな。

「それより、この人って死んだの?」

 明智が腕を組みながら周りを見ている。

 オレも周りを見てみると、街灯が全て割れていた。アスファルトも3メートルくらいえぐられていた。そんな中で男が倒れていた。

「いや、まだ生きている」

 だが、その男は傷だらけになっているが、呼吸はしているようだ。地面にうつ伏せになっている。

「おーい、生きてるかー」

 オレは男のところへ駆け寄り、声をかけると、男はすぐに目を覚ました。

 だが、その目はもう赤く光っていない。普通の人間の目だ。

「何でこんなことを?」

 オレは男に問いかける。男はもう襲ってこない。両腕をボロボロになった体の横に置き、両足は8の字に開いたままだ。

 それでも男は、オレの目を真っ直ぐ見て素直に質問に答えた。

「俺はな、元々いろんな国でボディービルのコンテストに出ていたボディービルダーだったんだ。まあ、結構肉体には自信があったって訳だ。

 そんな俺がコンテストのためにがアメリカにいた時だった。

 街中を歩いていると突然、鉄骨が落ちてきたんだ。

 鉄骨がもう俺の頭上に来ていた時、俺はとっさに思ったさ。もう死んじまうのかって。でも、俺は死んじゃいなかった。意識があったんだ。目を開けると、目の前に鉄骨が飛び散っていたんだ。俺は鉄骨をはね返していたんだ。その時、どっかの友人から聞いた話を思い出したんだ。『この世界には50人の特殊能力を持った人がいるらしい』って話をな」

 「ほう······」

 オレは、男のさっきの姿からは想像できない対応ぶりに少し驚きながら話を聞く。

 明智はポールに腰掛けながら黙って話を聞いている。


 男は話を続ける。

「俺はその話を聞いた時は馬鹿らしく思っていたんだ。でも、鉄骨をはね返した時に思ったんだ。『もしかして、俺って50人のうちの1人じゃないのか?』ってね。それから俺の性格は変わってしまったんだ。もしかしたら俺はその力だったら何でもできるんじゃないかってね。だから、残りの49人を倒そうって考えたんだ。そして日本に戻ってきた。そしたら君が見えたんだ。ひと目で分かったよ。だから君を襲った。最初の敵を、だ」


 人格までも変わってしまうのか······

 オレは少し恐怖を感じた。

 この男は能力に気づいていなかったら今頃何をしていたのだろう、とふと思う。

「もうちょっと話を――」

 オレがそう言いかけた時、男は謎の光に包まれていた。

 その光は夜の中、オレを照らしていた。

「もう俺は終わりみたいだな」

 男の姿はだんだん薄くなっていく。

「それってもうあなたは――」

「――またどこかで会えるといいな」

 男の姿はさらに薄くなっていく。

 明智がポールから立ち上がった。

「オレは……あなたを······」

 オレはなんて言えばいいのか必死に考える。

 オレは最低だ。こんなこと初めてだ。

 絶対に恨まれる。


 だが、オレの前の男の表情は違っていた。

 男の口角は上がっていたのだ。

「それで良かったんだ。俺の暴走を君が止めてくれた。君は俺を救ってくれたんだ。ありがとう」

 そして、オレと明智の見送る中、男の姿は無くなった。


 オレは誰もいない地面をずっと見ていた。

 言葉が出なかった。

 ただ『ありがとう』という言葉が心の中でこだましていた。

 あんなことしたのに何故······


 その沈黙を破ったのは明智だった。

 明智はオレに言った。

「あなたはこれでいいの。私も分からないけど······じきに分かると思う」

 意味が理解できなかった。

 明智はオレの目の前に腰掛けた。

「世界を救うのにも犠牲ってモノはつきものなの。誰も死なない、そんなことがあったらいいけど、そんなきれいに済む話じゃない。その覚悟はできてるでしょ?」

「ああ……でも······」

 もちろんできているつもりだった。でも、本当にこうなると心が痛い。

 明智はオレの横に落ちていた杖をオレに渡した。

「でも、多分あの人は大丈夫だと思う。またどこかで見かけるかもね」

「なんでそんなことが言えるんだ?」

 少し心が軽くなる。自然と立ち上がってしまった。

「そういうものなの。能力者は」

「なるほどね」

 オレより少し離れた所にある街灯が光った。

 この世界に50人。そんな数しかいない人達ってことはよっぽどのことなのか。脳天をぶち抜かれても生き残るほど。オレは再び考える。だから、オレもその中の1人としてやれることはやりたいと思う。

 だって今日は成長だってあった。なんと魔術が使えたのだ。あの火の玉が大きな魔力弾になったのだ。あの時のワクワクは生まれて1番だった。

 そう考えると何だか自信が湧いてきた。

「もう一度聞くわ。覚悟はできてるわよね?」

「ああ……もちろん!」

 なんだか不思議な夜だったが、空に浮かんでいる天体は相変わらずもっと不思議だ。

 夜の街はずれ、ボロボロになったオレたちとそのオレの周り。オレはそんな天体に風穴を空けるかのように拳を突き上げていた。


     ***

 夜中の暗闇からある男はその全貌を見ていた。

「·······シゲ盛くんか、なるほど」

 そんな中、イギリスにて1つの闇組織が完全崩壊した。ある男とその仲間たちの手によって。

読んでくださりありがとうございます

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