6話_1 オレの日曜日(前編)
2月13日改稿完了しました。
4月下旬の晴れた日曜日、オレは政田の家に来ていた。
短剣を政田の家に忘れてしまったので、今日の朝に『忘れ物取りに行く』と政田にLINEをしたら、『じゃあ、ついでにゲームでもやろう!』と返信が来たのだ。
ということで、政田の家でゲームってことになったのだ。
余談だが、昼に政田の家に行こうとした時、ひとつ問題があった。
一昨日の夜、オレは気絶していて、政田の家へ気を失ったまま連れてこられた。なので、LINEで「家に行く」と言ったものの、政田の家がどこか分からなかったのである。ここままでは約束破りになってしまうので、政田に家の位置情報を送ってもらうためにLINEをした。
すると、政田はわざわざ駅まで迎えに来てくれたのだ。しかも、「今日は暑いだろうから」と、キンキンに冷えたコーラも持ってきてくれた。
この2日政田を見てきたけれど、どうやら政田は悪い奴ではなさそうだ。その証拠に、政田と普通に喋れるようにもなってきた。
そしてそんなこともあり、今オレはここで出されたお茶をゴクリと飲んでいる限りである。さっきコーラと同じく、キンキンに冷えた冷水が五臓六腑に染み渡る。
すると政田が台所から帰ってきた。
「忘れ物って、これ?」
背後の窓からの明るさの影響なのか、いや、政田様が輝きを放っているのだろうか、輝きで政田がよく見えない。
「ありがとう。これこれ」
そんな政田からオレは短剣を頂いた。
この手に伝わるザラザラとした触り心地、ずっと使っているせいでできた手の跡もある。うん、これは本物で間違いない。
だが、なぜだろう? なぜ台所から短剣を持ってきたのだろう。普通、こんな凶器を持って帰る、ましてや衛生が特に大事な台所にこの短剣がある事なんか考えられない。
そんなオレの感情を読み取るかのように、政田は笑いながら頭を掻く。
「これって短剣だったんだ。ははは、包丁だと思って台所にしまっていたよ」
「そうなんだー……」
······え?
そんな言葉が頭の中に自然と現れる。
そのせいで、思わず棒読みになってしまった。
まあ、それも仕方がない。動揺を隠しきれないんだもの。普通の返事をするのもやっとだ。
うん、よく冗談が言えたものだ。
それはやばいですよさすがに。
確かに切れ味もいいし、お手頃なサイズだけど、恐らく……それで切った食べ物を食べると……死にます。
なぜなら、洗っても落ちない魔獣の血液が染み付いているからだ。
そこの菌が体に入ると、次々と血球や抗体を破壊していき、そこからどんどん体が腐っていって、それから……
本当に考えるだけでも体が震えてしまう。
「ど、どうもありがとうね」
オレは震えながら短剣をカバンにしまう。冬ではないのにずっと体が震えている。少しすると震えはおさまってきたが、また想像した暁には震えが止まらなくなるだろう。
そんな恐怖を早く断ち切ろうと、ゴソゴソと自前のコントローラーをカバンから取り出す。ゲームをすればそんなこと直ぐに忘れるだろう。
ちょっと持ち手が右に曲がっていて、左手の所には滑り止めがついている。これは不良品ではなく、ゲームがしやすいように、自ら少し改造しているのだ。
準備は万端、さてさてゲームやろ――
「――まじかァァァァァァァァ!!」
その時、オレの鼓膜を突き破るかのような、素っ頓狂な声が部屋中に響いた。
「な、何事!? ……痛ッ!!」
その大声はオレの頭を急に上に振り上げさせた。そして不運にも、その頭上に木のテーブルがあったせいでこりゃ大変だ。
オレはゆっくりと頭の上部をさする。
まったく、頭にお山ができてしまったではないか。
カーテンから漏れる陽の光が、まるで天国からの光のように見えてしまったのはおそらくそのせいだろう。
***
「······」
「······」
「······」
--いやいや待て、なんだよこの沈黙は。別に気まずいことも何もないのにどうしてこうなった。
「······どうしたんだ?」
謎の沈黙が流れた後、オレは頭に氷を当てながら、政田に説明を要求する。
「で、電池がない……もう……ゲームできないのか······」
政田の顔は血が抜けて、まるでブルーベリーのように青ざめていた。彼の両手はブルブル震えている。まるでさっきのオレみたいだ。
だが
「は?」
全くもって意味が分からない。
「だから······もうゲームが――」
「――電気屋に行けばいいじゃん」
「あっ、そうか!」
えぇ······何言ってるんだコイツ。
頭の中に無数のハテナが浮かんでいる中、とりあえずオレはゲームのコードをつなぐ。
政田は何度も手をポンとたたいている。
今の感情をできるだけ分かりやすく分析しようと試みる。
だが、頭の中に浮かぶ文字は、『Error』の文字だけだ。全く言葉では説明できない。今、1番近い言葉で表すと、
--マジで何者だコイツ。
勉強はできる。スポーツもできる。それにゲームも上手い。なのに、こんなサルでも分かることが何故分からないのかだろうか。
--マジで何者だコイツ。
その言葉しかない。
政田の謎はどんどん深まっていく。
だが、途方に暮れていたオレの考えは、1つの結論?にフラフラとたどり着いた。完全とはいえないが、恐らく、いや、たぶん、いや、もしかしたら······
--コイツって、天性の天然ナンジャナイノ?
