21話 猫×幼女
【前回までのあらすじ】
激動の1週間を終え、やっと休日を迎えた陣田シゲ盛。食料がないことに気づき、買い物へ行った帰りにふと視界に入った神社を訪れる。しかし、そこにはスーパーで対峙した“あのヤツ”が!?
ムシャムシャムシャ……
境内にリンゴを食べる音が響き、同時にリンゴの匂いが漂う。
目の前でオレが大声を出しているのにも関わらず、その人間は至って冷静だった。
「すみませんが御朱印は書けないにゃノ」
そう言いながら、半分以上あったリンゴを一気に口に入れ、意外とサイズが大きかったのか、苦し紛れにリンゴを飲み込んでいた。
「大丈夫か?」
「心配は無用にゃノ。それで参拝者サン、御朱印は……」
こいつ、多分――
「――オレだよ!! スーパーでお前と対峙したあの人!」
「一体どちら様にゃノ?」
オレのことを忘れてあがる。
「だから…………第17話のアレだ」
「あー! 思い出したにゃノ」
なんでオレがメタ発言をしなくちゃならないんだ。
しかし、リンゴを食っていたからこそ分かったのだが、そうじゃなかったら、普通にスルーしていただろう。なぜなら、目の前の人間? が、スーパーの時に見た、あのフードを被っていた姿からからは想像もつかない見た目だからである。
まず、特徴的なジト目。
明智は、孤高さが醸し出されるツリ目、政田の隣にいることが多い矢嶋は、どこかパッションが感じられそうな三白眼、といったように、目はその人のイメージにも繋がる。
コイツの場合は、どこか冷静さが感じられるような気がする。
まあ、このジト目のことに関しては何度も言っている。しかし、実はそれだけではない特徴がある。
それは、正確に言うと『大きなジト目』である。つまり、とても瞳が大きいのである。
ここで皆は察しがつくだろう。
つまり、とびきりの幼女である。
アクアマリンの眼をした幼女が、オレの前でリンゴを食っているのである。
次に、髪色である。
ライトシアン、そう、印刷用のインクでよく使われているやつ。一言でいうとその色、まさに、それなのである。
それはまるで大海原のように、ただ純粋なライトシアン。そこに太陽の光が反射し、朝日が映る海のように、艶やかな輝きを放っている。どこか惹き込まれるようぇとても美しい。
ちなみに髪型は胸くらいまでのロング。くせ毛? いや、猫毛。そこはどこか同調感を感じる。
そして最後、それは頭にあった。
フサフサとした毛並み、髪から続いているかのように滑らかな輪郭をした、ライトシアンの三角形。そう、獣耳である。
まとめると、オレがスーパーで対峙していたのは、そして今、目の前にいるのは、なんと獣耳幼女だったのである。
ちなみに、オレはロリコンではないため、今回は珍しくハアハアしない。
ていうか、ロリコンにだけは絶対に……
――それはある夏のこと。謎にジジイがパソコンを使ってたもんで、オレはさりげなく画面を覗いた。
なんとそこには、『無修正ロリ画像(2次元)』が沢山あったのである。
その時、オレは今までにないくらいジジイに寒気を覚えたのである。夏なのに――
だが――胸を突き刺すこの感覚……! 新しい何かに目覚めようとしている……?
ロリコンには……ロリコンだけには……!
――でも、獣耳なら……いいかな……?
「――何ジロジロ見てるにゃノ? 気持ち悪いにゃノ」
なッ!? いつもの悪い癖が出てしまった。初対面なのに何やってるんだオレは……
「すまない。だが、オレは決してお前を性的な目線で見てはいない」
「誰もそんな話はしてないにゃノ」
スーパーのときのあの激昴と比べて、まるで人が違うように素っ気ない態度だ。容姿、口調、性格ともに謎が多い。
容姿に関しては外国人? まず人間なのか? コスプレにしてはあまりにもリアルすぎる。
てか、そんな奴がなんで神社でリンゴなんか食ってるのだろうか、バチが当たるぞ。
気づくとその幼女はリンゴを食べ終え、全く果肉がなくなってしまったリンゴの芯を木の下に埋めていた。
「何も用がないならお引き取り願うにゃノ」
「そりゃぁこっちのセリフだ」
一体コイツは何様だろうか。まるでこの神社の者のように居座り、そしてオレに引き取れだと……? まさか、コイツって――
「――何言ってるにゃノ? 私はここの巫女サンにゃノ」
「ははは、嘘も甚だしい。まずお前、巫女服はどうした?」
そう、この幼女の服装は、北欧の民族衣装と日本の十二単を足して2で割ったような、そんな言葉に表すのが難しい中途半端な服装、つまり、巫女服ではないのである。
まあ、めっちゃ似合ってるけど。
「巫女服はどうも身体に合わないにゃノ」
「それでも着るのが流儀ってもんじゃないのか?」
幼女は少しぼーっと考えて、そしてゆっくり首を振った。
「この神社はそういう系じゃないにゃノ」
そういう系ってどういう系だよ……
まあ、そこはとりあえず保留。なぜなら、まだおかしい所はたくさんある。
「じゃあ、なんだその耳は」
そう言ってオレは、ポツンと立った幼女に身体を動かし、頭に突き出す2つの獣耳をグイグイと引っ張った。
おぉ……もっちりフサフサしている……なかなか丁寧に作り込まれている。
でもこれ、なかなか取れないな――
「――いたい! 痛いにゃノ! 痛いにゃノ〜!!」
「……え?」
無意識に手が離れた。耳の感触はまだ手に残っている。
なぜ手を放したかというと、それは一瞬の出来事である。
「痛いにゃノ……無垢な幼女に手を出すとは、なかなかお前、ヤバいヤツにゃノ」
「……い、いゃ……お前……!」
それは、明智の頭頂のアホ毛のようだった。
「その通り、これ、モノホンの獣耳にゃノ」
そうだ。なんとこの獣耳がピクピクと動いたのである。
そんな幼女の目には、少し涙が溜まっていた。
もう一度目手を出す。手に伝わる、もっちりとした感覚、そして、フサフサな毛並み。
「うわ、ガチのモノホンのじゃねぇか」
「早くその手を離せにゃノ」
一体コイツは何者なんだ……?
