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食堂には

段落ごとに一行空けるようにしました。読みやすくなったと思います。

昼休み、俺は秀成と颯太と一緒に弁当を食べていた。


こいつらは朝の喧騒を見ていたらしいが、くわばらくわばらと我関せずを決め込んでいたらしい。なんで俺が知っているのかって? こいつらが勝手に許しを請うてきたからだよ。


「許してくれよ~、ほらこのエビフライやるからよ」

「悪かったって~、この肉巻きアスパラガスあげるからさ」


こいつらは許可も得ずに、俺の弁当箱にそれぞれの詫びおかずを入れてくる。すると、どうだろう。残り物オンパレードだった弁当に主役級の食材が入ったことで、一気にランクアーップ! 

 

「オッケーオッケー、これからも俺たち友達だぜ~」


過ぎた事をとやかく言うつもりはない。俺たちに必要なのは未来だ、未来。


エビフライと肉巻きアスパラガスをいただき、俺の中の不満が消えていくのを感じる。


弁当をがっついている俺たちの間には、確かな友情がある。それを感じ取れた良い休みだった。


「祐樹~、ちょっといい?」


弁当を食い終わった俺に里奈が駆け寄ってくる。さっきまで教室にいなかったはずなのに、何時の間に来たんだ?

 

「今から食堂に行かない?」

「今から? 俺、もう飯食ったぞ?」


あ~、と里奈は頬を指でかく。目線があちらこちらに飛んで、明らかに落ち着いていない様子を見せている。


……こいつ、何か隠しているな。


里奈は隠し事が出来ない性格だ。それがこいつの美徳であるが、欠点でもある。


俺は里奈が目線を動かした方向へ次々移動し、逃げ場を無くしていく。


ほらほら、言ってみろって。早く言えばその分罪は軽くなるぞぉ。


「うぅ……。何よ、罪って……、私悪い事なんてしてないわよ」


気にするな。テンションが高ぶった時に出る妄言だと思っといてくれ。

 

「今、未希が食堂にいるんだけどさ」

「未希が? 一人で?」


未希が学校で一人になる時間は少ない。分け隔てのない性格からくる人柄の良さにひかれて、あいつの周りには多くの人が集まってくるのだ。


何が言いたいかというと、未希は友人が多い。だから、あまり一人になる事はない。


だから、俺が里奈に聞いたのは確認が主な要因だった。


「いや~、一人じゃないんだけどさ~」


ほらな、一人じゃない。だが、里奈の口調がどこかおかしい。言いきらない口調はまるで、何かをごまかそうとしている様だ。


そしてさっきから背中を伝うのは、冷や汗……? なんだ、一体俺は何に緊張しているんだ。


里奈が言葉を発しようと口を開き始めている。だ、だめだ。言葉を紡がせてはいけない。そんな気がするんだ……!


俺の内心を知るはずもなく、里奈は言葉を発した。

 

「実は、生徒会長がいっしょにいるんだ」

「じゃあな」

「逃がさないよ!」


席を立ち上ろうとした俺を里奈が押さえつけた。


「離してくれ! 後生だから離してくれ!」

「頼むから一緒に行こうよ、ね!」


ぐうう、さっきから感じていた悪寒は正しかった、俺は正しかったんだ! 離せ、離してくれ、トイレに行って二度と帰ってきたくないんだよ!


喚き散らしても、里奈は俺の肩から手を離さない。こいつ、どれだけ一人で戻るのが嫌なんだ……! 


徐々に教室の扉へと近づいていっている。ま、まずい、このままじゃ。


はっ、そうだ!


「秀成! 颯太! 俺を助けてく、れ……」


二人がいた場所をみると、そこにはもう二人はいなかった。向こう側の教室の扉が開き、二人の男が出ていくのが見える。


お、お前ら、さっきまでの友情は一体何だったんだよ。いや、多くは言うまい。この恨み、忘れぬからな……!


