3話 もう1人の主人公
1月18日改稿完了しました。
朝、目を覚ます。
ベールのようなカーテンから微かに漏れる朝日が眩しい。
洗面所へ行き、顔を洗う。
少し冷たい冷水が寝ぼけた意識をシャキッとさせる。
7時17分。少し明るめのキッチン。
まだ時間がある。今日の朝ご飯は少し凝ってみるか。昨日仕込んでおいたパンに牛乳に砂糖、卵を染み込ませたものをフライパンに乗せて、焼く。甘い香りが食欲を増加させる。
5、6分焼いて完成。フレンチトーストだ。
マグカップに牛乳を入れて、パンを皿に乗せて、ボクは体の前で手を合わせて「いただきます」を言う。
パンにかぶりつく。まるで空に浮かんでいる雲のようにふわふわとしたパンに甘さががベストマッチしていて、とても美味い。
「ごちそうさま」を言い、皿とマグカップを洗い、制服を来て、カバンを取りに行く。
その時
「たかるー学校行くぞー」
家の外から元気な声が聞こえる。
丁度いいタイミングだ。
ボクは外に出て、そいつと合流する。
「おはよう! さあ、学校行くか!」
ボクの朝は、こうして始まる。
☆☆☆
「あっ、政田くんだ!!」
「モデルさんみたい!」
「うんうん! それに、とっても優しいんだ!」
「そうなの!?」
「うん! 前ね、つまづきそうになったらサッっと体を支えてくれたんだよ!」
「いいなぁ〜もう、ドキドキしちゃう」
「もしかして、政田くんのこと好きになっちゃったりして!?」
「キャー!! 聞こえるって!」
朝8時、彼が朝日に照らされた校門を通ると、アイドルが来たような騒ぎになる。
コイツの名前は政田鷹留、俺の友達だ。
たかるは勉強ができて、スポーツができて、優しくて、それにめっちゃイケメンで、教室に行くまで皆がこっちを見ていて俺まで恥ずかしい。どんな女子も虜にするその甘いマスクは、まさに、『俳優やってても違和感なくね!?』くらいのレベルである。お陰で、通るだけでキャーキャー騒ぎで、めっちゃ目線が集まる。横にいる俺まで緊張してしまう······。
あぁ、どうでもいいが、俺の名前は矢嶋悠樹、野球部員。普通といってほど普通な男だ。強いて言うなら、野球が得意だ。イメージとしては、ずっと政田の隣にいるやつって感じか。
☆☆☆
1時間目、全教科テスト返し。
昨日の中間考査のテスト返しだ。
この国枝高校は、授業をテスト返しで潰されるのが嫌なようで、テストは1時間で全部返され、その日に順位表が掲示される。だから、みんなは1時間で一喜一憂するらしい。
「政田、やっぱりすごいな!」
テストを返される時、先生からそんなコメントを貰う。まあ、点数は把握できた。
「今回のテスト、すごく難しかったね!」
「わたし、ギリギリ赤点回避〜〜!」
「やべぇ! 俺、親に怒られるよ!」
「俺は60点も取ったんだぞ〜」
「まじかよ、頭良すぎだろ」
そんな会話が聞こえる。隣で矢嶋がめっちゃ傷ついてる。そんなにテスト難しかったんだな。
「大丈夫? 矢嶋。なんか死にそうな顔になってるけど」
矢嶋は涙を堪えながらボソボソと口を開く。
「俺……俺……90点だった······」
大きな三白眼にだんだん涙が溜まっていく。この涙は嬉し涙だろうか。
「えっ、点数いいじゃん」
「5計が……」
「あっ·····」
遂に矢嶋は、短い髪の頭を抱え込んでしまった。
「俺……留年かな……」
このままでは矢嶋の心に大きな傷がついてしまう。とりあえず慰めよう。
「そんなことないって、今回は難しかっただけだって! 別に落ち込む必要はないよ」
「オマエ……本当に優しいな………」
やっとのことで矢嶋の涙が別の涙に変わった。矢嶋さん、涙脆すぎです。
まあ、これは止めないでおこう。
「それで、お前の点数はどうなんだ?」
涙を拭いた矢嶋。
自分の答案と照らし合わせながらボクのテストの答案を見ている。
「100……100……100······って、お前全部100点かよ!!」
矢嶋のめっちゃデカい声が教室に響き渡る。デカすぎて少しエコーしている。
