9話 陣田 シゲ盛
8月22日改稿済み、待たせてごめんなさい
拝啓 いつかのお前へ
時候の挨拶をここでは書くべきだと思うが、書けない。今はどんな季節か分からない。
ただ酷いいじめに耐えているだけだ。正直に言うと、なんで生きているかも分からない。
死にたい。
オレはこの手紙を読まずに死んでいるかもしれない。
でも、敢えて、死んでいないと仮定し、オレは問う。
オレは、どうすればいいのか教えてください。
15歳のオレより
***
異常を感じ始めたのは、妃夏のインタビューの日から4日後くらいのことだった。
シゲ盛くんが学校に来ていないのだ。
最初は風邪だと思ってあまり気にしなかったけど、1週間経った今、まだ学校に来ないのはさすがにおかしい。
そして今、シゲ盛くんが来ないことに異常を感じる数人が休み時間に教室の後ろに集まっている。
「もうすぐで2週間だよ。ジンくんどうしたのかな?」
シゲ盛くんの数少ない話し相手、妃夏は不安が隠せない様子だ。
それに共感したボク含め他3人も一斉に頷く。
「もしかして、またあの3人?」
そう答えたのは、何故かボクの家にシゲ盛くんと一緒にいた浅間。彼女も、シゲ盛くんに異変を感じた1人だ。
「それは筋ありだねぇー」
妃夏はコクリと頷く。何か心当たりがあるようだ。
「あの3人って?」
そんな話の意味が全く分からない矢嶋は、顎に手を置き、目を細める。彼もまた、シゲ盛くんを昼飯に誘い、また、テスト返しの日にシゲ盛に怒っていた、というように、シゲ盛くんに関わりがあるメンバーである。あまり学校の事情は知らないらしい。
「真坂、吉村、中田のことだよ」
そしてボク、それに2,3人加えたのが、シゲ盛くんに異常を感じているメンバーだ。
残念ながら皮肉にも、他の人はいつも通り生活している。
「なるほど」
矢嶋もコクリと頷いた。
真坂、吉村、中田。この3人は、友達も多く、かなり人気があり、クラス内、学年でも結構な発言力がある。そして、シゲ盛くんに確執があり、シゲ盛くんのイジメの中心人物である、ということが、シゲ盛くんを知る妃夏ら含め数人の間で噂されている。
「でも、陣田に何をしたのかな?」
頭上に小さなハテナを浮かばせた浅間。
「うーん、どうだろうね〜?」
そのハテナを大きく膨らませた妃夏。
「カンチョー入れたとか、そういうレベルではないな」
そのハテナを盛大に破壊する矢嶋。
そんな3人の会話を、ボクは黙って聞いていた。
また、ボクは同時にあることを思っていた。数こそは少ないけど、必死に考えを出して、こんなにシゲ盛くんのことを考えてくれる人がいるって、シゲ盛くんはいい人に囲まれているな、と。
以前にシゲ盛くんに怒っていた矢嶋だって、なんだかんだでシゲ盛くんのことを考えているし、浅間も、1回しか話したことがないのにこんなに考えて、それに、妃夏だってそうだ。
さあ、ボクも話に交じるとしようか。
***
そして、放課後、東に伸びる2つの影。ボクは妃夏と2人で帰っていた。
だが放課後になっても結局、ピンとくる答えは思いつかずじまいだ。
「今からどーするの?」
妃夏はどうやら万策尽きて、もう絞ってもアイデアが出てこないほど疲れているようで、とてもダラーっとしている。
「うーん、取り敢えずシゲ盛くんの家に行ってみようかな」
シゲ盛くん本人の生存確認も兼ねて、やっぱり、本人に直接聞くのが一番早い。
「うん、それがいいと思う!」
どうやら妃夏も賛成のようだ。
でも、ここには懸念がひとつ。
「シゲ盛くん、出てくれるかな······」
そう、3人の仕業としたら、もしかしたらシゲ盛くんは、面会できないほど精神が病んでいる可能性だってあるのだ。それだとしたら、ボクなんかが行っても大丈夫なのか、と思ってしまう。
「うーん······」
すると、横から手をポンと叩く音が聞こえた。そんなボクに妃夏がある提案を出した。
「じゃあさ、オキくんとひとみんと一緒に行けばいいじゃん!」
「オキくん? ひとみん?」
おっとここで初耳ワードの登場だ。
ボクは普通は人をニックネームで呼ばないので、そこら辺の情報を知ってるか、といわれれば、全くもって皆無なのである。
すると妃夏は少し首を傾げた。
「沖俵 織くんと、明智 瞳ちゃんだよ?」
「あぁ、あの人ね」
確か、沖俵くんは剣道がすごく強いらしくて、明智さんは順位表の上の方で見たことがある。あれ? もしかしてこれって常識なやつ?