髪の色、そして獣耳、それはオレが人生の中で初めて見たものばかりだ。なぜそんなヤツがここの巫女をやっているのか、まず、人間なのだろうか、人間じゃないとすれば、一体正体は――!!
「――・・・・・・一旦眠ってもらうにゃノ」
その時、全身に寒気が走った。
そして、オレの視界は闇に包まれた。
***
前髪を少し揺らす、涼しい風が吹く。
そんな風でオレは目を覚ました。
目を開ける。真っ先に目線の先に映ったものは、檜でできた木の天井だった。とっさに身体を起こす。タオルケットが胸からずり落ちた。
「やっと起きたかにゃノ」
目の前の獣耳幼女は、オレに向かい合うようにちょこんと正座をしていた。
「ここは一体どこだ!?」
そう言って体を動かしてみる。拘束具などはついていないようだ。
そしてすぐに立ち上がり、右、左、右と辺りを見渡す。
教室の半分くらいの広さの部屋に畳がびっしり敷かれており、四方向は障子で囲われている。それ以外は何もなく、まるで安土桃山時代の茶室のような感じだ。
オレの隣にあるレジ袋の端に付いてあった水滴は、もうすっかり乾いていた。外ではカラスが鳴いているあたり、かなりの時間寝ていたようだ。
「ここは神社のはずれ、私の生活部屋にゃノ」
「えっ、こんな部屋に?」
思わず声が出てしまった。だがそれも仕方がない。全く生活感がないこの部屋に人が住んでいるなんて想像できるわけがない。人なのかはわからないが。
しかも、普通は女の子の部屋って言うのは、クローゼットがあったり、鏡があったり、ちょっと可愛い柄のカーテンやベッドがある……はずだ。どんな厳しい修行を強いられる僧でさえも、こんなに生活感のない部屋は――あれ?
その時、オレの手に、今までに味わったことの無い未知の感覚が襲来した。なんていうんだ、フワフワ、サラサラ? シュワシュワ?
オレはその手を匂ってみる。脳内がお花で満たされていく……!
そして、その物体を手に取り、目の前で広げてみる。とても伸縮性があり、横によく伸びる。キレイな白色は、太陽の光をよく通している。丸みを帯びた滑らかな三角形の形をしたその布は、まるで妖精の泉の真ん中で、何万年もの歳月をかけて育ったクリスタルのように、太陽の光と共に輝いていた。
「もしかして、これは……白の御神体――ブフォッ!」
オレの左頬に、大きな平手打ちの跡が赤く浮かび上がった。オレの手中にあった御神体は、顔を真っ赤にした幼女によって引き取られてしまった。
まあ、パンツあるから、こいつの部屋ってことか!
「本当におまえ、変態にゃノ。将来にためにソレ、どうにかしたほうがいいにゃノ」
「存じております……」
気づいたら正座になっていたオレは、目の前の幼女にペコペコ頭を下げていた。
「まあいいにゃノ。ちょっと見とけにゃノ」
「え、何を――」
すると幼女は、着ていた服の懐あたりから、身の丈に似合わないサイズの木の棒取り出し、まるで聖剣を床に突き刺すかのように、畳に木の棒を強く押し立て、静かに目を瞑り、何か物言いを始めた。
「我が力は杖に在り、我が魂はシルフィアに在り、我が命は此処に在り! いざ顕現せよ、地の魔力よ、天の導きにありて、我が声に応えよ――!」
「だっせぇ……」
すると、木の棒を中心にとても強い風が、オレの体を大きく揺らした。その風はまるで暴れ回る龍の如く。しばらくすると、障子を外に倒して外へ逃げて行った。直後に発生した大量の埃にオレは腕で目を伏せる。
その腕が解けたとき、オレの目の前には、埃を被った幼女とたくさんの本棚が出現していた。
「紹介遅れたにゃノ。私は、能力≪魔術≫の能力者普遍部類、オルガ=クリスチーナ=ヴォルィンツェフ=ヴォルィンツェヴァ。能力者であるお前を一時拘束させてもらってるにゃノ」
読んでいただきありがとうございます。
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