2話 オレたちの戦い
1月13日改稿完了しました。
これは、新たな時代の物語
この世界には50人の特殊な能力を持った人がいる。その能力は個々によって様々だが、1つ言えるとしたら、その能力は、普通の人間が再現など到底できない能力だということだ。
オレは、学校ではド陰キャと言っていい程静かだ。6時間の授業で発言は当てられた時にしか発言をせず、休み時間には机で伏せて、ゲームのことを考えていたり、スマホでスレを読んだりしている。
帰る時も、オレは少数の人とは結構話せるようになったものの、それ以外は話しかけられても、シカトってレベルで接する。
だが、そんなオレは夜、もう一つの顔を持つ。
***
「すまん! 遅れた」
50人のうちの誰かが仕掛けた悪行から、密かに人々を守るために戦う。
それが、学校のオレとはまるで別人のような姿、もう一つの顔。いわば、『能力者』である。
「何時まで待たせるつもり?」
そこはとある公園。漆黒に包まれた空。
みんなが寝静まった頃。
そんな中、煮えきった態度でオレを叱るこの美少女。
「すまん、マジで。ホントに」
「反省の意思が伝わらないんだけど?」
明智瞳。一言で言えば、完璧少女だ。成績優秀、スポーツ万能、しかもめっちゃ美人、オマケに性格も良く(学校では)、誰からも好かれるアイドルのような存在だ。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花学校のみとは、まさにコイツのことを言うのだろう。
だが、コイツもオレたちと共に戦う、50人のうちの1人の能力者である。
日中は、太陽のような明るい表情で皆から好かれるヒロイン。夜は、凛としたクールお嬢様······なのだが、心までクール、というか完全に冷えきっている。昼とのギャップがとても激しく、めっちゃ怖い。
声がいつもより低めなあたり、なかなか怒っていらっしゃる。
「そうだ! オキとジジイは?」
「あそこ。ふん、どうせなら土下座でもしてきなさいよ」
腕を組んで嘲笑する明智。
風が吹いた。
首までかかった純黒ともいえる黒髪がサラリと揺れる。
--ひぇぇ〜!
そんなに冷たくない風のはずだが、オレはブルブルと震え上がってしまう。
オレの目に映るお嬢様の笑顔。
学校ではあらゆる男子を虜にするはずなのだが、今の笑顔にはそんな要素はひとつもない。
完全に冷えきっている。
なんか、めっちゃ怖い。
このままいると、中々やばいことになりそうなのでオレは、もう1回明智に「すまん!」とだけ言って、オキとジジイのところに行った。これは賢明な判断だ。
「すまん! 遅れた」
「心配したよ。まあ、無事で何よりだ」
真夜中の公園のベンチ。
そこには、明智とは反対にオレのことを心配してくれた少年がいた。
沖俵織 、通称オキ。
塩顔で、スポーツができて、それに優しくて(学校じゃなくても)女子からめっちゃモテている優男。
学校でケダモノ扱いされているオレとは真反対の待遇のされ方。そんなヤツがオレと仲がいいのが不思議なくらいだ。
またその横は、1人の老人が立っていた。
「ほっほっほ。何をしてるんじゃ。全く」
坂巻嘉寿男。元大魔術師らしく、オレたちのサポートをしてくれている。
オレは何て呼んだらいいのか分からないので『ジジイ』と呼んでいる。
明智とは対照的に、温かみが感じられる2人の言葉は、真冬に入る風呂のように、ブルブルと震えたオレの心を温めてくれる。
オキとジジイ、この2人もまた能力者だ。
オレ、明智、オキ、ジジイ。50人のうち4人。
残りの46人はどんな人なのだろうか。
いい人なのか、悪い人なのか。
だが、1つ分かることは、今起きている事態を加速させるのも、阻止するのも、オレたちしかできないってことだ。
そんな感じで話をしているうちに、街の灯りはほぼ消えてなくなっていた。どうやら、ヤツらが来たみたいだ。
「ちょうどいい所にきたな」
「だな。やるか」
「今日はちょっと数多くない?」
「どうせ暇なんじゃろ」
--グルルルル……
そんな音を立て、ヤツらは群れをなしてオレたちの所へ来る。
『魔獣』。この世界ではまず存在が有り得ない生物。
ヤツらは主に群れで行動し、『殺意』という感情しか持たない。
そんなヤツらが最近、夜に出没する。
