26話 よにんぐみ(4)
ネタ要素多めで
そしてオレたちは満員でないことを願いながら駅前のファミレスに入った。
ファミレスのドアを開けると、クーラーの涼しい風、フォークや箸のカチャカチャとした音、話し声や店員を呼び出すベルの音が一斉にオレたちを包み込んだ。
「4名様でよろしいでしょうか?」
「ええ」
「では、お席へご案内致します」
どうやら四人席が空いていたようだ。店員の後について行く。案内された席は、昼の日差しをたくさん浴びた窓際の席。来る時間がちょうど良かったらしい。
スタバの時と同じ配置で席に座った、ていうか気づいたらそう座っていた。
「ひとみん何頼む〜?」
「めぐっちはどうするー?」
妃夏と明智は、まるで大きな新聞紙を2人で読む姉妹のように、仲睦まじく1つのメニューを2人持っている。
言っておくが、もちろんオレはノンケだ。そんなことを凛島としたいとは思わない。
「俺はもう決めてるから、メニューあげるわ」
そう言って寄せられたメニューを手に取り、ページをペラペラめくる。
別に値段に困ることはない。大事なのは、どのメニューで腹八分になるかである。量が足りないのは嫌だし、逆に量がありすぎて、飯を残したまま店を出るのも嫌だ。
今日のオレの朝ごはんは焼きそばパン、スタバではオレンジジュースしか頼んでいない。それなら昼飯は多めがいい? いや、まだあまり腹は減っていない。多めということを意識するならハンバーグステーキが無難。ボリューム界のテッパン料理である。鉄板だけに。
だが、マルゲリータも見逃せない。多すぎもしないし少なすぎもしない。具の載せようで量も少しは調整できる。
いや、このライスカレーはどうだろうか。カレー、それはほかの料理とは違い、全て店共通で白米の上にルーが載っている。つまり、ブレない美味しさが保証されてあるということ。しかもファミレスなので辛すぎるということもないだろう。
それならここはカレー? いや、マルゲリータも……でもハンバーグステーキが――
「――わたしこれにする〜!」
「私もこれかなー?」
おっと、オレ以外の3人はもう何を頼むか決まってしまったようだ。ここでみんなを待たす訳にはいかない。
「オレも、決まった……」
こうなったら3人の頼む料理でどれにするか決めるしかない。さぁ、答えはどうなんだい!
そしてオレは勢いよく呼び出しボタンを押した。
――ピンポーン ピンポーン……
そんな音が3回ほど響いて、しばらくすると店員がオレたちの所へやってきた。
「いらっしゃいやせぇぇぇ! ご注文はお決まりですかーいぃぃ!」
「「「「……(なんとおかしな店員だろう)」」」」
オレ含め全員がそう思ったのだろう。4人全員一斉に顔を上げた。そして、4人全員の空いた口が塞がらなかった。ていうか、全員白目だ。
「ん? なんだお前らか。いらっしゃい」
このようなことがあるのだろうか。なんと、オレたちの席に来たファミレスの店員、店のエプロンを身につけ、少し長い髪を三角巾の中に収め、メモとペンを持ったその男は、国枝高校最強のバカにして能力者、沖俵 織、通称オキだったのである。
「えぇと、なんでオキくんはここで働いているの……?」
沈黙を破った明智もまだ困惑している様子だ。
別にアルバイトは禁止ではないし、ましてやオキは極度の貧乏、アルバイトをするのは普通だ。
だがこのレストラン、時給がクソ安いことで巷では有名だ。店のドアに貼ってある紙には、『時給500円』と書いてある。なんだよ500円って、安すぎて屁が出ちまう。そんな所に、生活カツカツのオキがなぜ働きに行くのだろうか。
「だってさぁ、ここ、ものすごく時給いいじゃん。500円とか、本当に申し訳ない」
その時、4人全員が首を傾げた。
「あの、オキく〜ん。時給の意味って……わかってる……よね……?」
どうやら妃夏も笑顔を保つのが精一杯らしい。困惑しすぎて首が360度回転しそうになっている。
そんな妃夏の質問に、オキは1+1を聞かれた大学生のように少し首を傾げ、そして「なに今更聞いてんの?」という風に答える。
「1分ごとに出る給料のことだろ? てかそんなこと聞く意味あるのか?」
「「「「……(あ、こいつバカだ)」」」」
オレたちの目は、もう手遅れで助けようのない死にかけの虫を見る目になっている。オキはそのことに純粋に首を傾げる。もう末期だ。
一応言っておくが、時給の『時』とは一時間の『時』、60分、hour、heure。……なんで『分』になるの?
