4_2話 2人の主人公
1月25日改稿完了しました。
目を開けたら、そこはベッドの上だった。
ヒラリとした白いカーテンの隙間からは朝日が漏れている。もう朝だ。
だが、ここはどこだ?
薄暗いオレの家ではない。
部屋全体まで陽の光が行き届いていて、それに白いシーツに布団、とても広い何も散らかっていない部屋。いい匂いもする。
そんなことを考えながら体を起こそうとした時、オレの体に、そして足に激痛が走った。
すると1人の少年がこちらに駆け寄ってきた。
「やっと起きたか。心配したよ」
その声は透き通るような声。
オレは顔を上げる。
純色の黒髪。紫の瞳、アメジストのようだ。そして、どこかで見たようなパーフェクトの顔立ち。
わーお、今まで見てきた人の中で一番イケメンだ。
「······政田」
確か前にオレに挨拶してきたヤツだ。
学校で有名なので名前は知っている。
オレを助けてくれたのかな。
ここで皆は違和感を感じるだろう。声に出す言葉と思っている言葉が全然違う、と。
これはオレの極度の人見知りのせいで、初対面の人には素っ気ない言葉しか口に出せないのである。
なので礼が言えない。声が出ないのだ。
それに、手足がブルブルと震えている。
いつもこうだ。そのせいでみんなはオレの周りから遠ざかっていった。
本当はしっかりと礼が言いたいのに。
☆☆☆
まだ緊張しているのかな。
気づいたら、あんな屋外で倒れていたから取り敢えず家に運んで手当はしたけど······めっちゃ人見知りだな。
よし! お腹空いてそうだし、ご飯作るか。
まずは胃袋から緊張をほぐさないとな。
☆☆☆
少しすると、オレの所に料理が運ばれてきた。
同時に美味しそうな香りが辺りに漂った。
こ、これは······!
豪華に盛られた海老と野菜たち、思わずヨダレが出るほどいい香りがするスープ……
--パエリアだ!
「食材が余ってたから作ってみた。さあ、召し上がれ」
かなり上手にできている。とりあえず見栄えは合格だ。
「いただきます」
オレはパエリアを1口食べる。
「·······!」
これは……!
プリプリした食感の海老、丁度いい硬さに茹でられた野菜たち、そしてスープとお米が絶妙なバランスで混ざりあって、料理にかなりの自信を持つオレでもこれは評価できる。
すげぇ······
この人、料理も完璧かよ。
3分後、オレは目の前の料理を全て食べて尽くしていた。
「ごちそうさまでした」
オレは手を合わせる。こういうことはしっかりと言える。
「お粗末さまでした」
政田はそう言うと、にこやかに皿を持って行った。
海老達よ、満腹を、ありがとう。
政田は一通りの皿洗いを終えると、オレのところへ歩いて来て、そしてゆっくりと腰を降ろした。
「足はどうかな? まだ痛くない?」
そんな優しい顔から足に視線を落とすと、白くて綺麗な包帯が巻かれていた。
きつくもなく緩くもない丁度いい強さだ。
「······大丈夫」
だがやはり上手く声が出ない。
本当はこんな親切にしてくれて感謝の気持ちでいっぱいだ。だが、口で出る言葉はまるで感謝なんてしていないような言葉だ。
今になって本当に悔しい。オレが心を閉ざしてきたせいで、せっかくできそうだった友達もできなかった。
やっぱりこの人もオレから遠ざかるのだろう。
しかも、今回はオレの秘密を見られている。夜に短剣を振るい、何頭もの首を切り落とすような姿のオレである。
明日になれば学校で殺人鬼呼ばわりされるのかな······
本当はもっと仲良くしたかったのに……
そして、沈黙が流れた--………………
--その沈黙を破ったのは政田だった。
「別に誰にも言わないから大丈夫だよ」
「·····!」
オレは驚いた。
それはいきなりの言葉だったのも事実だが、それよりももっと大きい理由があった。
--何も言っていないのに、なんで分かった······?
