22話 普遍能力者《魔術》
事ありまして遅くなりました。
引退を思われた方もいらっしゃると思いますが、小説執筆はやめるつもりはありません。これからも応援よろしくお願いします。
【前回までのあらすじ】
謎の幼女に気絶させられたシゲ盛が起きた場所は、四方に障子がある和室だった。そこに現れた謎の幼女。その幼女は畳に杖を突き立て、詠唱をはじめる──
「······」
声が出なかった。なぜなら、耳から脳に入ってくる情報が、オレの低スペックの脳では状況の処理が追いついていないからである。万華鏡を覗いた時のように、秒が進むごとに疑問はどんどん増えていく。
そんなオレの無反応ぶりに目の前にいる幼女は、腕を組んで頬を膨らませた。
「無視にゃノ!? 結構キマったと思ったのにそれは酷いにゃノ……」
「……」
「反応しろにゃノ!!」
ドンドンと床の叩く音が聞こえ、周囲にホコリが舞い散る。このまま無視していたらさすがにこの幼女が可哀想だ。それに、あまりホコリは吸いたくない。
「……えぇと……お前はなんでオレが能力者だってわかったんだ?」
取り敢えず、浮かび上がった疑問のひとつを聞いてみた。
幼女の腕が少し解けた。キリッとした目線がオレの方へ向いている。
「ほほう……それは簡単にゃノ」
そう言い、幼女は腕から指までを大きくオレへ伸ばした。その指の先には、ポケットに入ったオレの杖がある。
「この杖はただの杖じゃないにゃノ。ちょっと貸してみろにゃノ」
「おい勝手に――」
幼女はポケットにあったオレの杖を勝手に抜き取り、様々な角度から杖を眺めている。やがて幼女は杖をゆっくりと床に置いた。
「やっぱり……この杖の材質は『琴提樹』にゃノ」
その言葉にオレは驚かなかった。
『琴提樹』。それは、天界の真ん中に生える1本の大樹。加工された品は普通の木材よりも生命力が高く、活動速度(傷の修復)なども段違いに高い。
少し昔にそんなことをジジイから聞いたことがあった。
その性質故にオレの杖、明智の棍棒、オキの刀に使われている。明智の折れた杖をリボンで結びつけたのもそのためであった。
だがオレが唯一驚いたのは、目の前の幼女がそれが琴提樹だと一目で見抜いたこと、そしてそこから、オレが能力者だとわかったことである。
それが疑問に繋がり、細胞分裂のようにどんどん増えていっているのが今の状況である。
「それがどうして――」
オレがそう言うと、幼女はまるで剣士が相手に剣を突き出すように、オレに杖を差し向けた。
その先にある眼差しは、一点にオレを見ている。
一体なんなんだろう、反射的に体が引けてしまった。
「お前は、この神聖なオーラが見えるにゃノ?」
「見けるけど……」
すると幼女は杖をオレの手の上に返し、立ち上がって細い腕を組んだ。
四方から光が差し込んだ小さな和室の中で、腕を組んで立っている幼女の下で、正座をしてその幼女を見上げるオレという謎の画が出来上がっている。
「ふふーん、それなら話が早いにゃノ――」
「――おぉ……」
オレは、幼女が懐から取り出した琴提樹の杖に驚いていた。そしてオレは、幼女が次に取り出したもうひとつの杖を見た時、なぜオレが能力者だとわかったのかが理解できた。
「最初に取り出したのは琴提樹の杖にゃノ。それで次に取り出したのは――」
幼女が取り出したもうひとつの杖、それは形が琴提樹の杖と全く同じの、ただの杖だった。
「つまり……」
幼女はオレを指さし、パチンとウインクを1回、なぜか存在しない星が浮かび見えてくる。
「お察しの通り、琴提樹は能力者に反応する聖気を放ったり、形状を変えたりする性質があるにゃノ」
「形状まで変えるのか……」
つまり、ただのおもちゃ刀がキレキレの名刀になったり、ただの棍棒が殺傷☆ステッキに変化するのもこの性質のせいであるということだ。たまげたものだ。
その性質故に、この幼女はポケットに入れていたオレの杖の聖気に気づき、オレを能力者だと見抜き、そしてオレを拘束……って……え?
「オレを拘束する必要はあったのか?」
「一応能力者だし、もし暴れ回られたら困るし―、保険にゃノ」
一応って……それにしてもこの幼女、状況に臨機応変に対応する判断力があって、物事を冷静に捉えているあたり肝が据わっていて、恐らく能力者の知識も豊富だ。まるで大人の女性みたいだ。
「お前は一体何者なんだ?」
「オルガ=クリスチーナ=ヴォルィンツェフ=ヴォルィンツェヴァ、能力者にゃノ」
うーん、誰かを真似したみたいだけれど長すぎる。でも、見た目は子供だが頭脳は大人、オレを眠らせていたことも考えると……アポトキシン……? でも、なんで獣耳なんだ? しかもピクピクと。もしかして……!
「お前って……人間とネコのハーフ且つ体が小さくなる薬を飲まされたりは――」
「――お前、今なんて言ったにゃノ?」
あれ? オレ、なにか気に障るようなことでも言ったか?
「えーっと、体が小さくなる薬を――」
「もっと前にゃノ!!」
まさかサッカーボールでヘッドショットとかされないだろうな……
「人間と猫の――」
「わぁたぁしぃわぁ! ねぇこぉじゃぁなぁいぃにゃノ!!――」
「――ギャーー! 猫パンチ、痛い痛い!!」
目の前の幼女はなせか俺にキレだし、そしてサッカーボールのヘッドショットよりも痛い拳の正拳突きをかましたのである。
「年上のお兄さんにそんなことしていいと思ってるのか!!!??? 痛い痛い!!」
「私はお前よりも年上にゃノ!!」
そのすぐ後、オレの「はぁぁぁぁぁ!?」という奇妙な声が日が沈んだ住宅街に響いた。それから1ヶ月、この声を録画してた誰かがいたようで、Twitter上で拡散、「人間のような声を出すカラス」として全国のワイドショーで取り上げられる羽目になった。
***
日付が変わったあとのいつもの場所、いつものメンツ。
「おいシゲ盛、お前、その傷どうしたんだ?」
「猫にギタギタにされたらしいわよ。本当に馬鹿ね」
「面目ねぇ……」
「ほっほっほ」
治癒魔術は施してもらったが、目の辺りにまるで刀を口に加えた海賊のような傷が残っている。
こんな状態で明日を戦えるのだろうか。なんか心配になってきた。
だって明日は……
読んで頂きありがとうございます。
【人物紹介】にオルガ=クリスチーナ=ヴォルィンツェフ=ヴォルィンツェヴァを追加しました。




