SS 16話の付け足し(2/2)紺青のリボン
読んどいたほうが、いいかも……?
不眠のまま約28時間、そんな時、手鏡に映るいつもとは違う自分に明智は少し驚いていた。
前にもシゲ盛には何度か髪を結ってもらったことはあったのだが、それはポニーテール程度、これほどの腕前があったことを今知った。
そして、髪の後ろに見える大きなリボン、自画自賛したくなるほど似合っている。
密かに美容学校に通っていたのだろうか、そう疑うほどシゲ盛の才能に驚き、そして込み上げる嬉しさを隠せない明智である。
☆☆☆
髪を結い終わり、杖も修理し、もうすべきことは全て終わった。
別にもう帰れるのだが、もう1つ明智に確認したいことがあった。
「明智、もしかして今日、いや昨日のヤツってただのお買い物じゃないのか?」
明智は鏡を見ながら鼻歌をうたっていた。表情は固いが、どこか嬉しそうに感じる。
そしてその鼻歌は、ゆっくりと聞こえなくなっていった。
「······どうしてそう思うの?」
そんな透きとおる声が聞こえたと同時に、オレの探偵スイッチが入った。
「まずおかしかったのは日程だ」
さてさて、蝶ネクタイっと……じゃなくて、そう、1つ目の問題は日程である。
「買い物の日程は土曜日、それを知らされたのは金曜日だ。用意周到なお前はいつもきちんと予定を立てるために前日に約束することはない。そうだろ?」
これは明智との何年もの付き合いの上で分かること。ここから推理するに、土曜日に何かあると疑うことができる。
合ってるよね、小五郎のおっちゃん?
「ふぅん……」
明智は頬杖をついて、静かにオレの推理を聞いている。
そんな明智を、オレは勢いよく指さした。
「次に、スマホだ!」
「説明よろしく」
「喫茶店、散髪の後、それにショッピングモールの帰りだってそうだ。最初は屁だと思ったけど、まさかそんなことはない。ずっとお前のスマホが鳴っていたとすれば、なんか怪しくないか?」
「なるほどね……」
明智はオレをじっと見つめている。まるで、オレの推理の続きを早く聞きたいような、そんな青の双眸だった。
「そして、極めつけは――」
オレはそう言い、明智の下半身を指さした。
「そのスポーティーな服装に着替えたことだ!」
オレがそう言うと、明智はゆっくりと、小さく頷き、そして何故か黒ニーソを脱いだ。太陽が昇ってきた時刻、恐らく暑くなってきたのだろう。
そしてブランコに両足をチョコンと乗せ、体操座りの姿勢になっていた。
「おぉ……」
白く、そして美しい生脚が目に映る。思わず感嘆の声が漏れてしまった。--落ち着けシゲ盛、今は探偵の時間だ……!
「最初に会った格好では動きにくかった。だから動きやすい服装にした。これでどうかな?」
以上がオレの推理である。我ながら完璧、と言いたいところだが、正直言って穴ぼこだらけ、ワトソンに鼻で笑われる。合ってる確率は五分五分、いや、それ以下だろうか。
オレがすべてを話し終えたとき、明智は膝に顎を掛けながら何かを考えているようだった。
「正解なんだけど……」
「ほぉ……」
あ、正解だったんだ。やったあ。
そして、小鳥のさえずりが聞こえ終わった後、明智はおもむろに話し始めた。
「説明が浅いわね」
「……だな」
やっぱりわかってらっしゃった。さすが……なのか?
