33話 エロ本談義with明智
見事、明智にパンツ含め衣類を持ってきてもらうことになったシゲ盛だが……!
『切ったらどうなるか分かってるでしょうね?』
行動が読まれているようだ。電話越しからも十分、ていうか余るほどの恐怖が感じられる。
表の攻撃、オレは明智にパンツ含めた衣類を持ってきてもらう、という頼みを通した。これにより、明智のことだろうから極限にオレを警戒するつもりだろうが、パンツを見られる可能性はゼロではなくなった。
「ど……どうしたんだ一体?」
緊張を隠そうとするも、俳優のようには上手くはいかない。
『ちょっと質問に答えてもらおうかしら。私は頼みを聞いてあげたんだし、いいわよね?』
そして裏の守備である。このまま電話を切るつもりだったオレにとって、まさに想定外の出来事だった。だが、冷静に考えてみればそりゃそうだ。向こうの頼みを聞いたのなら、等価交換としてこちらの頼みも聞いてもらうのが普通、負けず嫌いの明智なら尚更、必ず聞き返しが来るなんてすぐに分かっていたはずである。
――やっちった……
観察眼が性欲によって曇っていたのが事実だろう、オレの想定していたシナリオでは、もうここは終わっている部分なのである。
明智ならそこにつけ込んで猛攻を加えてくることなんてすぐに分かる。詰めの甘さが実質的敗北を呼んだのかもしれない。
つまり、明智の弱点“少女の悲しいシチュエーション”のようにオレの弱点“交換条件”を出されているのである。
「あぁ、どうしたんだ?」
できるだけ平然を装おうとするが。あまり効果がない。
――明智のペースに持ち込まれたんですね、分かります。
ここから恐らく、パンツを持ってくる級の無理強いをオレにするのだろう。
『実は少し前、えーっと3ヶ月前くらいね……』
だが、その考えはまた間違えていた。オレの想定していた展開よりも更に酷かったのである。
『あなたのお家にお邪魔させてもらったでしょ? いわゆる勉強会ってやつね。その時にね……』
「……!」
ゆっくりとした明智の話のうちに、オレの顔の青ざめは徐々に進んでおり、この時すでに、オレの真っ青顔が完成していた。
あまりの手汗の量にスマホを落としそうになる。もうスマホを耳に近づけることができない。
それは3ヶ月前、新学年での課題テストのための勉強を明智とすることになった時のことだ。この頃のことはしっかりと覚えている。それは明智が帰った後の時である。オレはその日、重大なミスを冒していたことに気づいたのだ。
それは、『ベッドの下で……』
なんとオレの心の声と明智の声が重なる。
『……エロ本、見つけたのよ』
そんな声が聞こえているスマホは、すでにアスファルトの上に落ちていた。
そのエロ本はジジイに借りたもので、一人暮らしだが、さすがに部屋に置いておくとマズいということでベッドの下に隠していたものだった。そして明智が家に来る時、簡単に部屋は片付けたものの、少し日が経っていたせいか、片付けるのを忘れてしまい、明智に発見されていたのである。
「……はい」
オレだってメンタルはある程度あるし、簡単なことで動揺などしない。だがそんなオレが一瞬で、只今絶賛地面に膝立て中になっている。
幼なじみの女子に、部屋にある単なるエロ本を見つけられるのも中々相当なことだが、正直、オレはそれくらいでこんな姿になることはない。せめて頭を下げるくらいだ。そう、それに加えて更なる理由があるのだ。
『分かってるでしょうね……あんなにたくさん――』
「……分かってます」
そう、ジジイに借りたのは単なるエロ本ではなく、三束にまとめられたエロ本たちだったのだ。
当たり前のことだが、束のエロ本を見て引かない人はいない。しかもオレはまだ17歳、この年で束はやばい。しかも見られたのがあの明智、場合によってはオレ=エロ本のイメージが定着しかねない程の影響力を持つ明智である。なので、さすがのオレでも頭が上がらないのである。
「すみません……つい出来心で……」
『……捨てたの?』
「……はい、魔術で焼きました」
『……――』
気づくと電話は切れていて、延々と電子音が繰り返されていた。
「おかぁさん、あのおにーちゃんなにしてるのー?」
「こら、見ちゃいけません!」
まるで甲子園のサイレンのようにカラスが鳴く。
オレは、サヨナラ満塁ホームランを打たれ、無残にマウンドから散ったのであった。
それが今回限りではないことも知らずに――
次回、ラッキースケベ丸




