7話 ひでぇテストだ……
2月28日改稿完了しました。
国枝高校 2年普通科には群を抜いて好成績を出し続けている3人の生徒がいる。
彼らは『3強』と呼ばれ、テストの成績上位を独占している。3強とは以下の3人である。
『政田 鷹留』
中間考査学年1位。過去に例のないオール100点、スポーツ万能、その他諸々、何もかもを完璧にこなす。
しかもイケメンで誰にも優しい。まさに、非の打ち所のない生徒だ。
その人気は学校中に広がっており、学校の知名度ランキングは1位であり、学校のスターのような存在である。
尚、知名度ランキングは全学年から見た二年生の知名度のランキングである。
『明智 瞳』
中間考査学年3位。こちらも、何もかも完璧にこなす完璧美少女。
かの有名な明智財閥のお嬢様でありながら、八方美人で誰とでも分け隔てなく楽しく接する。彼女と喋って飽きる人はいないと言われている。
それも相まって女子のトップカーストを独占しており、こちらも知名度ランキングは1位。学校のアイドルのような存在である。
まさに学園のパーフェクトマドンナのアイドルという欲張りな肩書きが似合う。
ちなみに学校の知名度ランキングの3位は、新聞部の部長で、斬新な記事により新聞を廃部の窮地から救った英雄、そして明るい性格などで人気がある妃夏 芽久である。
4位は、剣道は全国一位の実力を持ち、運動神経抜群、しかもイケメン、また学力学年最下位により極端に目立っている沖俵 織である。
5位は、陸上部の絶対的エースであり、度々全校集会などで表彰状を貰うことから名が知れていき、また女子憧れのルックスを持ち、さらにこれまた明るい性格などで人気がある浅間瑠海である。
このように、知名度ランキングの上位はいえば男女トップカーストのグループによる独占状態にある。
ここで思ったことはないだろうか。
『3強のあと一人は誰なのか』と。
それがこの人だ。
『陣田 繁盛』
中間考査学年2位。成績こそ優秀だが、とても暗い性格である。
学校では、ほんの一部の特定の人としか会話をしない。
少し癖毛の髪は長めで、前髪が目にかかっている。
ゲームの才能が世界で8位ということが学校で少し名が知れている。
だが、知名度ランキングとしては全然下のほう。
3強のうちの1人ではあるが、それほど知られていない。なので、『3強のうちの2人は分かるけど、あと1人って誰?』という現象が発生している。
これはかなり異常だ。
制作:国枝高校新聞部(めぐっちを除く)
***
時は6月、梅雨に差し掛かった頃。
外では雷を伴った大雨が降り続いている。
そんな中、国枝高校では小テストの返却が行われた。
小テストと言うものの、小テストではない。順位もしっかりと公表され、成績に大きく反映する。もう、一種の定期考査だ。
これが、国枝名物『小じゃないテスト』である。
今回のテストは異常に難しかったので、中間考査が終わり息抜きをしていた多くの生徒が見たことのない点数を1時間に5度も見るという地獄を味わった。
陣田シゲ盛は絶望していた。
見たことない数字を羅列され、叫びこそはしなかったが、顔の血の気が抜けていた。
螺旋状に広がる白い紙に刻まれた赤い数字を何度も凝視し、その度に頬をきつく引っ張る。
テストの返却が終わり、今は休み時間。沢山の生徒がテストの話で盛り上がる中、近くでは浅間と妃夏がお喋りをしている。
「やばい! わたし、数学32点!!」
「やった〜!! めぐっちに勝った〜!」
「むむ!? みる氏は何点でしたのかな?」
「ふふふ、33点だ!! すごいだろ〜!!」
「1点だけかーい!」
オレは横目でそれを見ていた。
数学32点の妃夏と33点の浅間。
いいな、笑っていられて······
だが、その2人の横にいる明智はいつもより気分が優れていない。
「ひとみん大丈夫?」
妃夏がすぐに異変気づいて明智を心配する。
「うん、ちょっとテストの点数がね······」
明智はオレと同じく何度も答案を見返している。
どうやら明智もオレと同じ気分のようだ。