まあ、そんな感じでかくかくしかじか、オレは留守番ということになったのであった。
***
「······無情」
それにしても暇だ。
何もやることがない。
政田が家を出て30分。オレには30年のように思える。夢十夜の第一夜のように、このまま待っていれば百合がひょこっと出てきてオレにキスでもするのだろうか。欲を言うと、オレは百合のキスより可愛い女の子のキスの方がいい。
まあとにかく、ゲームはできないし、携帯を見ても何もない。オレの携帯ちゃんはいつも物静かだ。もうすこし騒いでくれたっていいんだよ。
辺りを見回してみる。
それにしても、この家って凄いな。
そんな感情が自然と湧き出る。
まず、部屋の全域に陽が行き届いている。間取り、立地条件、配置、どれも政田と同じく完璧だ。
その部屋の中には、幅広い年代のゲーム、コミック、フィギュア、ライトノベル、円盤、その他たくさん。
その中には、トロフィーや表彰状もたくさんある。
内容を見てみると、『格ゲーの世界大会一位』や、『県少年野球大会最優秀選手賞』だったり様々なジャンルがある。
噂だけだと思っていたが、まさか噂通り、いや、それ以上だとは。本当にすごいと思う。漫画で見るようなキャラクターのように、本当に完璧だ。
電池さっきのことは忘れよう。
あと、誰かと一部、キャラが被っていて何か気になるところはあるが。
「······コッペパン」
時計の短針が4時頃をさしている。
眩しかった太陽も西に傾き、子供たちの元気な遊び声が少し減ってきた頃、まだ政田は帰ってこない。
少しずつ聞こえてくるカラスの声が、オレの寂しさをどんどん煽るわ煽るわ。
オレの感情はどんどんエッセイチックになっていく。
オレの心はコッペパンだ。
パン粉という名の外殻がただ存在するだけだ。味なんか全然ない。
まさにコッペパンだ。
いつかオレも、1粒のパン粉になっていく……
そんな詩が思いつくほど、オレの情緒はおかしくなっていっている。詩のクソさをみれば、どれほど暇なのかが分かるだろう。オレは意味もないまま、政田の家をおそらく30周は回っている。ポケ〇ンG〇をやっていれば、卵は少なくとも4つは孵化しているだろう距離だ。
そしてやっと、もうすぐ40周に差し掛かるときに、待ちに待ったインターホンが家中に響いた。
やっと政田が帰ってきたのだろう。
「はーい」
オレはバタバタとドアの前に行き、そしてドアを開ける。
「政田くん――え?」
「え?」
整った目鼻立ち、そして……豊満な胸に長い髪。
ドアの前にいたのは政田ではなかった。
***
「陣田って政田と仲良かったんだね〜。てか、陣田の顔をしっかり見たの、初めてだよ」
なんとなく家に入れてしまった。
オレの前に座っているTシャツを着たJK。
浅間瑠海、オレの同級生、クラスメイト。
陸上部に所属していて、運動神経がいい。
妃夏や明智のグループに属していて、かなり明るい印象だ。
青髪黄眼のギャル系女子、セミロングの髪が印象的だ。そして明るい性格もあり、もちろんモテない訳がない。人気は女子だけでなく、男子にもかなりの人気があり、みんなといつも分け隔てなく話しているイメージだ。
しかもルックスに関しては、浅間は一部、明智よりアドバンテージがある。
そんな浅間が、なんでここにいるのかというと……理解不可能。
オレと浅間は、こうして二人きりで話したことが今までなかったので、今のシチュは初めてだ。つまり、オレは昨日のようになにも出来ない。
しかし、初対面の人とは話せないオレに対し、浅間は積極的に話しかけてくれた。
「う、うん······」
「へぇー、それはなんか意外だね」
「そ、そうだな······」
最近になって、だんだん人と話せるようになったと思っていたが、やっぱりぜんぜんダメだ。
こんなオレと話していて楽しいのだろうか。
だが、浅間はどんどんオレに話しかけてくれる。
「それで、陣田はなんで来たの〜?」
いつもは基本話さないオレと話すのがそんなに珍しいのか、浅間は興味深そうに質問してくる。すごくニコニコしている。
そんな最中、浅間の青髪がふわりと揺れる。なんだかいい匂いが漂う。まるでオレの邪心を浄化するような、お花畑にいる気分のような······!
だが、その洗礼は一瞬にして消え去ってしまった。
浅間が前かがみになってるせいか、たるんだTシャツの隙間から……その、見えるんだ。目の前に。
それは、邪心の洗礼をも遥かに凌駕するような、常識を超えた、それほどのモノだった。
冷静に言おう、巨乳が、谷間が、オレの目の前にある。
なんで隠そうとしない! 気づいていないのか!?
そんな浅間は、オレと目が合うとキョトンと首を傾げた。
「べ、別に、暇だったから……」
オレはすぐに視線を逸らし、答える。
「そうなんだ」
「うん」
「うん」
「······」
「······」
あれ? なんか冷えちゃった。
会話がピタリと止まってしまった。
もう質問ないの? おーい、おーい!
「······」
「······」
そのままずっと沈黙の状態が続いている。
何故かオレも浅間も正座をしながら、ただボーッとしている。足が痛い、100万ボルトの電流がオレの足に流れている。足が痛い。
政田······いや、政田様。頼むから早く帰ってきてくれ。
なんか、めっちゃ気まずいんだ!!
読んでくださりありがとうございます
 