そう、コイツはオレから遠ざかっていたやつとは違うかったのである。
「······お、オレは……」
オレから遠ざかる奴らを普通と思っていたオレにとっては本当にどうしていいか分からない。
「別に今は焦って話さなくていいよ。またゆっくりと話は聞くよ」
そして、政田はオレに微笑みかけた。
こんな言葉初めて聞いた。それに、最初から彼に抵抗がなかったことが不思議だった。まるで魔法のようだ。
すると自然と口が開いていた。
「……ど、どうも………ありがとう······って、あれ?」
だが、政田はぐっすり眠っていた。
その目の下にはクマができていた。
もしかして――
オレは足に視線を移す。
まだ白い包帯。普通、包帯はずっと白い訳が無い。オレなんか出血してたのだから尚更だ。これはまさか······
床にはレシートが落ちていた。
そこには、海老や野菜などの食材が購入されていることがわかる。
コイツ、夜中じゅう、ずっと······オレのことを――
「ありがとうな······」
オレは自然に目の前の少年に礼を言っていた。
あと、ずっと気になっていたことがある。
なんか、この家、ゲーム機が多いな。
☆☆☆
目を覚ます。どうやら寝てしまっていたようだ。
陣田くんは……どうやら寝ているようだ。
起こさないようにしないとな。
「······暇だな」
それにしても何もやることがない。
床の上に大の字になる。
宿題は終わらせたし、掃除は昨日したし、ご飯を作るにはまだ早い。
ただ時計の針の音が聞こえる。
それなら――
「さあ、やるか」
ボクは起き上がり、日の沈み欠けた時間帯の中、ボタンを押す。
トップゲーマー政田 鷹留、ゲーム、始めます。
☆☆☆
目を覚ます。オレも寝ていたようだ――
「――は!?」
目を開けた途端、オレは体が跳ね起きてしまった。
「起きたか。陣田くんもゲームやる?」
それは想像なんて到底できなかったこと、いつも冷静なオレの中で天変地異が起こる程である。
政田がコントローラーを握ってゲームをやっていたのだ。
ふぅん······政田もゲームってやるんだ。
ん? てか、ゲーム······ゲーム? ゲーム!? ゲームだと!?
するとだんだん、オレのゲーム魂に火がついていく。
「やってやろうじゃねえか!!」
気づくとオレは、がっちりと握られた握りこぶしと共に大声を出していた。
やべ、ちょっとガチになりすぎたか。
ゲームに対する愛情と情熱が、オレの声帯を震わせたのである。
政田もちょっと引いてる--ってあれ?
「じゃあ、対戦でもやるか!!」
政田もなんか燃えてる!!
オレのゲームの腕は学校でも知られている。
だって世界8位だもの。
そんなオレに勝負を挑もうとは、なかなかの度胸だな!
だがな、千年早ぇんだよ!!
「絶対に勝つ!」
11時間くらい前の和やかなムードから一変、
なんかめっちゃ熱いムードになった。
火事にならないか心配だ。
対戦するゲームは『大格闘スラッシュシスターズ』だ。
このゲームは格ゲーで世界でもかなりの人気 があり、オンラインでも対戦できるので、ゲーム機とソフトさえあればいつでもプレイ できる。オレは通算500勝8敗で、ネットでは『チーターもどき』とも言われている。
だって、世界8位のゲーマーだからな。
オレたちはキャラを選択する。
政田が選んだのは、ニンニンというキャラ。
素早い攻撃が可能だが、攻撃力は低い。
オレが選んだのは、タイタンというキャラ。
素早くはないが、攻撃力は高い。
オレはどちらかと言うと、ゴリ押し系なので、このキャラを好んで使う。
「タイタンか、ゴリ押し系だな」
キャラだけでオレの特性を見抜く政田。
これはガチ勢の証、こいつ、なかなかやりこんでいるな。
「絶対にオレが勝ってやる!!」
「それはこっちのセリフだ!!」
そして、『GAME START』のボタンを押した。
戦闘開始。
互いに5機を先に倒した方が勝ちというルール。
オレは先制攻撃をする。
大体のやつはここで沈むが……
「くっ·····素早い!」
政田はその攻撃を見事にかわした。
この瞬発力……コイツ、なかなか実力がある。
そして、政田の攻撃。ニンジャは手裏剣を飛ばしてきた。
攻撃が素早い。
だが、オレは攻撃を全てガードしきる。
「なかなかやるね」
「そっちこそ、なかなか強いな!」
よし、それなら――
オレは、上、上、下、右、上斜め左、下、左、そしてAボタンの裏ワザを発動した。
この技なら、殺れるか?