なんとか笑顔で答えているものの、いまいち元気がない。
2人が恐る恐る明智のテストの答案を見る。
「え!? ひとみんすごいじゃん!!」
目を丸くした妃夏。
「わたしじゃ到底叶わない······くすん……」
自分との点数の差に哀しむ浅間。
「別に、そんなに高くないよ!!」
そんな2人をなだめる明智。
なんの構図なのかが全く理解できない。
ただ、一つ気になることがある。
「······アイツ、何点だったんだ?」
そうやって小さく呟いた。
外の雨は一向に止む気配がない。むしろ、勢いを増していた。
少し経ってから、オレは明智にLINEをした。
『テストどうだった?』
メッセージを送るとすぐに既読がつき、メッセージが帰ってきた。
『あなたこそ、どうだったの?』
『全然だった』
『私も』
オレは少し驚いている。
オレは今、自分の席でLINEのメッセージをせっせと打っている訳だが、対して明智は今、リア充グループの人達と楽しく会話をしている。そして、横目でチラッとスマホの画面を見て、ノールックでメッセージを返信している。それなのにこの速さって、まったく、どんなヤツだよ。
『けどさ、妃夏と浅間が驚いてたじゃん』
ちょっと嫌がらせで、意図的にLINE内での会話を盛り上がらせる。
『でも、こんな点数見たことなかったから』
『なるほどね』
そんなオレのちょっかいにも動じず、明智は高速返信を続けている。
『じゃあ、点数言うぞ』
もうこれ以上粘っても意味がないと思ったので、話を切り出した。
『仕方ないわね』
そんなオレのメッセージに明智の口角が少し上がった。
『まず数学』
数学、平均点28点。今回のテストは鬼畜科目のうちの1つだった。主に発展系の問題を数多く問われ、基礎問題は皆無といってもよかった。つまり、『点数を取るべき問題』がなかったのである。
『私から!?』
明智の目が少し細くなった。
明智のスカートの下あたりにある右手を見ると、高速で指が動いているが、左手を見ると、中指がピンと立っている。
怖ぇぇ……
『別にいいじゃねーか』
ちょっと手汗が出てきたのでズボンでこしこしと拭う。
そうしているうちに、スポッという音と共にメッセージが流れてきた。
『はぁ·······85点』
『86点。勝ったな』
まずは一勝、これは大きい。
『うるさい。次、社会』
明智は不機嫌そうな顔でオレを見る。
たった1点差なのにオレは少し優越感を覚える。なんか気持ちぃぃ。
だが、他の人に話しかけられると、何も無かったようにすぐに笑顔になっている所を見て、何だかおかしくなってきた。
『オレ94点』
必死に笑いを堪えながらも、少し自信ありげにメッセージを送る。
社会、平均点45点。
他の教科と比べると易しかったと言っていいだろう。
だが、難しいかといえば難しかった。渋沢栄一の息子って誰だよ。
主に各時代のコアな部分が多く、年号などを暗記していないと解けない問題が数多くあった。
前日の夜に年号をもう一度確認しておいたオレは勝ち組だ。
この点数はとても大きい。
だがしかし――
『95点。勝ったわね』
明智はそんなオレを1点上回っていた。
明智はさりげなくオレに微笑みかけてくる。
たった1点差なのにオレは劣等感を覚える。なんかムカつく。
オレと明智の論争は続く。
オレも明智も顔にこそ出ていないが、両者とも1勝1敗で点数差は0、これは熱い。
『次は理科だ』
理科、平均点34点。
主に化学が中心となったテストだった。
長ったらしい化学記号や理解し難い実験からの問題。
それは多くの人達を苦しめ、生徒たちの脳内ではすぐさま『理解不能』という文字が浮かびでたことであろう。
答えは合っているのに、ほんとうに正解なのかがハッキリと分からない、そんな人達も多かった。
『私82点』
『オレは95点』
そんな中のこの点数、ほんとうに怖かった。テストを返された後の開放感は半端なかった。
それに対し、明智はこの点数。これは大差だ。
