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玄関先には

翌日の朝、学校に行く為に家から出ると隣の家もちょうど同じタイミングらしい。玄関先には三つの人影があった。


大人の男の人と、制服を着た女の子が二人。二人の女の子は未希と優奈ちゃんで、大人の男の人は未希たちの父親の(せい)()さんだ。


俺が未希たちを見ていると、向こうが俺に気づいた。


「おはよう、祐樹君」

「おはようございます、誠治さん」

 

優奈ちゃんが手を振っているので、こちらも手を振って応える。未希はスマホを見ていて、こっちを見ていない。


三人に合流して歩いていると、誠治さんが俺の方を向く。


「祐樹君。この間の未希のライブ見てくれたかい。あのテレビでやっていた奴だよ」

「パパ!」

「なんだい、未希。別に見たかどうかを聞く事はいいだろう? 別にドリーミングで誰が好きだとかは聞いてないのだから」


未希が誠治さんの腕を掴んで、止めるように言っているがどうやら聞く気はない様だ。腕を結構な勢いで振られているが痛くはないのだろうか?

 

「この前のライブなら見ましたよ」

「なっ……!?」

「おお、そうかそうか! どうだい、未希は可愛かっただろう!? ふふふ、良ければ、今ここにあるドリーミングのライブDVDを、あっ、未希返しなさい!」

「うるさい! 私たちは今から学校なんだからこんなの持って行っちゃダメなの! あんたもそう思うでしょ!?」

「お、おう」


おおう、誠治さんが顔面にDVDのパッケージをぶつけられている。あー、鼻が赤くなってる。


そんな二人を見て、優奈ちゃんが笑っている。ひとしきり笑った後で、彼女は俺の方を向き、


「それで、祐樹はドリーミングで誰が好きなの?」

「えっ!?」


な、なにを言っているんだ、この子は!? 


驚きで声も出せないでいると、鼻が赤い誠治さんが俺に言った。


「悪いと思って聞かなかったけれど、確かに気になる! 祐樹君、君は誰が好きなんだ!?」

「えっ、えっ!?」


 この家族は何を言っているんだ!? まず、ドリーミングのメンバーで知っているのが未希と安代さんの二人しかいないこの俺に、誰が好きかを答えろと!? 未希の目の前で!? しかも、あんた達家族だぞ!?


 二人はおれにさぁ、さぁと迫ってくる。その目は好機に満ちあふれ、止まることはなさそうだ。


 み、未希。未希、助けてくれ。


 俺が助けを求めて、二人の後ろにいる未希を見ると、彼女もまた俺を見ていた。俺を見るその目は好機とはまた違った感情を宿している。そして、二人を止めるような行動は見せない。


 な、何故、幼馴染が朝から羞恥を晒そうというのに、どうして止めるそぶりを見せない……!?


 二人の勢いに押されていき、遂に後ろは壁で遮られてしまった。もう逃げる場所はない。


 くぅ、こ、こうなったら。


「あ、安代、瀬奈ちゃんが可愛いなって思います!」


 ついに、俺は言った。言ってしまった。


 家族の前で未希が好きだという事は出来なかった。昨日、安代さんと会ってて良かった、良かった、本当に……!


 誠治さんと優奈ちゃんは俺から離れ、うんうんと頷いてる。


「そうかそうか、祐樹君は安代ちゃんが好きか。なら、このライブDVDを、あっ、未希返して」

「うるさい!」


 未希が誠治さんにDVDを叩きつける。リバウンドしたそれは未希の手元へと帰っていき、手に取った未希は足早に先へと歩いていく。少し早歩きのそれは走らないと追いつけそうにない。


 それを見て、優奈ちゃんがため息を一つついて言う。


「あー、姉ちゃん、怒っちゃったかな」

「怒った、未希が?」


 いったい何に怒ったって言うんだ。あれか、俺が安代さんを好きって言った事に対してか? でも、そんなのしょうがないじゃないか。俺に家族の前で娘さん、お姉ちゃんが好きですという度胸はないよ!


