28話 よにんぐみ(6)
よにんぐみシリーズ最終回です
3階には、思っていたよりも面白い店がたくさんあった。
パーティグッズや雑貨などがある百均をはじめ、家具屋さん、駄菓子屋さん、メガネ屋さんなどオレたちの暇つぶし程度では到底回りきれないほど、たくさんの店が並んでいた。
サングラスをかけてカッコつけてみたり、おすすめの駄菓子の話で盛り上がったり、メガネをかけてインテリぶってみたりと、いつの間にかオレは時間を忘れてみんなとはしゃいでいたらしい、みんなと分け隔てなく話せるようになっていた。
気づくと、時計の短針は7を指していた。外を見ると、もう真っ暗である。
「もうこんな時間だな、夜飯どうする?」
「別にオレはどっちでも大丈夫。特に用事ないし」
所持金はまだまだあるし、一人暮らしなので用事もない。強いていえば夜中に用事があるのだが、さすがに夜中までは関係ないだろう。そうなると別に晩飯を断る理由はない。
「私もどっちでもいいよ。めぐっちは……どう?」
明智を見ると、どうやら妃夏のスマホを覗いている。妃夏は誰かと連絡をとっているようだ。
少しすると、LINEの通知音が聞こえる。妃夏のスマホにLINEが届いたようだ。それを見た妃夏は、すぐに小さく顔の前で手を合わせた。
「ごめん、今日は家族で食べに行くんだって……」
「うーん……じゃあ、どうしよっか……?」
どうやら明智は夜飯までの予定はさすがに立てていなかった、いや、敢えて立てなかった、まあどちらでもいいが立てていないらしい。おそらく今決めようとしているのは、3人で飯に行くか、それともここでお開きにするかの2択である。
だがそれを決めるのに時間はかからなかった。
「でもな、俺たちで行くとめぐに悪いよな……今日はお開きにするか」
凛島の一声でそれは決した。オレもその通りだと思う。それに、今日学ぶことは沢山あった。学習内容としてはもうご馳走様だ。
「いや、全然大丈夫だよ! 3人でご飯食べてきなよ〜」
「でも、多分俺ん家もうメシできてるし」
さすがカリスマリア充の凛島、アドリブなのにこの状況の最適解。ついていい嘘というのは恐らくこのことだ。
「私も、もう晩御飯出来てると思うし……」
「オレも、確か今日に賞味期限切れの食べ物があったような……」
オレたちも咄嗟のアドリブであと一押しをする。
妃夏はそんなオレたちに申し訳なく思っているようだったが、少しすると納得したようで、
「じゃあ、ここでお開きにしよっか!」
と、元気よく微笑んだ。
デパートを出ると、昼間の過酷な暑さはまだ少し残っているようで、手が少し湿ってきた。だが夜風が吹いているおかげでそんなに暑くはない。空を見ると雲ひとつない快晴のようだ、真っ黒な空の中にハッキリと謎の天体が、まるで額縁に入れられた名画のように映えている。
妃夏は直接晩飯に行くために電車、凛島の家は逆方向、なのでここで2人とはお別れになる。
「じゃあ、私たちは歩きだから、またねー!」
「また連絡するわー」
「今日は楽しかったよ〜! またあそぼーね!」
「じゃあまた学校で!」
そう言いながら、オレたちは3方向に分かれた。手を下ろした頃には、もう2人の姿は駅前の人々に消えていた。
明智ももう手を下ろしていたようで、さっきのひとみんからは考えられない、素の明智に戻っていた。
「このまま直接行く? 魔獣狩り」
「お前、晩飯できてるんじゃなかったのか?」
「嘘に決まってるじゃない」
平然と嘘だとバラす明智を見ると、やっぱり明智はブレないなと思う。ひとみちゃんやひとみんであれ、全てはここにいる“明智”なのである。
「じゃあ、飯食いに行くか!」
「それで、なんでここなのよ……」
席に座った明智は、極めて不愉快そうに頬杖をついている。
「別にいいじゃねぇか!」
オレがそう言うと、明智は大きくため息をついて、側面にある小汚いメニューを開いた。
ここは、お嬢様とは全くかけ離れた店、駅から少し外れたラーメン屋さんである。ここに来た理由は、別にお嬢様に庶民食を教えようとかそういう意味ではない。単に腹が減っていたからである。
この店は、オレが小さい頃からそこそこ来ていた。ここのラーメンは安い割には美味しく、店主もいい人だ。
オレは既に注文するものは決まっている。あとは明智を待つだけだ。
「呼び鈴はどこにあるの?」
どうやら明智も注文が決まったようだ。メニューをもとあった場所に戻して、ナフキンを水で濡らして手を拭いている。
「おやじー! 注文いい?」
オレの突然の大声に、明智がビクッと驚いた。
残念ながらここには高級レストランのような呼び鈴も何も無い。ここでの呼び鈴は店主を呼ぶ大きな声だ。
しばらくすると、店主が右手で腰を擦りながら歩いてきた。
「オレはラーメン大と餃子1人前、明智は?」
「ラーメン並と炒飯小、以上で」
おぉ、意外と食うんだな……
店主は注文を聞くと、「了解」と呟き、厨房へ戻って行った。ちなみにここの店は店主1人でやっている。この店が混むことは全くないので、1人で充分やっていけるのだ。
いつの時代なのだか分からないビールのポスター、どうでもいい番組が流れたレトロテレビ、聞いたことも無い昭和の邦楽。ファミレスのような便利な店内もいいが、こういう昭和風の店内もまた違っていい。だが、ちょっと暑い。上に来ていた半袖のカーディガンを横の椅子に掛ける。昭和な店内だけあって、冷房設備は天井につけられた扇風機のみだ。