オレもこんな風な点数だろう思っていたのか、明智は一瞬驚いた表情を見せた。だが、すぐにリア充グループの会話に戻っている。
そんな明智を少し煽ってみる。
『これは大きいな』
『うるさい』
1秒も経たずに返信が来た。
ご立腹なのは分かっているのだが、それでも笑顔で、しかも話し中にこのメッセージを返信できる明智。
笑顔の明智とご立腹の明智、一体、どちらが本当の明智なのか。
雨の音は風の音と合わさって、さらに勢いを増していっている。
『次、英語』
英語、平均点40点。
長文問題は謎の外国文学からの出題だった。
エッセイなどもあり、詩の心がないせいで意味が理解出来ず、撃沈した生徒も少なくない。
『オレ96点』
オレも詩の心なんぞ無かったが、そこはじっくりと吟味してからの回答。お陰でこの点数。なんていうか、英語というより国語的に難しかった。
『95点』
よし、勝った。
これで3勝1敗だ。あと一教科で点数差は14点。
取り敢えず勝ち越しは決定、そして次はあの教科だし……
よし、勝った。
『最後は国語だ』
国語、平均点25点。今回のテストの鬼畜教科のうちの1つで、今回のテストの最高難易度だった。江戸時代に書かれた小説からの問題、中でも古文に関しては鬼畜を極めた。昔の能の台本をそのまま載せており、理解できる訳がなかった。脳内が百花繚乱だ。
オレでさえも空白を作ってしまったほどの難しさである。
『オレ86点』
そんな中のこの点数。
この点数とこの点数差この平均点から考えるとなら、明智がオレに追いつく可能性は99%ないだろう。
「勝ったな······」
顎の下で手を組みながらそう呟く。
しかし、明智はスマホの画面を見た瞬間、オレに微笑みかけた。
負けを確信したのだろうか。
もっと悔やめばいいのに。素直じゃないなぁ。まあ次がある、せいぜいオレに勝てるように頑張るんだな。
スマホが震える。オレは画面を見る。
どんな言い訳をするのかな、と。
だが、
「なにぃ!?」
雷が鳴った。クラスの大半は驚き、悲鳴をあげた女子もいた。オレの叫んだ声はすぐさま、その雷にかき消された。
だがその叫び声は雷のせいではない。正直、そんなことどうでもいい。
なぜなら……
『100点』
というメッセージがオレに届いていたからだ。
オレはさっと明智を見る。
明智はオレに微笑んでいた。
その青い瞳は遥かな優越感に溢れていた。
明智は残りの1%だったのだ。
教科としては3勝2敗。5計は同じ点数。
別に負けた訳でもない。むしろ勝数からいうと勝ったともいえる。
だが、なんだ? なんなんだ? この劣等感は。
なんか、めっちゃ悔しい。
この展開にするために明智がオレを誘導して点数を言う順番を操作していたとすると、
明智のほうが、1枚上手ってことか。
雷がなり止み、雨の勢いは弱まっていった。
鉛色の空の下、
2人は初めての80点台を味わったのだった。
だが、上には上のヤツが存在するものだ。
「おいまじかよ」
「これはやばいって」
そんな声が聞こえてきた。
オレと明智はその取り巻きに気づく。
そして、オレはその取り巻きをじっと眺める。
明智はうまい感じに元いたリア充の会話から離れ、その取り巻きの中に入った。
何層にも重なるクラスのヤツら、その中心にあったものは──
国語100点、数学100点、理科100点、英語100点、社会100点。五計500点、そんなテストの答案と1人の少年だった。
明智は口をぽかんと開けたまま固まっている。
オレもそうだ。まったく動けない。
スマホがガタンという音を立てて落ちる。
手に力が入らない。
普通に考えれば今回のテストでは絶対に取ることのできない点数がそこに羅列されていた。
だが、彼はそれをやってのけた。
今回はと思っていたが、やはりいつものように、完璧に。
--バケモノだ。
オレは凄さというよりも、怖さを感じる。鳥肌が立つ。
だが、それより怖いことがある。それは
彼が--
国枝高校を満点で首席入学し、そこからも未だにテストで100点しか取ったことがないことである。
読んでくださりありがとうございました