 不意に肩に手が置かれる。その手の持ち主は、誠治さんだった。


「祐樹君、今すぐに未希を追うと良い。これは経験則からのアドバイスだ!」

「は、はい!」


 誠治さんに背中を押されて、俺は小走りで未希を追う。後ろを振り向くと、二人が手を振って、俺を見送っていた。




 未希の背中が見えた時、何故か少し安堵した。


まだ早歩きをしている事から怒っているのが分かるが、早歩きになれたという可能性に賭け、横まで歩き、彼女の顔を見る。


おおう、完全に怒ってますね。アイドルがやっちゃいけない顔してるわ。


「何よ。お父さんに言われて来たの?」


 未希は俺の方を向かずに、機嫌悪いですよ、と他者に知らせる威嚇音の様な声色を発した。

 

「ん、そうだよ。ほら、アイドルがそんな顔するなって。スマ~イル、スマ~イル」

「誰のせいで機嫌悪くなったと思ってんのよ」


 未希はふん、と鼻を鳴らし俺を置いていこうと歩く速度を速めた。置いていかれまいと、俺も速度を速めるが、そうすると、また未希が速度を速めた。


 これを何度か繰り返しているうちに、俺たちはいつのまにか本気で走っていた。マジ走りだった。


 俺たちが走っているのは、言うまでもなく通学路。歩いている学生が、なんだあいつらという様な目で見てきている。お前、後で後悔するなよ! 天下のドリーミングのメンバーの生走りなんて、そうそう見れるもんじゃないからな!


 

「待て、待てって、未希!」

「うっさい、着いてくんな!」


 ちょ、ちょっと待って。もう、俺の体が悲鳴を上げて、太ももの筋肉が悲鳴を上げてる。二日連続で走るなんて、鞭がすぎる。


 くそ、差が出始めて、背中が、未希の背中が遠い……。


 諦めかけたその時、希望の声が俺に掛けられた。


「どうしたー、祐樹。さっき、未希が走って行ったけど」


 声がしたほうを向くと、そこには里奈が立っていた。こ、こいつならいける!


「た、頼む、里奈。未希を追いかけてくれ!」

「オーケー、理由は後で聞くからね~!」


 言うが早いか、里奈はすさまじい勢いで未希を追いかけていった。


 徐々に遠ざかっていく背中を見送り、壁に手をつく。荒くなった息を整える為に、中腰になって息をする。


 俺はその後、ゆっくりと学校へと歩いていった。よくよく考えれば、同じ教室だから結局会うんだよ。




 教室のドアを開けると、未希は里奈と仲良く話していた。通学の時の機嫌の悪さはどこ荷ったのかと思うほど、笑顔を見せている。これなら話しかけやすいな。


「おーい、未希」

「あ?」


 あ、じゃねえわ。お前、そんな事をアイドルが言うんじゃないよ。


 さっきまでニコニコしてたのに、俺が話しかけた途端に眉に皺寄せやがって。なんなんだよ、くそ。


 自分の席に座ろうと思い、机に鞄を置くと里奈が話しかけてきた。


「祐樹、ちょっと」

「ちょ、おい、引っ張んなって」


 里奈に手を引かれ、教室の外へ。今入ったばかりなのに、何でこんなに忙しないんだ。


 廊下に出ると、里奈がため息をついた。


なんなんだ、一体。人の事を連れだしといて、いきなりため息をつくのは礼儀がなってねえんじゃねえか、オイオイヨォ。


俺の言葉を聞いた里奈は、頭を抱えて嘆く様子を見せた。


 俺が何をしたって言うんだよぉ! 


「あんた、セナリンが好きなんだって?」

「は?」


 誰だ、セナリンって? 


 見当が全くつかなくて困惑している俺と、それを見てまたため息をつく里奈。なんなんだよ、俺が悪いみたいじゃないか。


 廊下を歩く学生が変な物を見るような目で俺たちの事を見ているが、今回は許そう。だって、俺にも分かんねえんだもん、今何が起こってるのか。

 

「……その様子じゃあ、貴方適当に言ったんだね。それで出てくるのがセナリンってのがあんたらしいけど」

「おいおい、待ってくれ。誰なんだよ、そのセナリンって」

「セナリンってのは、ドリーミングの安代瀬奈の事だよ。このまぬけ」


 間抜けとは何だ、失礼な。ただ、セナリンが安代さんだという事は。


「やっぱ未希、朝の事で機嫌悪くしてんの?」

「ん、そうだよ。全く未希も子供っぽいけどさぁ、もうちょっとやり方なかった?」


 里奈が困った奴めー、と言いながら俺のでこに指で連打を放ってくる。地味に痛いから辞めてほしい。


 ただ、それなら対処法は簡単だ。未希にも安代さんにも角が立たない様に、行為御伝えたらいいんだ。


 俺は教室の中へと入り、未希の席の前に立つ。未希は俺を睨みあげるが、それ以上の反応はない。


こいつも待っているんだ、俺が次に言う言葉を。

 

「大丈夫だって。俺、お前の事も好きだから!」

「死ね!」


 顔面にDVDが叩きつけられる。崩れ落ちていく中、追撃をかけようとする未希を里奈が必死に止めているのが見えた。


 サ、サンキュー里奈……。


 教室の床は意外と冷たかった。


次回は一週間後を予定しています

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