17話 久々に休日
マジで遅くなりました。
二章開幕
会話文にどうでもいい所入れまくってるんで飛ばしてもらって結構です。
なぜか旅行から帰ってきたような気分だ。
明智と共に一夜を明かし、ヘトヘトになったオレは、まず風呂に入った。汚い体では家に入りたくない、家を清潔にしていたい、というオレのルールだ。
家に入った瞬間、どっと疲れが込み上げてきた。外では会話はできたのに……とても不思議だ。
ヘトヘトの中、記憶はないが恐らく風呂を洗って、そして風呂を沸かした。風呂が沸くまでは何をしていただろうか、もちろん記憶などない。
そしてオレは、まるで吸い込まれるように風呂に入った。そして、約28時間ぶりに眠りについた。
特に夢は見なかった。そして、目覚めは最悪だった。
風呂に備え付けの時計を見ると、午後2時。わお、6時間くらい風呂で寝ていたってことだ。
入った時は温かさを感じた風呂は水風呂のようにぬるくなっていた。そしてなにより、手足、そして皮膚全体がまるでおじいちゃんのように、ふやけてシワシワになっていた。お陰でiPhoneの指紋認証ができない。
そして、体を拭き、髪を乾かし、服を着、今に至るわけである。ちなみに、髪を乾かす時間は過去最短だった。鏡を見るのが少し楽しくなった。
――今頃明智は何してるんだろうな……
そんなことを思いながら、コップにお茶を注ぎ、そしてゴクリと一気飲み。キンキンに冷えた麦茶は、オレの五臓六腑に染み渡る。
リビングの大きな窓から外を覗く。外は見事に快晴、太陽の眩しい光がこの部屋の隅々までもを照らす。日差しのおかげで部屋の電気を付けなくても十分明るい。
そんな室内の中、オレはパソコンを起動した。最近できていなかった、MMORPGのログインをするためである。
パソコンは静かに機械音を出し、画面に大きく光を映し出した。なんだか久しぶりに見る光景だ。
ランキングはとりあえず落ちていないことを確認し、手鳴らし程度にソロプレイをする。やべ、めっちゃ死ぬんだが。
「おいおい、やべぇって……」
8畳の部屋にマウスのクリック音とキーボードのタイプ音が交互に響く。
気づかないうちに時計の針はどんどん進んでいくのだった。
「あぁ……腹減ったぁ〜」
気づくと、左に見える窓から濃紺の空が広がっていた。
腹を鳴らしたオレの前のパソコンには、『ありがとうございましたm(_ _)mとても強いですね! 次もよろしくお願いします(^O^)』というチャットメッセージが流れている。
本日の成績、59勝3敗。やっぱりゲーム最高。熟練された技術は簡単には落ちないのだ!
とは言うものの、こんな楽しい時間もじきに少なくなっていくのは逃げられない現実である。リビングの雨戸からはどこか寂しい、夜の冷えた風がリビングへ吹き込んだ。
ってまあ、そんなこと考えていたらキリがない。とりあえずメシだ。
風呂の後、冷蔵庫を覗いたのだがなんと食料がナッシング、これは死活問題だ。確か、引きこもっていた時は……ポテチしか食ってなかった。そんな体でよく何百人の男を相手にできたものだ。
『やめて! 冷蔵庫の食料はもうゼロよ!』 そんな声が何処かから聞こえる。
オレのライフももうゼロだ。細胞達がストライキを起こしそうな勢いである。早く食料を確保せねば。
オレは靴下と靴を履き、財布を持ってスーパーへ向かった。
***
そうしてオレは近くのスーパーに辿り着いた。それにしてもとても広い空間だ。いつもはコンビニで色々済ましているので、どこに何があるのか迷ってしまう。天井にかかっている看板を頼りにカートを進めていく。
さあ、まずは野菜だ。
やはりビタミンは大事。勉強も能力者も、まずはしっかりとした栄養補給からだ。葉物、茎物、根菜、豆科、キノコ、山菜、勢いよくカゴに入れていく。少し多いような気がするが、せっかくここまで来たので沢山買っておこう。
気づくと、カゴが満タンになっていた。よし、これくらいか。ずっしりしたカゴをカートの下の段にセットする。カタカタという音とともにカートはどんどん進んでいく。
次は飲み物だな。
飲み物は、その時の料理、気分を左右する。やはりお茶だけでは寂しいし、客が来た時もジュースくらいは出してやりたい。まあ、来るか分からないが。······あぁ、ジジイは茶で十分だろう。
オレンジ、りんご、マミー、スポーツドリンク、烏龍茶、手際よくカゴに入れていく。おぉ、結構ずっしりするな。少しフラつきながらも上段にカゴをセットする。少しカートの方向転換がしづらくなった。
そして最後に肉だ。
やはりエネルギー源としてオーソドックスな食べ物。しかも、多岐にわたる用途があり、まるで魔法のような食べ物である。最後にした理由は簡単、生物だからである。
さあ、どうするか。鶏肉······いや、牛肉……? いや、最初は豚肉だな。
お、タイムセールだ、ラッキー。そう思い、豚肉のパックに手を伸ばした時、シゲ盛は気づいた。とてつもなく大きな揺れに。
ものすごく重いはずのカートがカタカタと揺れる。地震? いや、でも緊急地震速報は鳴ってないしな。
その時、シゲ盛は背後から迫り来る強烈な何かを感じ取った。咄嗟に後ろを振り向いた時には、もう遅かった。
「只今から、タイムセールを始めまーす!」
その時、オレが見たものは、大量のババ······マダムだった。
「どいてー! それ、私が予約したヤツだからッ!」
いや、ホテルかよ! どうやって予約できるんだよ!? 出来るならオレもしたいよ。
「アンタなんかに肉は似合わないわッ!」
いつの間に豚肉がキャビアより品格高い食べ物になってるんだよ!?
