テレビに映るのは
「ゆう君、私と結婚して!」
俺にはプロポーズを申し込まれた経験がある。小学校の時の話だが。
さて、話は変わるが、○○の季節に君を想う、というようなフレーズを見たことがある人はいないだろうか。あのフレーズは良い、俺も大好き。
だが、あの言葉を見ると、悲恋を思い浮かべてしまうのはなぜだろうか?
俺は、現代は連絡手段が普及しすぎているからではないかと考えている。
二人の間に距離があったとしても、スマホを持っていたら、
「ハイ、ジェームズ!」
「おはよう、たまこ」
と、互いの声を聴くことが出来る。
国境なんて何のその、電波を遮ることが出来るのは専用機械と圏外エリアだけ。二人の思いは世界をぐーるーぐる。
こんな時代に季節が巡ったから相手を想うのは、既に自分では届かない場所に相手が行ってしまったと、解釈が出来る。
悲観的な考えかもしれない。実際自分でもこんな話を口にする奴がいたら、何かつらいことがあったんだな、と思う。ちょっとだけそいつに態度が優しくなるかもしれない、ちょっとだけな。
俺がこんな考えを持っているっていうのは、クラスの皆には内緒だよ。
「ほい、これで終わり、と」
最後の皿を洗い終え、俺はキッチンから離れていく。洗い物をしてる時って、考えても仕方のない事を考えて時間を潰している人が多いと思う、俺はそうだよ。
テレビの電源を付けると、何かのライブ映像が流れだす。
どこかの会場の中に、所狭しとファンが詰めて、皆ペンライトを握りながら、今か今かとその時を待っている映像が流れている。
カメラが映す映像が変わる。薄暗かった会場の中に出来上がったステージを五つのスポットライトが照らしている様子を。
柱の様に見える光が差し、軽快な音楽が流れだす。観客はざわざわと手持無沙汰の様子を強めていく。
待ち望んだその時が近づいて、気持ちが高ぶっているのだろう。
そして、その時が来た。
「いっくよー!」
会場に声が響き、五つの光の中、女の子が現れる。
女の子たちは笑顔を見せながら、歌を歌い、踊っている。
「すげえな、アイドル」
テレビの映像を見ながら、つぶやく。
画面の中ではアイドルが現れたことによって、ボルテージがマックスになったファンの姿が映し出されている。
ここまで、人を熱狂させられる事を当人たちはどう思っているのだろう。
今、カメラは一人のアイドルを映している。茶髪のショートカットのアイドルは、くるりと一回転をして、ファンを湧かせた。
そう言えば、さっき季節が巡ると想うのは自分にはもう届かない相手の事だと、俺の考えを話したよな。
「がんばってんなー、未希」
アイドル、逢沢未希。ファンに希望と笑顔を与える彼女は、俺の幼馴染。
言ってみれば、俺にとっての届かない相手とはこいつの事だろう。