34話 おかわり!←もういらないです
学校忙しいナリ
あぁ、話すだけでも情けなかった。「話し終えたら気分スッキリー!」とかそういうのを想像していたのに、逆に話したせいで傷口に塩を塗る羽目になってしまった。
政田は反応に困っているみたいで苦笑いをしている。対してオレは自分への失笑だ。
1時間前のオレはスキップをしていたのに、今のオレは足を引きずって歩いている。気分転換に顔でも洗ってこよう。
「政田ー、洗面所とタオル借りるわ」
「どうぞご自由にー」
それにしても、シャワーの音が聞こえなくなったなぁ……
それにしても、政田の家はヤケに広い。リビングを出て、廊下を少し歩いて左に行くと洗面所及び風呂場があるのだが、その間にドアが半開きの部屋が2つある。覗いてみると、1つは図書館のように本が並べられた書斎でもうひとつはダンボールが積まれているあたり、物置部屋だろう。それに行ったことはないが2階まである。掃除機をかけると30分くらいでキレイになるオレの家と大違いだ。
洗面場の位置はすぐにわかった。洗面所のドアが他の部屋のドアと違って横に開くタイプだったからである。他のドアにはドアノブがついているが、このドアは金具で窪みが作られているという点がちょっとした見分け方である。
その窪みに手を入れ、左に思い切りドアをスライドする。ドアは勢いよく左に開き、そして端にあたって余韻を残して少し跳ね返る。
だがオレはその時、あの電話の時と同じくこれまた重大なミスを冒していたのである。
「う、うぉぉ……」
――ドアを開けると、そこは異世界だった。
そこは雲の中で、オレの頭部から足部にかけて雲がオレを包み込んでいる。また、何処かの森からだろうか、美味しそうな木の実のような匂いがオレの嗅覚を刺激している。
段々と暖気がオレの方へ押し寄せてきた。まるで誰かの抱擁のようにその温かさはすぐにオレを覆った。
――コトン、コトン……
そんな世界に小さな足音が聞こえた。
どこかの妖精さんだろうか、まん丸とした大きな瞳はオレをその潤いの中に映し出している。
目線を下げると、曲線美と言うべきだろうか、滑らかな曲線の内に少し赤がかった肌色が描き出されている。
その妖精は恥ずかしがる気配もなく、そこにタオルなどはない。目に浮かぶのは、これから成長するであろうほんの少しだけ膨らんだ胸、胸下の線を辿って視線を下にしていくと、臍があり、そのまた下を辿ると--
「……ないっ!?--」
これは夢だろうか、辺りに漂う雲がオレを包み込んで……!
――グキっ!
いつの間にかオレは雲から落ちたのだろうか、地面に顔を強く打ち付けていたようで、気づくと――
「何やってるの?」
――現実世界で明智に顔面を踏まれていた。
「うっ! 何やってるんだ明智!?」
こちらを見下ろす目は、まるで夏の終わりの死んだセミを見るような目だ。
「幼女の裸を見た野郎が何ほざいてるの? 控えめに言ってキモイわよ」
「それは……」
また反論ができない。ここで何も言わないのも手だが、今回はそれができない。
--このままでは……オレの命が危ない……!
今のオレはSM嬢明智様に顔面を踏んづけられている。こいつはバリバリの能力者、パワーも普通の人より遥かに大きい。
「何? 反論も出来ないの? やっぱり変態なのね……」
遂にゲンメツされてしまった。くそぉ! 何かいい手は……!
「とりあえずその足を離せ! このままだと死んじゃう!!」
「変態はここで抹殺されるのが常識でしょ?」
「そんな暴論--」
――コロンコロン……
その時、一気に沈黙が訪れた。それはオレの会話を遮り、その場に大きく居座った。
だがその沈黙は、よりによって最悪のタイミングである今に来てしまった。そう、今以外なら最高のタイミングだったのに……
白いふわふわした布に、うさぎさん、くまさんといった動物の柄のプリントが刺繍されている。
また、ほのかに甘い香りが漂っている。
これでノルマ達成、オレのラッキースケベは捨てたもんじゃなかった。
「お前、かわいいパンツはいてたんだな……」
その時、足が離れる。
やっと解放されたのだろうか?
前を見ると、明智はカバンから棍棒を取り出している。
そう、これは解放ではなく、踏んづけ以上の更なる苦しみ、そしてオレの死亡確定演出だったのである。
「えぇと、この棍棒って魔獣に使うヤツじゃ……」
弁明してみるももうすでに時遅し。明智の背後からはゴォゴォと黒い炎が見える。
「ここにいるじゃない……! 変態という野獣がッ!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
その悲鳴は、外にいるカラスを数十羽羽ばたかせたとか。
☆☆☆
淹れたてのコーヒーを飲みながら、ボクは風呂場の喧騒に耳を傾ける。
「うん、なんだか楽しそうだな……」
もちろん政田は、その風呂場でシゲ盛の処刑が行われていることなんて知るわけが無い。
一体シゲ盛はどうなってしまったのだろうか--
それは皆様のご想像にお任せします。