「もしかして、知らなかった?」
妃夏がボクの顔を覗き込んでくる。純粋に疑問だったのかもしれないが、今のボクには煽りに見えてくる。いかんいかん。
「うーん、うろ覚えかな」
まず、ボク自分から話かけようとは大体思わない。
友達の過半数は、話しかけられて友達になった人ばかりだ。まあ、極端にlonelyだったらさすがに話しかけたくなるのだが。
でも、シゲ盛くんは例外だ。あの時、極端にlonelyな感じはしなかったのだけれど……どこからか漂うダー〇ライの仕業だろうか、不意に話しかけてしまった。まあ結果、趣味の合う友達になったのだから別にいいのだけれど。
まあとにかく、話かけられていない人に関してはその人の特徴がない限り全く知らないのだ。
「それで、なんで沖俵くんと明智さん?」
「それがね――」
妃夏は丁寧に説明を始めてくれた。
そして少し後
「――なるほど。あの2人と仲いいんだ。シゲ盛くんって」
少し意外だった。話によると、シゲ盛くんと明智さんと沖俵くんは仲がいいらしい。妃夏は、その3人の接点までしっかり話してくれた。どうやら幼なじみらしい。正直、沖俵くんと明智さんは仲が良くても別に違和感がないのだけれど、シゲ盛くんと明智さんや、シゲ盛くんと沖俵くんの関係は想像もつかなかった。やっぱり人生塞翁が馬なんだね。
「だから、オキくんもひとみんもシゲ盛くんのこと気になってるのかな〜って」
「なるほど」
2人とも、今までボクが気づかなかったので、表には心配する様子は見せていない。でも、予想だけれど、すごく気にしていると思う。だって数少ないシゲ盛くんと仲がいい人だ。心配しないのもおかしい。少々、シゲ盛くんには申し訳なかったが。
まあとりあえず、初耳の情報も聞けたし、もしかすると、これは重要な鍵になるのかもしれない。
「妃夏って人思いなんだな」
「ふ、普通だよ!?」
こうして、急に妃夏の頬が赤くなったのを不思議に思いながら、ボクは一旦家に帰ったのだった。
***
「それにしても、本当に何してんだろうね」
「どうだろうね〜」
そして今、妃夏が連絡を入れてくれた明智さん、沖俵くんの2人とともに。ボク達3人はシゲ盛くんの家に向かっている。
実は、予想通り2人ともシゲ盛くんのことが心配だったようで、今からシゲ盛くんの家に行く予定だったのだそうだ。
シゲ盛くんと沖俵くんと、明智さんか。
改めて思うけど、なんか、ほんとうに意外な組み合わせだな。
そして、ボク達はシゲ盛くんの家に到着した。
二階建ての立派な一軒家。見た感じかなり高そうだ。
ピーンポーン
少し緊張しながらインターホンを押す。だが、全く反応がない。何だか嫌な予感がしてきた。
「おーい、おーい······ドンドンドンドンドン!」
次に、沖俵くんがドアを叩く。
すると、中から人が出てきた。
「······何だ」
その瞬間ボクは驚いた。
顔はすっかりやつれ、目の下にクマができて、髪はボサボサで、ずっと下しか見ていない。まず何より、目に光が灯っていない。
そんな、力のない声の主、シゲ盛くんの姿に。
「2週間も学校に来てないから心配してた。まあ、何より死んでなくてよかった」
「……」
「わたしたち心配したんだよ? 学校はどうしたの?」
「……」
シゲ盛くんは、沖俵くんと明智さんが話しかけても何も反応しない。ずっと立ったまま、いや、地面の上に存在しているだけだ。
「どうしたの? なんか静かだけど」
いつものシゲ盛くんなら、ここで何か反応するはずである。でも、今はいくら聴力に意識を傾けても何も聞こえてこない。
何も聞こえない、虚無の時間が過ぎる。
そして少し経った後、やっとシゲ盛くんの口が開く。
「······帰ってくれ」
そのとても細い声は、木の葉の揺れる音に直ぐにかき消されてしまう程の細さだった。
悪い予想が当たってしまったのか、精神的に不安定な状態のようだ。
ボクは言葉を失ってしまった。明智さんも何も話さない。
だがそんな中、沖俵くんは黙ってはいなかった。
