32話 幼女が家に「神は細部に宿る。見えないものほど興奮するものなのだ!」Byシゲ盛
少し間が空いたので一応解説。
結局政田は少女を家に連れて帰ることに、ついでにシゲ盛も同伴することになる。
少女と政田が仲良く帰る中、実はシゲ盛は……!
今回は主にシゲ盛視点が多くなります。
家に帰るとすぐにお風呂を沸かし、幼女を風呂場に連れていった。さすがに服は自分で脱げるようで、少しすると風呂場のドアが開く音が聞こえた。
そして今、ボクたちはリビングでくつろいでいる。なぜだか家に帰ると一気に緊張が解れたような気がして、そしてどっと疲れが押し寄せた。そのせいでボクたちは、傍から見るとリビングに寄生するメタ〇ンとぐで〇まのようになっている。
風呂場からはシャワーの流水音と楽しそうな鼻歌が聞こえる。
しばらくするとシゲ盛くんはゆっくりと体を起こした。
「あ、そうだ。明智に連絡入れといた」
ボクも体をゆっくりと起こす。
「なんで明智さん?」
するとシゲ盛くんは、何故かボクから目を逸らし、どこか恥ずかしそうにモゾモゾし始めた。
「い、いやぁ、思ったんだ……あの子って……あんなボロボロな格好だっただろ?」
「うん……?」
「それならさ……替えの服とか必要だろ?」
「あぁ、なるほどね」
言われてみればそうだ。あの子の着るもの履くもの共に、ボロボロと言うには充分すぎる格好だった。だから明智さんに子供の頃の服を持ってきてもらえないか頼んだということだろうか。
でも、それならなんで恥ずかしそうにしているのだろうか。
シゲ盛くんを見ると、何故か机の上で肘をついて鼻から下を隠している。サングラスをかけると完全に碇ゲ〇ドウだ。
「特に……パンツ」
「……パンツ?」
ボクは一瞬、その三文字に戸惑いを隠せなかったが、時間が経つにつれてだんだんと理解が進む。
確かに、女子の生理的環境においてパンツ、統括して下着というものは重要だ。でも、それならなぜ堂々と言わないのだろう。今の時代、男子同士の会話では普通に言えるようなことだろうに。
――ということは……!
「……それは本当にお疲れ様だね……」
「……あぁ、本当にそれだよ」
どうやら察しが当たったようだ。でも言えるだけですごいとは思う。幼なじみとはいえ、パンツを持ってくるように要求するのは。さすが幼なじみの絆である。
まあ気まずくなったことは安易に想像できる。シゲ盛くんを見るあたり、なるべくこれ以上は記憶を掘り返さないようにしよう。
「それで……結果はどうだった?」
するとシゲ盛くんは、腕を解いて顔を上げた。
「もちろん、快諾さ……」
☆☆☆
嘘である。
このオレ、陣田シゲ盛は明智にパンツ、統括して下着を持ってきてはもらえるようになったのだが決して快諾ではなかった。政田に幼なじみの絆という謎の見せつけをしたいがために嘘をついたのである。
***
それは政田が少女と手を繋いで帰っていた時である。
その2人の少し後ろで歩いていたオレは、少女の服を見るなり、この子はこのボロボロの服1着しか持っていないことに気づいた。
一夜泊めてあげるとはいえ、この服のままだとあまりにもかわいそうだ。何かこの子に着せる服は無いのだろうか。
政田の家にはもちろん女の子用の服なんてあるわけない。逆にあったらそれはそれでヤバイ。だとすると買いに行くのが手段としてはある。だが、そうなると服屋、この近くだとデパートまであの格好でいなくてはならない。
そうなると、政田の家に誰かが服を持ってきてもらうしか方法はない。
持ってきてもらう服は子供服なので、幼女という条件では神社のあの獣耳幼女が共通である。しかし、あのネコは1回会ったきりだし、その1回も噛まれて終わりだった。
だとすれば女子の友達の子供の時の服を持ってきてもらうしか方法がない。しかしオレには女子の友達が全くいない。オレと特別親しくて、気が置けない仲だといえるのは……
ここはもう明智に頼むしかない。
オレはスマホを取り出し、明智にLINE電話をかける。
数秒後、カチャっと電話が繋がる音がした。
『もしもし、どうしたの?』
電話越しに凛としたいつもの声が聞こえる。周りの音が聞こえないあたり、どうやら家にいるらしい。
「あの、ちょっと頼みごと……あんだけどさ」
電話での会話に慣れていないせいで謎に緊張してしまい、まるで友達に借金するヤツの口調みたいになってしまった。
『それで?』
おかげで明智の声が少し曇った。電話越しからでも明智の怪訝な表情が伺える。
「実はさ――」
とりあえず政田から聞いた話をそのまま明智に言う。明智はそのオレの話を、所々に『ふーん』と相槌をつきながら聞いていた。
そして少し経ち、オレが話を終えた時にはオレたちはもう政田の家の近くまで来ていた。
『――それで、頼みってのは何?』
「お前ん家から服持ってこれないか? 子供服とか」