それは誰かの仕業であり、これの犯人は、恐らくオレ達と同じ能力者である。
『召喚』
恐らく、そのような力を持った能力者が、どっかの世界から連れ出しているのだろう。
だが、怯むことなんてない。
なぜなら、オレたちはヤツらを倒し慣れている。
首を切ったらすぐ死ぬし、皮膚もカチカチって程でもない。
しかも、死んだら勝手に消えてくれる。とても都合のいい生物だ。
午前2時、漆黒の闇夜の中、オレたちと魔獣たちは向かい合った。
「戦闘開始じゃ!」
ジジイの掛け声で、オレ達は武器を構える。
2つの陣営がぶつかった時、今夜も殺戮ショーが始まる。
だがそれは、オレたちが一方的に相手を蹂躙することに過ぎなかった。
「メェェェン! コテェェェ! よし! もういっちょ!」
力強いしっかりとした声。
闇夜を切り裂くような一閃。
縦、横、斜め。あらゆる方向から刀を振るう。
オキは中学の時、剣道の全国大会で優勝した経験がある。その力は、既にプロのレベルを超越しているらしい。なんと恐ろしいことか。
そして、そんなオキが使っている刀。普通の人が使えば、ただのおもちゃの木刀だ。
だが、オキが使うと、名刀マサムネ並の名刀に変化する。
一瞬にして魔獣たちは真っ二つになり、そして消えていく。
それに、オキは拳銃も所持している。これもまた普通に見ればただのモデルガン、以下略といった感じだ。刀の切れ味が落ちてきた時、刀を口にくわえ、左手で刀を研ぎ、右手で拳銃を撃つというスタイルだ。どんだけ余裕だよ。
もちろんこの拳銃もオキ専用だ。
「よっと、よし! もう1回! これで、よし!」
リズミカルな甲高い声。
咲き誇る花のように可憐に敵を倒していくその姿。
明智はかの有名な明智財閥のお嬢様。
お嬢様は習い事も多く、小さい頃からたくさんのことをやっていた。なので、どんな武器も上手く使うことができる。
--何だって?
習い事をしたからってなんでも使えることはないだろうだって??
--それができるんだよ。
なぜなら、完璧少女だから。
その明智が今使っているステッキは明智専用。普通の人が使えば、ただの棍棒、ポテトサラダを作る時に使う棒のようなものだ。だが、明智が使えば、あっという間に殺人武器に変化する。魔獣の頭を叩いたらはい終わり、魔獣はコロッと倒れ、そして消えていく。
「よっと、コイツら、かなり柔らかいな」
ちょっとフラフラしたような声。
闇夜を切り開くような刃。と言いたいところだが······
オレは特に習い事とかはしていないが、料理は得意な方だったので短刀を使っている。これも、オレ専用だ。
だが、オレは普通の人よりは高いステータスを持っているものの、スポーツ万能の2人に比べられると少し劣る。
だけど、オレはあるものを持っている。
戦闘終了。
魔獣の跡すらも、もう残っていない。死骸も、血の跡も全て消え去ってくれるので後処理にも困らない。
午前3時、まだ皆は眠りに就いている頃。
オレたちは滑り台のあたりで休んでいる。
「疲れたぁぁー」
「疲れたぁぁー、じゃないわよ。シゲ盛、今日もその杖使わなかったの?」
ステッキをハンカチで拭きながらオレに問いかける明智。
オレの手には少しの光を帯びた杖がある。実はこれもオレ専用の杖で、これで魔術が使える。
だが、これには問題点がある。
「だって使えないんだもん」
「でも、魔術なら動かなくていいから楽でいいじゃないの?」
「でもな……これで攻撃通じるのか?」
オレは魔術を使う。
棒は一時的に光り、エネルギーが集まる。
だが、棒からは火の玉が出て、それで終わった。
そう、オレは魔術の使い方を知らないのである。
「でも、いずれかは使わないといけない日が来るかもよ」
オキが、刀を研ぎながら話に入ってきた。砥石の音が辺りに広がっていく。
「そうだよな、他の能力者とか……」
いずれかは他の人と戦う日が来る。出来れば戦いたくはないが、いづれか戦わなければならない日が来るだろう。
--その時までに、せめて魔術を
そう思う今日この頃である。
皆がまだ夢の中にいる頃、真っ暗な夜空には、半分月で、半分太陽のような不思議な天体が浮かんでいた。
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