「俺は帰らない」
シゲ盛くんに、静かに、そう言い放った。
しばらくした後、沖俵くんは話を続ける。
「お前には、頼れる仲間がいるじゃないか」
沖俵くんの言う通りだ。シゲ盛くんの周りには少し羨ましいほどのたくさんの友達がいる。捉えようによってはたくさんではないかもしれないが、シゲ盛くんのことを大切に思ってくれる友達はちゃんといる。
だが、シゲ盛くんは何も言わない。
また、沖俵くんは話を続ける。
「なんで頼らないんだ? 相談くらい受ける。いつだって、真剣に――」
だが、そんな沖俵くんの言葉を、シゲ盛くんの小さな声が遮った。
「――······うるさい、黙れ!」
そして、少しシゲ盛くんは声を荒らげた。
しかし、そんなことでは沖俵くんは怯まない。
「これで悩みは出せたか?」
シゲ盛くんは少し息切れている。
「いつでも悩みなんか聞く。だから、顔を出してくれないか?」
そして、沖俵くんは言うべきことを全て言いきったようだ。静かに、シゲ盛くんの返事を待っている。
沖俵くんの第一印象は、とても落ち着いた人だったのだが、シゲ盛くんがとても大事なのだろう、今はとても熱かった。能ある鷹は爪を隠す、とは違うだろうけれど、落ち着いた見た目の中に、静かな炎に燃えた熱い心を持っている、そんな人なのかもしれない。本当にシゲ盛はいい友達を持っている。
また、その情熱はきっとシゲ盛くんにも届くはず。シゲ盛くんの心に大きく響いただろう。
そして、シゲ盛くんは口を開く。
「······なんなんだよ、鬱陶しい、帰れ」
ボクたちの表情は一気に固くなった。
その言葉は、さっきと全く変わらなかったのだ。
「酷いな、全く······」
そんな沖俵くんの言葉の勢いは、さっきと段違いでなくなっていた。
そう、現実は上手くいかなかった。
沖俵くんの言葉はシゲ盛くんの心には響かなかった。
「熱でもあるの? 大丈夫?」
ここで初めて明智さんが口を開いた。そしてその言葉は、決してシゲ盛を心配したのではなく、ボクにはシゲ盛くんへの憤りを表した一言のように聞こえた。
「······お前も鬱陶しい、帰れ」
「……」
そして明智さんは、そんなシゲ盛くんの言葉の後は何も話さなかった。
今の状況的にあと話せるのはボクだけだ。慎重に、言葉を選んで……
「落ち着きなよ、どうしたの?」
「······お前は一体なんだっていうんだよ」
「それは······」
だが、そんなことも意味を成さず、頭の中にあった言葉は全てどこかへ消えてしまった。もう何を言えばいいのか分からない。
3人をすっぱりと断ち切ったシゲ盛くんは、取っ手に手を置き、ドアを閉めた。
だが、ドアは完全には閉まらなかった。
さっきまで一言しか話していなかった明智さんが、そのドアを足で抑えていたのだ。シゲ盛くんは強引にドアを引っ張っている。そんなシゲ盛くんに、明智さんは苦しみながらも手に持っていた紙袋を、自ら作ったドアの隙間から家の中に投げ入れた。
「これだけ受け取っておいて。じゃあ、また」
そして、勢いよく足を離した。ドアはバタンという音を立てて勢いよく閉まった。
まだ何も言葉が出ない。そんなお通夜なような3人に、少し吹いた風ですら、ボクたちの体温を少しずつ奪うことしかできなかった。
そして、何も話さずにボクはボク達は帰った。
あの時、誰も反論できなかった。何も言葉が出なかった。
その事が頭の中から離れないまま。
☆☆☆
ずっと何もしない日々が続いている。
食事をする気もないし、ゲームもする気がない。ただただ座っているだけ。
いつもは静かなオキがあんなに熱くなっていたのは初めてだ。
友情なんて、いらない。
そんな中、オレはあることを思い出す。
『これだけは受け取っておいて』という明智の言葉。
そして、玄関にあったもの。
オレはそれを開ける。
そこには、アルバムがあった。
そして、思い出されるあの日々――――
読んでくださりありがとうございました。
次は長くなります。