『そうね……』
少し間が開く。服を持って行こうか行かないか、もしくはどうすればさっさと電話を切ることができるか、何を考えているのは分からないが、相当悩んでいるらしい。
気づくと、政田と少女はもう家に入っていた。どうやらオレは、政田の家の垣根にもたれているようだ。
空もすっかり暗くなっていたようで、今更肌寒さとスーパーの袋の重みを感じ始める。
そしてやっと、電話越しの沈黙が解かれた。
『仕方ないわね……ちょっとオシャレなものだけどいいわよね?』
正直、明智が断ると思っていたオレにとって、その答えは意外だった。
「あぁ、別に大丈夫だ。サンキュー」
ふと思うのだが、自分ではない誰かのためにこうして頭を下げるのも悪くはない。きっとどこかでお返しが来るだろう。
電話越しからは、トントンといった足音とガサガサとした音が聞こえる。
『もういい? さっさと準備済ませたいから』
どうやら準備を始めたみたいだ。
まあキリがいいし、ここで電話を切るのがいいだろう。だが、それはできなくなった。頼みたいことがもう1つできたのである。
「いや、ちょっと待て。もう1つあるんだけど、いいか?」
『何? さっさと言いなさい』
それは、オレだからこそ気がついたことである。
「パンツも持ってきてくれないか?」
今思うと、驚くほどスラッとこの言葉が言えたものだ。それも何の躊躇もせずに、「そこのスマホ取って」と同じ感覚だ。恐らく、服の件を承諾してくれたことにより、この件も同じく承諾してくれると思っていたのだろう。
『嫌よ』
もちろん明智は即却下、本当にノータイムだった。
「――あっ……いや、そこを何とか……」
ここでオレは初めて、自分の発言を理解した。電話を持つ手がブルブル震え始める。
『パンツくらい自分で用意しなさいよ』
電話越しからガサガサ音がずっと聞こえているあたり、どうやら準備しながらの会話、片手間でオレの頼みを断ろうとしているようだ。
「できるか!」
向こうが片手間ならこっちは本気で立ち向かう。言ってしまったからには仕方がない。無理を承知で、ここは明智にパンツを持ってきてもらうしかない。
確かにいくら幼なじみの女子とはいえ、パンツを持ってこさせるのは変態だ。だが、幼なじみだからこそ、頼めるもの。共に過ごした時間がある。今あの少女を救えるのは、明智しかいない!
だから決して、明智のパンツを見たいという下心は一切ないのだ!!
『まずね、そんなもの今更持って――』
その時、ガサガサとした音が一気に止まった。オレはすぐに察した。電話越しからでも分かるその状況を――
「――パンツ見つかったんだろ? 小さい頃に履いてたやつ」
すると今度、電話越しからはガサガサという音の代わりにゴォゴォという音が聞こえてきた。
『な、何!? ドローンでも飛ばしてる訳?』
今度は向こうが電話を持つ手がブルブル震え始めたようだ。まるでベッドの下に隠していたエロ本を見つけられた男子中学生のような反応である。オレ含め。
まあとにかくあと一押しだ。あと少しで明智のパンツ……いや、あの少女を救うことができる。
「持ってきてくれないか? マジでお前しかいないんだよ」
『あなたね! 幼なじみ以前に異性の友達にパンツを頼むのなんてどこの野獣なのよ! 変態? 変態なの?? 変態なのね!』
いきなりの大声に咄嗟にスマホを耳から離す。それでもなお、明智の声はしっかりと聞こえてくる。
「そこをなんとか!」
突然の罵倒ラッシュだがここは逆ギレせずに耐えるだけだ。なんせ幼なじみだからこういう時の対処法は弁えている。なのでここを乗り越えればパン……あの少女の笑顔を守れる……!
『だいたい、パンツなんか1日くらいなくても――』
「――お前は少女の泣く顔が見たいのか?」
『うぐっ……』
よし、かかった。
明智は小さい頃の経験上、少女の泣くシチュエーションに弱い。なのでこれを引き合いに出すと、必ず物事が通るとは分からないが、通りやすくなる。しかも今回は中々それが有効なようで、明智は『うーん』と思考に入った。
この流れだと、明智のパンツを見られるまでもうすぐだ……!
そしてまた少し経った後、明智は深くため息をついた。
『――はぁ、分かったわよ。持ってこればいいんでしょ?』
「おぉ! サンキュー!」
さすがオレ、これで少女を泣かせることはない。この勝利は、明智を長年知っているからこそもたらされたものだ。やっぱり幼なじみは最高だ。
これでミッションオールコンプリート、あとは政田の家で明智を待つだけだ。
「んじゃ、政田の家で待ってるぞ――」
『――ちょっと待ちなさい』
だが、オレは忘れてしまっていたのだ。
“表”の攻撃の次には“裏”の守備があるということを。
次回、ウラの守備
シゲ盛はセーブポイントを付けることができるのか…?
(野球小説ではありません)