「家で子供が待ってるの! ずっと家でゲームしてるから、しっかりエネルギーつけてあげなくちゃ!」
おっ、今度は正常者か……?
「――来年40歳のッ!」
いや働けよ。
まさにムゲン・ザ・ハンド。しかもG5。
その勢いは衰えない。
――痛てッ! 痛い痛い! オレは肉が欲しいんだ。お前らの贅肉なんていらねぇんだよぉ!
強いて言うなら、可愛い女の子の肉べん――なんでもない。
こうして地獄の時間は過ぎていった。
沢山のマダム達が過ぎ去った戦場に残されたのは、たった1枚の値札だけだった。さっきまであんなにあった肉達はもうない。おれの手にはただ1パックだけの豚バラ肉。あの戦場の中、辛うじて手に入れたものだ。
よし、これで食料は取り敢えず揃った。もって2週間くらいだろうか、いや、それ以上か。まあ、そんなことより今日のことを考えよう。
カートには一パックだけ肉がある。うーん、中途半端に一つだもんなぁ……うーん――よし、決めた。
今日の晩飯は、ちょっと豚肉が入った、キャベツやニンジンの野菜炒めにしよう。
生姜焼きや酢豚も一瞬考えたのだが、生姜焼きはタレを買うのが勿体ない、酢豚は単純に面倒くさい、という理由で却下となった。
そうしてオレはレジに向かってカートを押し始めた。
その時だった。
「おぉ、美味そうだなぁ」
そんな声が思わず漏れてしまう中、オレはそこに向かいカートを進めた。
『特売! 美味しいりんご ※おひとり様1個まで』
そう書かれた札がついた箱の中のりんごを見る。
見てみると、鮮やかな赤色とともに、とても美味そうな匂いを周囲にただよわせている丸い物体が一つだけポツンとあった。なんとラスト1個、これは買うしかない。
オレは、そのひとつのりんごを手に取ろうと手を延ばした。
その時だった。
「「あっ……」」
一瞬にして手に伝わる、ふわりとした少し温かい感覚。オレは思わず手を引っ込める。どうやら誰かの手と触れ合ったみたいだ。
いや、待てよ……このシチュってまさか······!
よくラブコメであるアレだ。本を取ろうとしたら……そこから恋に……みたいなヤツ。それが今のとかなり似ているのだ。
じゃあこの次のセリフは――
「「······ごめんなさい」にゃノ……!」
よしよし、その通り――いや、待てよ。にゃノ?? そんなセリフあったか?
そう思った矢先、オレの首は、無意識に自然に手が当たった方向に回っていた。
……えっ?
そして、そんなオレの目は、スーパーで500円で売っている弁当の白飯にかかっているごま塩の黒ごまのように、点になった。
「じゃあいただくにゃノ」
オレの前にいるヤツ、いや、ガキか? それにしても特徴のある語尾だな……
身長はオレより低く(多分妃夏よりも低い)、少し頭のところが盛り上がったフードを被った、少し高い声の人間? がりんごに手を伸ばしていた。
「……いや、ちょっと待て」
今コイツしれっとりんごを貰おうとしてたよな!? ずる賢いヤツめ……
すると、その人間はチラッとオレの方に振り向いた。アクアマリンの大きな瞳がじっと見つめる。目のサイズから見て、恐らく幼い。フードの中に見えるものはその特徴的なジト目だけだ。
「どうしたにゃノ?」
「いや、オレもそれ欲しいんだけど……」
それを聞くなり、その人間は首を傾げた。
「早い者勝ちじゃないのかにゃノ?」
「いや、違うだろ」
この世は早い者勝ちでは成り立たない。人々が共に譲り合い、気配りをして世の中、そして秩序が成り立っているのだ。
てか、りんごに手を出したのって同時だったよな……?
「じゃあ、さっきのおばさん達はなんだったにゃノ?」
「えっ、それは……」
うぬぬ……正論だ。確かに、あの時のBBA共は完全早い者勝ちだった。どう対抗すれば……なんか腹が立ってきた
「それは誰のものにするかいちいち決める暇がないってことじゃ――てか、りんごの時は同時だったじゃねぇか」
「その後に先に手を出したにゃノ」
やっぱりその後の事かよ! それは反則だよ!
