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BACK The new generation   作者: ナスの覚醒
1章 Competent Of War
28/49

18話 出陣! 学校新生活(前編)

長くなりそうな予感がしたのでとりあえず前編。ネタ切れではない。逆に筆が発想に追いつかなさすぎる。

 ゆっくりと夜が明ける。時計の針はどんどん回る。その短針が『8』を指した時、スマホのアラームが鳴った。

「……あぁ……だりぃ……」

 約3時間睡眠をとったオレは、ゆっくりと体を起こした。二度寝を一瞬考えたが、その意思は直ぐにかき消された。

 なぜなら、今日から約2週間ぶりに学校だからである。

 昇りたての朝陽の下で、気持ちよさそうな小鳥のさえずりを聞くのも何日ぶりだろう。

 5月18日の月曜日、オレのスクールミッションが始まった。


     ***

 家から少し歩き、学校の校門へ辿り着いた。

 今日は雲ひとつない快晴、朝日が眩しい。影は大きく西に傾いている。

 そんな中、オレはある変化に気づいた。

 いつも見ていたはずの校舎がなぜか違って見えるのだ。校舎だけでない。周りの人も、雰囲気も、何もかもが違って見えるのである。

 今朝、明智から一通のLINEが来た。

『前を向いて歩きなさい。そうすれば、何か面白いものが見れるかもね』

 これが、明智やオキ、政田が見ている景色なのだ。オレは、やっとその1歩を踏み出したのかもしれない。


 学校に入るとその驚きも増していった。

「もうすぐテストだよ……」

「どうせ平均点以下だな」

 ありふれた日常会話もあれば

「おい、今日の明智、香水変えてるぞ」

「マジ!? 後で嗅ぎに行こうぜ」

 高校生男子特有のエロ会話だってある。

 そして何より気づいたことが、男女問わずスキップをする人が、何故か多いように思える。


 そんなこんなで、オレは教室のドアの前に立った。

 教室の中からは、久しぶりに聞く騒がしい声、そして窓からは何人かのシルエットが見える。

 オレは少し曲がっていた背筋をピンと伸ばし、驚きと緊張で固まっていた表情を少し緩めた。

 心臓の鼓動が聞こえる。

 オレは手汗を拭き、ドアに手を掛け、そして勢いよくそれを開いた。

 それは、まるでジムリーダーに挑戦する時のトレーナーのように、オレは戦場へと乗り出した。

 


     ***

 オレが教室に入った瞬間、一斉にこちらに視線が集まった。

 そして、すぐにその視線はすぐにどこかへ散乱していった。だが、さっきより教室が騒がしくなったように思える。

 まあ、それは想定内の範囲。どうでもいい奴が勝手に消えて、そして戻ってきても、どうでもいいことだ。そして、それが今のオレが置かれている状況。どんな大国を率いた英雄でも、最初は2,3人の仲間だけだったのだ。

 

 だがそんな英雄も、最初から1人という訳ではない。

「あ! ジンくんだ!! ジンくんだぁー!」

 紅唐の髪を激しく揺らし、満面の笑みでオレを呼ぶ、翡翠の眼をした少女。

「本当に久しぶり。『おかえり』と言うべきかな?」

 少し歩み進めた先の、そんな妃夏とは違った、落ち着いた笑みを見せながら、オレに右手を差し出した紫眼の少年。

「うぃっす、お久! シゲ盛……いや、ジンくーん」

「もーう! だまれこのばかものー!」

 ひと時代前の、右手を頭の右斜め上に挙げた挨拶をしながら、妃夏をからかい、そして妃夏にポコポコ叩かれているオレの幼なじみ。


「凛島、ジンくんってなにー?」

 そんな妃夏のからかいに加勢する明智。


 そんな4人が、オレを迎えてくれたのは想定外だったのかもしれない。組み合わせもなんか不思議だ。

「おう、これからもよろしく」

 あまりの嬉しさにニヤケてしまいそうだがとりあえずクールに、ひとこと言うとオレは席についた。

「ジンくーん! そこ他の人の席だよー。席替えしたのぉー!」

 ――恥ずかちぃ……!