「オキ、お前……ホールスタッフ以外にもなんかあったんじゃねぇの?」
そんな末期のオキをほんの少しでも救おうとしているのだろうか、凛島がフォローを挟もうとする。
「あぁ、確かにあったなぁ……」
オキは腕を組み、コクリコクリと小さく頷く。
それを確認した凛島は、話を続ける。
「例えば……皿洗いとか?」
「皿割りまくって怒られた」
なるほど、どうりで隣の客がパスタがティーカップに盛り付けられていて首を傾げていたって訳だ!
「うーん、シェフとか?」
「厨房を爆発させちゃった」
なるほど、どうりで隣の隣の客が「私はカルボナーラを頼んだの! イカ墨パスタなんて頼んでないの!!」って怒ってた訳だ!
「それなら……トイレ掃除とか?」
「洗剤使いすぎて怒られた」
なるほど、どうりで隣の隣の隣の席の人が……ってキリがねぇわ! 1周まわってオレらの方も被害被ってるんじゃねえの!?
「こりゃダメだ……」
凛島、頭の中の声漏れてるぞ。
なるほど、だからホールスタッフに放り出したのか。ていうかクビにしろよ!
「それより、ご注文はどういたしますか?」
おっと、オキのバカさのせいで忘れていた。今からオレたちは注文をするところだったのだ。
えーっと、オレは何と何と何で迷っていたんだったっけ? オキのせいですっかり忘れてしまった。
「じゃあ、俺はブレッドとドリンクバーで」
「私は、ハンバーグステーキとドリンクバーで」
「わたしは〜、ハンバーグステーキとブレッドとドリンクバーで!」
「オレは……じゃあ、ハンバーグステーキとドリンクバーで」
「了解しました。ハンバーグステーキが……ひぃ……ふぅ……みぃ……5つと、ドリンクバーが……えっと……ひぃ……ふぅ……みぃ……7個ですね!」
「「「「……(バカだ)」」」」
「凛島って意外と少食なんだなー」とか「いやぁ、妃夏めっちゃ食うなー」とか「みんなハンバーグステーキとかドリンクバーとか頼んでるし、そのふたつで大丈夫だろう」とか「オキのやつ、指おって数える程難しい計算か?」とかそういうリアクションを全て吹っ飛ばして出たリアクションは、4人全員同じだった。
「え……どうしたらそうなるの……?」
もう妃夏も笑ってないよ! 恐ろしいものを見る目になってるよ!
「……小学校出た?」
おい明智! お前幼なじみだろ!! てか素が出てる!
「俺たち4人だけやで……」
うん、凛島はまとも! 多分1番まともなリアクション! でも、なんで関西弁!?
だが確かに、計算としては1+1+1くらいの計算で、わざわざ指を折って数える程のレベルでもなくて、指を折って数えたとしても、ハンバーグステーキ2つとドリンクバー3つはどこから入ってきたのか…………ダメだ!! なんでそうなったか分からない!! ……うん、3人ともまともなリアクションだな。
その後、オレたちが頑張ったおかげで注文は通ったものの、ブレッドがフライパンに盛り付けられてやって来たり、ハンバーグステーキが黒塊と化していたり、ドリンクバーが全て水だったりとたくさんの事件が相次ぎ、オレたちの話題はオキのことが10割だった。しかもそれは笑い話ではなく、割とマジの雰囲気で。おそらく、その雰囲気は絶対に変えられなかったからであろう、明智でさえも手を出さなかった。ただ、お詫びとして7割引にはしてくれたのがよかった。
その後、オキは「もう勘弁してくれ!」と店長に3万円を懇願しながら渡され、あのレストランをクビになった。どうやら次のバイト先は地元の剣道教室らしい。たぶん剣道なら大丈夫だろう。
さて、今のオレたちに話を戻そう。
オレたちの雰囲気は、レストランのことによって……という訳ではなく、どうやら7割引きが効いた、もしくはリア充3人の空調術のおかげだろうか、なんと再び楽しい雰囲気に戻っていた。
ぴょんぴょんと楽しそうに跳ねる少女、それを楽しそうに眺める少女、暑さに服を仰ぐ少年、そしてそんな3人をじっと見る少年。
「じゃあ、次行こう!!」
そんな明智の声が聞こえる中、オレたちは次の目的地へ歩き出した。
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