そしたら、急に教室中が騒がしくなる。
「まじかよ!? また100点って······」
「さすが政田だな」
「今回めっちゃ難しかったのに」
「点数も完璧かよ」
視線が一斉にこっちに集まる。
なんか、めっちゃ恥ずかしいんだけど······
「お前、なんでいつもこうなんだ!?」
矢嶋は机をドンドン叩きながら声を大にする。
とりあえず落ち着かせよう。
「ヤマが当たっただけだって! マジで」
すると、矢嶋は急に引き締まった表情になった。
「お前、入学した後のテストからずっとヤマが当たってるのか?」
「まあ、そうかな……」
自分、目がスイスイ泳いじゃってます。太平洋も横断できそうだ。
「謙虚なところもいいよね〜」
「うん! もっと自慢すればいいのに」
そんな声が聞こえる。
なんかとても恥ずかしい。
矢嶋は怒っているのか嫉妬しているのか分からない複雑な表情でこっちを見ている。
そして、そんな雰囲気の中、チャイムが鳴った。
太陽は少しずつ西に移動しながらボクたちを照らす。
この席、窓際だから暑いんだよな······
2時間目、体育のテスト
『政田すごいな! お前、県の新記録だぞ!』
3時間目、音楽
『政田くん、先生、指ケガしちゃったから、ピアノ頼むわー』
4時間目、美術
『この絵は……! モナ・リザを超えている!?』
5時間目、英語
『Are you a foreigner?』
(君って、外国人?)
6時間目、家庭科
『えっ、政田くん、もう服作ったの!? しかも、すごくデザインがいい! 売り物に出してもいいかな?』
***
そして放課後、ボクたちは帰りの廊下を歩いている。
「お前って、なんでもできるよな……」
窓の外を見ながらプラプラと歩く矢嶋。
朝よりは落ち着いた口調だ。
「そんなことないって!」
「お前にできないことってあるのか?」
「うーん」
ここで突然のquestion。
ここで上手く答えることができたら、少し傷ついたと思われる矢嶋の心を、少し癒すことができるのでは!?
「ほら、ないじゃん。お前ってすごいな」
このまま黙っていれば必然的に「Yes」という答えになってしまう。何か答えなければ。
ボクは考えを巡らす。
何かいい答えを――――!
そして、ボクはベストアンサーに辿り着く。
これこそが、最善手。これが、矢嶋の傷ついた心を癒す最善の答えだ!!
「······エラ呼吸とか?」
「それは誰にも出来んわ!! むしろ、してたらキモイわ!!」
あら、失敗。次はがんばろう。
とかなんとかしながら順位表の紙の前を通る。
1日で順位表を作り上げる学校さんはなかなか大変そうだ。
そして、ちらっと表を見る。
まあ、いつもの事だが、1、2、3位の点数がかけ離れている。ひとつ前のテストで知ったことだが、学校では『3強』と呼ばれているらしい。
「やっぱりお前ってすごいな」
矢嶋はポカーンと口を開けている。
「別に、そんなことないって!」
「俺なんか………」
そう言いながら、矢嶋の目線は徐々に下に落ちる。
そして、紙の下ら辺を指さした。
「ワースト2位だぞ……」
「つ、次は頑張れるよ……」
こういう時どうすればいいかはどんなに勉強しても分からない。
その時
「あっ、陣田だ······」
「暗いよねぇ」
「なんか超絶のオタクらしいよ」
「えーまじぃ~」
「キモイね」
周囲からそんな声がする中……
向こうからくる少年。メガネをかけていて、黒い前髪は純黒の目を覆うくらいの長さで、表情は暗い。
彼から放たれる負のダークオーラはボクでも肌で感じられる程だ。
ポケ〇ンでいうと、ダーク〇イみたいだ。
差しかかる3時の太陽の光をも暗く染め上げてしまうような、そんな感じだ。明るかったはずの廊下が突然暗くなったように感じた。
その少年は、順位表の前で立ち止まり、順位を確認し、再び歩き始める。
無表情で、無言で。
--この人は……
その時、ボクと彼の目が合う。
というか、向こうがこっちを見てきた。
「あっ、こんにちは」
「·······」
取り敢えず挨拶をしたが、向こうは無反応。