「それはちげーだろ」
「なんで違うにゃノ?」
ガキか! なんか猛烈にムカムカしてきたぞ……!
「てか、なんだその格好は!? 屋内くらいフード脱げよ!」
「そんなの人の勝手にゃノ! お前こそ、そのちんちくりんな格好は何にゃノ!?」
「買い物くらい自由な服装でさせてくれよ! じゃあ何だ!? このスーパーってそんなに格式高いところなのか??」
「じゃあ屋内でフード被ることくらい自由にゃノ! 話が矛盾してるにゃノ! 小学校からやり直せにゃノ!!」
あぁぁぁッ! この野郎ッ!!――
10分後
「朝は白飯にゃノ! 日本人ならそんなこと当たり前にゃノ!」
「いや、パンだ! 日本人イコール白飯? 考えが古くせぇだよ!! お前はサヘラントロプスチャデンシスか!?」
「ご飯の栄養を知ってるかにゃノ! たんぱく質 、脂質、炭水化物、亜鉛、鉄分、カルシウム、ビタミンB1、食物繊維、その他諸々沢山含まれてるにゃノ! それにたくさんの栄養のあるおかずと合うにゃノ! パンなんてスッカスカなモノ食べてもすぐに腹が減るにゃノ!」
「パンをナメんなよ! 炭水化物、たんぱく質、ビタミンB1・ビタミンB2などのビタミン類、カルシウム・鉄などのミネラル、その他諸々が含まれるんだぞ! それに、カルシウム源となる牛乳・乳製品や、たんぱく源となる肉・魚類とも相性がよい食品だ! 白飯なんかより何十倍も上だッ!」
「いいや、白飯にゃノ! それに米は何にでもなるにゃノ! 加工米飯、発芽玄米、即席がゆ、ポン菓子、玄米茶、お米アイスクリーム、焼き米、ひなあられ、包装もち、おかき、あられ、きりたんぽ、乳児粉、柏餅、白玉粉、もち粉、落雁粉、道明寺粉、大福餅、せんべい、シリアルバー、米粉パンクッキー、ケーキ、カステラ、米粉麺、ビーフン、からあげ粉、天ぷら粉、餃子の皮、ピザ生地、玄米飲料、日本酒、焼酎、みりん、米酢、米みそ、米こうじ、甘酒、米飴、ぬか床、ぬか漬け、食用米油、その他にもいーっぱい加工できるにゃノ! パンごときと比べるまでもないにゃノ! お前、頭おかしいにゃノ!?」
「いいや、頭おかしいのはお前だ! イングリッシュマフィン、チョコのハースブレッド、チョコとくるみのハースブレッド、アウスゲホーベネ、ココナッツロール、ダルニツキー、トマトソフトロール、デニッシュ食パン、チョコレート食パン、スモークチーズブレッド、トーストさっくり食パン、黒蜜ロール、フルーツグラノーラスティック、デュラムのソフトハースブレッド、長時間発酵中種食パン、ベーグル風食事パン、くるみとレーズンのハースブレッド、コーヒー食パン、レーズン食パン、ポーリッシュ種使用山形食パン、食パンだけでもこれ、いや、それ以上の食品に加工出来るんだよ! もっとお前は世界を知れィッ!」
そして15分後、やっと決着がついた。
「そこまで言うならジャンケンで決着だ! 文句ないよな!?」
「もちろんにゃノ! ぼっこんぼっこんのギッタンギッタンにしてやるにゃノ!」
――どこのジャイアニストだ? てか、ジャンケンでそんなことにはならねぇだろ。
2時間後のオレはそう思う。
そしてオレと人間は、大きく腕を上げた。
「「最初はグー、ジャンケンポイッ!」」
固く拳を前に出したオレに対し、前の人間は……大きく手を広げていた。
「あぁぁぁぁ!」
「やったにゃノー!」
そうして、オレはりんごを逃してしまったのであった。
何でりんごを1つをこんなに欲しがったのか、のちのち不思議に思うのであった。
***
夜9時、夜ご飯を終え、オレは食器を洗っていた。
窓から見える空はすっかり黒である。
そんなオレのズボンのポケットの中でスマホが鳴る。
水を止めて水で濡れた手をタオルで拭く。そしてスマホを開く。
『ちょっと今日は早めに集合ね。会議をするわ』
明智からのLINEのようだ。
「そうですかい……」
そう言いながらオレは目のあたりに手を持っていく。
――あ、メガネもう無いんだった。
次に、額のあたりに手を持っていく。
――あ、前髪切ったんだった。
いつも通りのようで、いつも通りじゃない。オレの生活は変わろうとしているのかもしれない。
「さあ、行くか」
そうしてオレは外に駆け出した。
あの後に来た、明智からのLINEの続きは、昨日のオレと明智の不在のせいで、オキとジジイに大変な思いをさせてしまった、という内容だった。
これ以上迷惑もかけられない。よし、頑張るか。
5時の方向には、相変わらず大きく、そして不思議な天体が浮かんでいた。
お読みいただきありがとうございます