 そしてその後、みんなからみっちり取り調べを受け、1時間目が始まった。

 とりあえず、今日のミッションの確認だ。

 オレはメモ帳を取り出す。そこにはびっしりと黒鉛で文字が書かれていた。実は昨日の夜、魔獣狩りの後、明智から電話がかかってきたのである。

「それじゃぁここを陣田くん、なんでここでパン屋のおじさんが困ってしまったのか、分かるかな?」

「『パンがちょうど売り切れた時に外国人が入店、パンを所望した外国人にパンが売り切れたことを説明していたところ、近所の誰かにその様子を見られたのであろうか、翌日から近所でノーパン呼ばわりされてしまったから』です」

「正解です」


 もちろん、休んでいた時の学習と予習もしっかりした。つまり、この授業を聞く必要はない。

 さあ、この時間内に作戦の確認をするとしよう。


 『まず確認だけど、明日あなたがすることは大きく言って1つ、私たちのグループに存在することよ』

 そう、今日のオレのミッションを一言で言うと、観察である。これは魔獣狩り前の会議で言われたことだ。

 『まあ、私たちがいつも同じ人といるってことはないから、主にオキくんか凛島くんと一緒にいてもらうことにするわ。まあ、違和感ないように話は通すつもりだから、そこら辺は安心しなさい』

 まあ、オキと凛島なら安心できるだろう。2人ともカースト上位、オレがまず手本にすべき2人である。

 ちなみに、政田はランダムなので選択肢からは外しているらしい。

 そして、ここからが電話だけの内容となる。

 『そして今から、その際のポイントを教えるわ。眠たいから簡潔にね。うーん、観察すべき点で大事なのは、観察対象の表情かしらね。場面ごとに表情っていうのはコロコロ変わるもの。それが意外とイメージの定着に繋がることが多いの。だから、これを明日きっちりと観察すること、それだけよ』

 表情があまり変わらない人は、堅物かシャイなイメージ、むしろ変わりすぎるのは変態、この調節は単純そうで結構面倒である。ちなみにオレは、それを避けるためにいつも下を見ていた。あの2人はそんな調整を、ごく自然に完璧にこなし、他の人からの評価もきちんと得ている。これは観察しがいがありそうだ。

 ちなみに一応、明智からの話は追加もあった。

 『他にも仕草、姿勢、服の着こなし、語勢、語調、話のテンポ、目線とか細かいところまでも色々見て欲しいけど、まだそこはやらなくて大丈夫だわ。あなたには量が多すぎるかもしれないから』

 まあ喧嘩売られたので、これもやっていきたいところだ。

  これが、昨日の夜に明智から出された課題。今日はこれを順序よくこなしていきたいところだ。

 もう作戦の目的をもう一度言っておくが、オレはあの3人への対抗、明智はそんなオレがこれからの戦闘に支障をきたさないためにマネジメントしてくれるのであり、決して明智にベタ甘えしている訳ではなく、これはつまり……一種の契約というものだ。

 なんせ明智は生真面目、オレが戦闘で半端なことをするの

を何よりも嫌っている。


「はーい、これで授業を終わりマース」


 先生のそんな声とともにチャイムが校内に鳴り響いた。

 そんなチャイムは、まるで試合開始のコングのようであった。


 

 そして4時間後の昼飯前、オレは校舎裏に来ていた。実はちょっと前に明智から『昼ごはん前に校舎裏に来なさい』というLINEが来たのである。

 まだ明智は来ていない。少し先には、2人でベンチに腰掛けながら、弁当を一緒に食べているカップルがいる。滅びろ。

 ――てか、なんで校舎裏なんだ?


 別に話ならどこでもできる。どこでも良くないとしてもなぜ校舎裏を指定したのだろう。校舎裏といえば、あまりいいイメージはない。苔の生えた少し湿った土、あらゆる所に雑草が生えている。しかも日当たりが悪く、変な色の水たまりができている。何だか不穏な感じだ。

 ラノベやアニメだとまた別の意味を成す。

 人通りが少ないことから、たまにヤンキー達のたまり場やフルボッコスポット、他に言うと、絶好の告白スポットでもあり、生粋の青〇スポットでもある。


「まさか――!」


 ――明智とオレはここで……


 確かにオレと明智は長い付き合いだが……まだ覚悟が……! オレはまだ健全なDT、チェリーボーイなのに……オレの貞操はここで……!


「……なに1人でモソモソしてるの? 気持ち悪いわよ」

「いやん!」


 どうやら勘違いみたいだ。

 あーよかった、ほんとーによかった。うん、ほんとうに。

 別に悲しくなんかない。むしろ嬉しいのだが、だが……なんだこの気持ちは……!