そして、そのまま歩き去っていった。
「なんだよあいつ!! 無視とか酷すぎだろ!」
何故か矢嶋がモーレツに怒っている。
「何か事情があるんじゃない?」
あの人がひとえに、1度も喋ったことの無いボクを無視するとは考えられない。何か事情があるはずだ。
「お前って本当に優しいな……」
「別に、普通だよー」
矢嶋は再び明るくなったような空を見た。
「あいつ、前も俺を無視したんだ」
「そうなんだ」
矢嶋によると、放課後に一緒に「一緒に帰ろうぜ!」と誘ったら無視されたらしい。
しかし、特定の人には普通に話したりしているらしい。
「でも、なんか悪い人ではなさそうな気がするんだよね」
「えっ、なんでだよ?」
「うーん、何となくかな!」
気づいたら、廊下にはいつものような明るさが戻っていた。
そんな廊下を通り、ボク達は帰宅した。
「ただいま〜」
ボクの声が家中に響き渡る。
しかし、何も返事はない。
ボクは、高校一年生から一人暮らしをしている。ボクの15歳の誕生日プレゼントが一軒家だったからだ。これは親の方針で、『可愛い子には旅をさせよ』、そんな意味があっての事らしい。
鍵を閉め、カバンを置いて、制服を脱いで、カーテンを閉めて、
「さあ、今日も始めるか!」
パソコンの電源を入れる。
えっ、なんでだって?
なぜならば--
外では誰にも優しい模範少年、だと思うじゃん?
でも、家では世界を駆けるゲーマーなのだ。
まあそれもただのゲーマーじゃなくて、 特に、ハマっているMMORPGでは、高校2年にして国内のランキングが1位、世界でも1位である。MMORPGとはどんな時間でも1万人以上の人がプレイしている人気のゲームの郡である
暗い部屋の中、パソコンだけが光っている。
「む!? なんだって? 緊急クエストだと!? これは最速攻略しなくては!」
***
「はぁぁ、一通り終わったぁ〜」
気づいたらまだ明るかった青の空も、もうすっかり太陽がいなくなり黒になっていた。
午後11時、もうお眠のじかんだ。
パソコンの電源を切り、部屋の電気をつける。
「夜ご飯作るのダルいな〜今日はコンビニ食でいいか……」
そう言って冷蔵庫を開ける。
だが
「なん······だと······」
冷蔵庫にあったものは、お茶、氷、卵、ジュース。
「はぁ、買いに行くか……」
ボクは靴を履いて、財布を持って外に出る。
辺りは閑静としていて、かなり暗い。が、まだ行ける。
そうして、ボクは駆け足でコンビニに向かった。
「ありがとうございましたー」
コンビニで取り敢えず1週間分の食糧とおやつを買い終えた。
財布をの中身を確認する。
出費は2万3千925円。高いな。でも、毎月親から振り込みが来るし、ゲーム大会で貰った優勝賞金があるから大丈夫だろう。
歩き慣れた道路を歩く。
別に目を瞑ってても歩けるんだが、それは危ないのでよしておこう。
こう見てみると、いろんなものが見えてくる。
電気がついている家庭、おそらく食事中なのだろう。一家団欒の家族の笑い声が聞こえる。
電気が消えている家庭も多い。おやすみなさい。
喘ぎ声が聞こえる家庭もある。一体ナニをしているのだろう……?
虫の声、犬の遠吠え。
みんなが揃って『夜』というものを作り上げている。
ボクは夜空を見上げる。暗くなった空向けてに拳を突き上げる。なんだか力がみなぎってきた。
「明日も一日頑張るか!!」
その後、ボクはとんでもないことを見る。
家まであと500メールくらいのところだった。
そこで、ある光景が目に入った。
短剣を振り回している少年。
その先には狼がいる。
その縦横と振るわれた短剣は、吠える狼の息の根すらも狩り取ってしまうように狼を仕留めた。
だが、その少年はどこかで見たことのあるような、ないような······
前髪は左右に分けられていて、メガネ等はかけておらず、表情はとても明るいように見える。
だが、夜闇の中、月の光で輝く純黒の瞳でボクはその人が誰なのかがはっきりと分かった。
「陣田くん――」