「まあ、もともと隠す気はなかったんだけど、ネタバレしてあげる」
「頼んます」
まあ、オレが勝手に推理を始めたのだから反論はできない。そんなオレを、まるで親のように見ていた明智の表情が頭から離れない。なんか勝手に萎縮してしまう。
「まずは、あなたの言ってたように、これは単なる買い物じゃなかったことは正解よ。実は元々、別の用事があったの」
「用事とは?」
オレの直した杖はいつの間にか明智のカバンの中に入っていた。
「実は数日前、ジジイから依頼があったの。イギリスの暗部組織を崩壊させたグループのアジトを特定したらこの街にあったってことが分かって、そのグループの調査をして欲しいってね」
なるほど、と納得して、話の続きを聞きたいのだが、一つ気になることが浮上してきた。
「──待てよ明智。オレとオキはそんなこと聞いてないぞ」
すると、明智は深くため息をついた。
「オキはバカすぎて話が通じないから除外。あなたも、数日間はずっと家にいたんじゃないの? それとも学校をサボってどこかの女と楽しく遊んでたの? とにかく連絡不信で除外ってこと。それくらい自覚しなさいよ」
罵られてしまった。ていうか、ガン萎えしてて引きこもっていただけだ。オレに女なんていない。ずっと引きこもってたんだ。うん。一人でずっとね……
「一部変な内容が混じっていたが、その理由なら納得できる。それで、それからどうしたんだ?」
「もちろん引き受けたわよ。それで、偶然決行日が昨日、土曜日ってことになったの。しかも偶然、あなたが立ち直ったのもその前日の金曜日。それならついでに……と思って誘ったってこと。一人より二人の方が心強いでしょ?」
「······じゃあ、なんでオレにこのことを言わなかったんだ?」
「いちいち話をするのが面倒くさかったし、それに――」
すると、明智は両太ももをくっつけ、モジモジしだした。
「――······シゲ盛に心から買い物を楽しんで欲しかったもん······せっかくの二人きりなんだし」
意地悪にも、途中で風が吹いてしまった。そのせいで、半分くらいしか聞き取れなかった。
「すまん明智、もう一度言ってくれるか?」
すると明智の頬が少し膨らんだ。
「あなたに心から買い物楽しさを分かって欲しかったってこと。純度100%のね。それだけ」
あれ? その後にも何か言ってたような……まあ、気のせいかな。
「じゃあ、ずっと鳴ってたスマホは一体何なんだ?」
オレがそう言うと、明智はポケットからスマホを取り出し、オレに画面を見せてきた。オレはその画面を見て、事態のあらすじをかなり理解することができた。
そこに書かれていたメッセージ、『16時25分、倉庫裏』、『15時8分、商店街』、『16時45分、ショッピングモール前の平面駐車場』······などは、明らかに誰かの位置、恐らく、暗部の男たちの位置なのである。
「なるほど、つまりお前その情報を見て暗部組織と接触したってことなんだな」
「でも、私が頼まれたのはあくまでもそのグループの素行だけ、もしもと思って動きやすい格好には着替えたんだけど……どうやらそれが正解だったみたい」
まあ、最初の格好でもコイツなら派手にやってくれる気はするが。
「それで、男達と戦闘になった時、勝機はあったのか?」
「もちろんあったから突入したのよ。私はあなたみたいに無鉄砲じゃないの」
胸を張って、余裕の顔立ちで倉庫へ正面突破する明智の姿が思い浮かぶ。しかも、割とハッキリと。
オレが倉庫に来た時の様子から見るに、200対1くらい? 霊長類最強のあの方もビックリだ。
だが、そこから読み取れることはもう1つある。
「でも、お前一回死にかけただろ」
「そりゃ、まさかそのグループのカシラが能力者なんて知らなかったからよ。しかも、死を覚悟することなんて能力者たるもの当たり前じゃないの? あなた、よく今まで能力者やってこられたわね」
「死か······」
死。それは、少しシリアスなアニメなどでは当たり前のようなワードであり、過去にオレが言われていた言葉の一部分でもある。それは、人間が生きている限りいつでも付き纏う。
確かに、今明智に言われるまで全く関係ないことだと思っていた。だが、考えてみるとそうだ。
半赤月の下でのことを思い出す。"何事もキレイに済むことはない"これもその一つだとしたら、オレは考えを改める必要がありそうだ。なんだってオレは世界を救うって言ったんだ。
朝飯を食い終わった時間になった。明智を見ると、身支度をしていた。靴下は脱いだままのようだ。
「じゃ、帰るか」
「······疲れた」
二人歩く朝の帰路も終わりに差し掛かった頃、明智が口を開いた。
「ね、どうやって倉庫まで来たの?」
それを聞くなり、オレはポケットからとある紙切れを取り出した。
「1万円札をちぎって場所を知らせるヤツなんて、お前しかいねぇだろ」
「まあ、そうかもね」
すると、明智は静かに微笑んだ。総額3万円程度か、これって復元できるかな?
「まあ、真実はいつも一つだからな!」
「何言ってるの?」
こうして時間は過ぎていった。
そして、オレたちは別れを告げた。昨日の倉庫のように、背を向けて。
「じゃ、また」
すると、明智から意外な返答が返ってきた。
「明後日、学校しっかり来るのよ」
「あ……」
アカン、忘れとった。明後日学校やん。そんなん知らんて。なんでやねん!!
せっかくハッピーエンドだと思ったのに……
無駄に明るい朝日がオレを照らす。
さて、学校も能力者もどうなることやら。
一章完全終了!
二章の方もよろしく。