「んで、なんの用だ?」


 なんとか迅速に理性を取り戻すことができた。明智の目線がとても怖かったのは知らなかったことにしよう。


「まあ、途中経過を聞こうというわけよ」


 明智は腕を組んでずっと立っている。よく見ると右手に割り箸を握っている。


「じゃあ、なんで校舎裏なんだ?」


 オレがそう質問すると、明智は「うーん」と言いながら上を向いた。


「あまり人に聞かれたくない内容だし、それに人気ひとけの少ない場所っていえば、ここじゃないの?」


 あ、オレの考えすぎだなこれ。

 あーまったく、シゲ盛B(くっそ変態)をメッタ刺しにして炙りたい気分だ。

 頭を抱えているオレを、明智は不思議そうな目で見ている。

 やめてぇ……その謎の純粋さがオレの心を蝕むんだよぉ……


「それで、収穫とかはあったの?」


 明智はそんなオレに呆れたように、話を切り替えた。


「あぁ、もちろんだ。ここにしっかりメモしたからな」


 そんなオレの手にはページが真っ黒になったメモ帳がある。

 そう、格ゲーの時と同じだった。上手い人の動画を何度も見返して、それをたくさんメモして、それを自分でも試してみる。その方法でオレはどんどん強くなっていった。今回はそういう感じだ。オキや凛島、つまり格ゲーでいう『上手い人』を観察し、メモする。恐らくこれが明智がオレに伝えたミッションの真の方法であろう。そうだよな? 明智さん。


「……え? あ、用意周到なのね……」


 違うんかーい! またオレの考えすぎだよ。初めて行った市民プールが意外と浅かった、そんな感じだろうか。


「ま、まあ、どんな感じだった?」


 まだ少し戸惑いつつある明智は無視し、オレは咳払いをしてメモ帳を読み上げ始めた。


「ごほん、今日オレが観察したのは凛島だ。表情はコロコロ変わっていたような気がするな。時々笑顔になったり、ニヒルな表情を浮かべたり、そんな感じだった。ついでに他にも言うと、姿勢は座っている時は猫背だったけど、立っている時はピンとしてた。服装はギリ風紀委員に引っかからない程度かな。胸元が少し空いていた様子だ。話のテンポは自分と向こうで1:2くらいかな。なんか向こうの話に反応するような、そんなイメージだった。語勢、語調は落ち着いてた。目線は常に人の顔、仕草は結構あった。例えば、時々髪をいじったり、股間を掻いたり、他にも――」

「――OKストップシゲ盛。よくできるじゃない」


 なぜこんなタイミングで止められたのかはイマイチ分からないが、今言った分ではまだメモ帳の上半分にも満たない。それほど発見があったということだ。やはり明智の言うことにはしっかりと理由が備わっている。

 そう、明智の行動、言動には全て、ある程度の理由がある。意味の無いことはしない。明智はしっかりと、理由の上で行動しているのだ。

 それが故に、失敗はあまりない。それが、明智の完璧主義の根本である。

 このことも、凛島を観察していて分かったことのうちのひとつだ。今回のミッションの副産物と言うべきか、凛島と楽しそうに話をしていた明智を、ついでに観察していたら分かった、いや、確証されたことだ。


「ご褒美に頭を撫でてあげるわ」


 明智はそう言ってオレの頭に優しく手を置いて、頭を撫で始めた。

 恐らくこれも――


「――うん、寝癖はマシなようね」

「だから癖毛っつってるだろうが…….」


 やはりそうだ。いつだって理由がある。もう少し感性的な明智を見てみたいのも事実だ。

 でも悪いというわけではなかった。意外と小さな手だった。


「まあ、それを実践する時が、そのメモが実りを成す時よ」

「あぁ、当然だ――おっと……」


 ギュルルルル……そんな音がなった後、前を向くと、明智が顔を赤くしてお腹を押さえていた。『腹が減った』という正当な理由で鳴った明智の腹の虫、と言うべきか。


「昼飯だな」

「そうね」


 時計を見ると12時10分。まだ時間に余裕はあるが、弁当を今から食べ始めるなら、少し急がなければならない。


「確認が済んだなら教室に戻るわ」


 そう言ってオレは明智に背中を向けた。そうして教室に引き返そうとしていた時、明智がオレを呼び止めた。


「待ちなさい」

「どうしたんだ?」


 オレがそう聞くと、明智はオレが手に持っていた弁当をサッと奪った。


「まだ終わりとは言ってないわよ」

「でもオレも腹減ったんだよな」


 すると明智は左手にあったもうひとつの弁当をオレの前に勢いよく突き出した。


「私も弁当持ってきたから、今日は2人で食べましょう」

「りょ、了解……」


 断るという選択肢はなかった。断ると一生後悔するかもしれない、と本能的に感じたのだろうか。

 とにかくオレは今、冷静を保つのがやっとなほど胸がめっちゃ高鳴る。だって、だって……明智とふたりきりで昼飯なんて……!


――生きててよかったぁ!


 神様、オレを人間に誕生させてくれてありがとうございます。


 少し前のシゲ盛の言動をお前らは決して忘れるな。

 こいつは今、自分が滅びを願った存在になろうとしているのだ。



 





 





次回、後編に続く。


読んでくださりありがとうございます

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