「今日の収穫はあった?」
初めて見る昭和の店内を一通り見渡した明智もシースルーを隣の椅子に掛けていた。
「あぁ。お前からはオレってどう見えた?」
「そうね……」
明智は腕を組んで「うーん」と少し考える。しばらくすると、明智は腕を解いた。
「まあ割といいんじゃないの。一週間前と比べたら見違えるほどにね」
「おぉ、一週間の練習が効いたってこと――」
「――でも」
明智はそんなオレの言葉を遮った。
「まだやっと土俵に立てたレベルよ。少し猫背になってた所もあったし、判断力に欠けた部分もあったわ。まだまだこれからが大変よ。わかってる?」
まあ確かに一週間前があまりにも酷すぎたのも事実、凛島と比べるとオレなんかまだまだなのも事実であり、明智の言う通り、まだやっと土俵に立ったばかりだ。
「あぁ、わかってる」
「うん、いい返事ね」
まあ収穫関係なしで、明智が楽しんでくれた事もまたよかった。
「月曜日からは基礎を固めつつ、ちょっとだけ攻めていこうかしら。もちろん、めぐっちとみるとのコミュニケーションも忘れずにね」
「あぁ、そうだな」
みんなで買い物に行ったものの、まだスクールミッションが始まって1週間。序盤の土台作りの女子と話すミッションは継続中だし、まだリア充グループに入ったという訳ではなく、恐らくグループの中の解釈では、“最近俺たちに絡むようになってきたやつ”みたいな解釈だろう。凛島とは気が置けない仲ではあるが、華村とも仲良くなった訳でもなく、明智という強力なバックがいるものの、まず明智は女子グループである。結局どんな手助けがあっても最後に頑張らないといけないのはオレである。でもまあ、そんなに焦る必要はない。ゆっくりと駒を進めていけばいいのだ。
すると、店主がオレたちの方にやって来た。
「うい、ラーメンと炒飯と餃子」
コトンと置かれたその料理をオレと明智で分け、お互いお箸を取って、手を合わせる。「いただきます」と声が揃う。とりあえずラーメンを一口。魚介類から取れた出汁とコシのあるちぢれ麺とか上手く絡み合い、旨みを引き出している。あっさりしていて、後残りが少ない。
「まあ、別に悪くないわね」
明智も、汗をかきながらも、上品にラーメンを口にしている。
次に餃子を一口、この店特性の羽根付き餃子である。
薄い皮に入った食材が、特性のタレと相まってこれまた美味い。パリパリの焦げた羽根もまたいい味を引き出している。
餃子、ラーメン、水、この連鎖が止まらない。アツアツだが、そんなことは気にならなかった。久しぶりのこの味に、箸がどんどん進むのである、
そして、コップの中の水がなくなったことにより、この連鎖は落ち着いた。机の端にある、水が入った大きな容器を持ち上げ、こぼさないように、慎重に水を入れる。全然客が来ていないので満たんの水が入っており、ずっしりと重い。そして、水をコップに入れたら端に戻して一安心。連鎖の再開だ。
「餃子1個いただくねー」
「おぃ……」
だが、その連鎖は終わっていた。なんと明智が最後の1つの餃子を食べてしまったのだ。最後のひとつを幸せそうな表情で頬張るお嬢様、まあ、美味しく庶民食を食べてもらえてそれはそれでよかったのかもしれない。
餃子をのみ飲んだ明智は、食べかけていた炒飯を蓮華ですくった。
「はい、お礼」
そして明智はそう言ってオレの方へ炒飯もってくる。
――でも待てよ……!
「これって、関節……キス……じゃ」
「それくらい普通よ。いらないの?」
「いや! もらう! 食わせて!」
オレはドキドキする心を必死に抑えながら、目の前の炒飯に食らいつく。
「はい、あーん」
――うぅ……はずかちぃ……!
だが炒飯はしっかりと美味かった。程よく炒められたパラパラの米と一緒に、角肉、卵、そしてネギ。ごま油の風味が口の中で広がる。まさに黄金の米粒である。
「ごちそうさん!」
「ご馳走様でした!」
「毎度あり」
そしてオレたちは揃って店を出た。もちろん、ラーメンは両方スープまで飲み干し、炒飯は米粒ひとつも残さず、水も氷残さず全て腹の中だ。
トタンのドアを開けてのれんをくぐると、一気に外のぬくい空気がオレたちを包んだ。すぐそこの茂みからはコオロギの鳴き声が聞こえ、街頭の周りには蚊やハエなどが集まっている。
「さあ、行くわよ」
そんな明智の声と共に、その虫たちが見ていたオレたちの姿はなくなっていた。
その日にどんなことがあっても、その日の終わりは魔獣狩り、その日にどんなことがあろうとも、その日の初めは魔獣狩り。
今日の楽しさを噛み締めながらも、オレたちは今日も魔獣を狩りにいくのであった。
☆☆☆
「能力者、発見しました」
ここは夜の町外れ、黒いスーツを来たサングラスの男が、誰かと電話をしている。
その視線の先には……
『そうか、状況は?』
「少年2人、少女1人が魔獣退治をしております」
☆☆☆
「なるほど、了解」
その男は、静かに電話を切り、そして頬杖をついてパソコンのモニターに意識を戻す。
そのモニターに映し出された、たくさんの図表。男はその図表をじっと眺めている。そして、サングラスの男から届いた写真を図表と並べ、何か作業を始める。
マウスとキーボードの音が響くその1人の部屋で、男は小さく呟いた。
「……やはりいたか、能力者――」
そして物語は加速していく――!
読んで下さりありがとうございます。
ここから内容がドンドン進んで行く予定です