俺は里奈によって廊下に引きずりだされた。こいつ何でこんなに力強いんだよ。

 

「ほら、早く行くよ!」


里奈に急かされて立ち上がる。くそ、何でこんな目に合うんだ。


食堂へと歩く足が重い。この先で待っている惨状を想像するだけで腹がキリキリ痛み出す。ああ、もういやだいやだ。


生徒会長、藤野枝(ふじのえ)喜花(きはな)。他の追随を許さない程の得票差により、一年にして生徒会に君臨した才女だ。長身でスラリとしたスタイル。艶やかで美しいと評されている黒髪をたなびかせて歩く姿に見惚れる者が続出し、ファンクラブが出来上がっている程の人気だ。ちなみに、度肝ランキングは2位だ。


そして、なぜ俺が彼女がいる食堂に超行きたくないと思っているのか。その理由は……、会長は、未希と仲が悪い! 本当に悪い!


なーんであんなに仲が悪いのかは分からないが、顔を合わさず目を合わさず、話をすれば牽制だらけの会話で聞いてるこっちの身がもたん。そんな二人が顔を合わせている場にわざわざ行く? 馬鹿かよ、ばっかでーす!


現実逃避をしている間に、もう食堂の前だ。いやだいやだ、と憂鬱な気持ちで中に入ると、あからさまに周りから避けられているエリアが目に入った。


そこにいるのは学校を代表する美人二人。が、華やかな雰囲気はなくピリピリした空気が入り口まで漂ってきている。食堂にいる連中は皆、野次馬の様に様子をうかがいながら昼飯を食べているが、こんな空気で食べてて美味いか?


「祐樹、もうあなただけが頼りよっ!」

「ぐえっ!」


背中から押されて、俺は前に出てしまう。はっ、ここはもう奴らの範囲内だ! に、逃げなければ……!


「おや、祐樹君じゃないか。そんなところにいないで、隣に座るといい」

「あっ、会長。久しぶり……」


見つかってしまった。


振り向くと、会長、藤野枝喜花がこっちを向いていた。隣の席を叩きながら、俺に死刑宣告をしている。


ど、どうする。このままじゃ、


「何であんたの横に座らせんのよ。好きなとこに座らせてあげなさいよ」


未希がトントンと机を指で叩いて、会長に意見を発した。機嫌が悪そうだ、俺は座らなきゃいけないんですか?


 会長は含み笑いをして、足を組む。あんた、本当に高校生ですか? 態度の端々に余裕がありすぎて、ほんとに同い年かどうか自信がなくなってきちゃうよ。


 そして、俺はどこに座ればいいんだ?


「久しぶりに会った友人と会話を楽しみたいと思ったから隣に誘ったのだけれど、確かに未希の言う通りだ。祐樹君、好きなところに座りたまえ」

「あっ、じゃあ」

「最も床に座るという行為は許さないがね」


 潰された……! 俺の逃げ道……!


 じゃあ、仕方ないから会長の隣に座らせて……。


「何であんたそいつの隣に座ろうとしてんのよ!」

「どうしろっていうんだよ!」

「好きなところに座ればいいと言ったのは君じゃないか。いいんだよ、祐樹君。ほら、早く座りたまえ」


 未希と会長が静かににらみ合いをしている。が、どちらともなく目をそらした。そして、互いの隣の椅子を連打するように叩き出した。


「さあ、どっちに座る!?」

「あんた、私の幼馴染よね!?」


 こいつら、大丈夫か……?


 放っておいたらいつまでも叩きそうなので、俺は会長の横に腰を下ろした。


 未希が俺の事を睨んでくるが仕方ない、これは仕方のない事なんだよ。お前ら、あのままだったら手を痛めてたぞ。


「ふふふ、祐樹君。ありがとう、私を選んでくれて」

「いや、別に他意はないから。お前の方が先に座れって言ったから来ただけだから」

「分かってるよ。でも、嬉しいのさ」


 会長は机に肘をついて、俺に微笑んでくる。ほんと様になるな、この人。


 まあ、何はともあれ、俺は峠を越したのだ。


「ちっ、何デレデレしてんのよ」


 そして、第二の峠が始まる……!


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