こうして、互角の戦いが続いた。
……30分後、勝負が決まった。
互いに最後の1機になる大接戦だった。
そして勝ったのは-------政田だった。
オレは敗北を喫したのだ。
「なかなか強かったね。さすが世界8位のゲーマー、SGMだな」
政田は、手をパチパチとたたく。
「えっ、オレのこと知ってたのか?」
「うん。有名だからね」
知ってた上で勝負を仕掛けたのか。
それで、勝った。一体どういうことなんだ? その自信はどこから?
「じゃあなんでオレに勝てたんだ? 世界8位に」
すると、政田は不敵に微笑んだ。
「それは、順位がボクより低いからかな」
「それって、どういう事だ?」
「ボクの名前はMNDだ。よろしく」
「え?」
そいつって、確か日本で1位、世界でも1位の伝説のゲーマー、ゲーム界では『神様』と呼ばれるヤツじゃないのか?
それって、まさか、マジで?
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
好きだった女の子が、実はオトコの娘だったとか、宝くじの1等が当たったとか、そんな次元の話ではない。
オレは人生で1番叫んだ。声帯が潰れるほどに。
☆☆☆
勝ったけれど今までで一番の手応えだった。
1機すら今まで誰にも取られたことなかったのに。
まあ、勝ったんだが。
でも彼、かなりの自信があったみたいだから、かなりショックだったかな?
そう思い、謝ろうとした時……
「まだまだ勝負だ!」
心が折れていたと思っていたが、その少年は諦めなんぞしなかった。
なるほど、さすがは世界8位のゲーマーだ。根が普通の人とは違う!
ボクは久しぶりに心が燃える。
「面白い。いくらでもかかってこい!!」
☆☆☆
どれくらい経っただろう。何十回も対戦した。まあ、どれも完敗だったけど。
でも、まだまだ無限にやれる!
「まだまだ!」
「こっちこそ!」
熱い。久しぶりに心が燃える。
その時--
「「グゥゥゥゥ……」」
二人の腹が同時に鳴った。
時計を見ると、もう午後8時だ。お外は真っ暗だ。
「ご飯食べていくか?」
「今度はオレが作るよ」
いつまでもお世話になると悪い。
冷蔵庫を覗く。卵、白飯、野菜······
よし! あれ作るか!
オレは手馴れた手つきで調理する。
……そして20分後
「さあ、できたぞ」
「おぉ、これはなかなか」
オレが作ったものは雑炊。
ご飯に卵をおとして、野菜を加えて後は鍋で煮るだけ。簡単にできる。
「「いただきます」」
オレ達は手を合わせる。そして、食べる。
「うん、よかった。うまい」
ご飯を卵が包み込むような感じで、
それに、野菜もマッチしていていい味だ。
我ながらよくできた。
「これ、すごく美味しいな」
政田も満足してくれたようだ。
おかげで5分で完食してしまった。
「「ごちそうさまでした」」
オレ達は手を合わせる。
って、ん? 何か忘れている。
あっ、魔獣狩り!
時刻は8時半。まだ間に合う。
「じゃあ、今日はこれで帰るわ」
オレは急いで帰る用意をする。
帰り際、政田が言った。
「今日は楽しかったよ。ありがとう」
こんなことを言われたのは初めてだ。
それに、気がついたら普通に話せるようになっていた。
不思議なもんだな、ホントに······
「こちらこそありがとう。またな!」
そして、オレは家を去った。
やっとちゃんと言えた。
☆☆☆
片付けをしながら、ボクは思った。
「陣田くんとは気が合いそうだな。人は、第一印象だけじゃないだってことだね」
政田は気付かぬうちに、少し笑顔になっていた。
☆☆☆
夜の道を走りながら、オレは思った。
あいつ、いいヤツだったな。
シゲ盛も気付かぬうちに、少し笑顔になっていた。
読んでくれてありがとうございます