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「······うわ〜」
ログイン直後、つい口にしてしまった。
さまざまなところで
「PT組みましょー、後衛火力さん募集ー」
「先行組メンバー募集! 効率厨ども来いや! 」
などのLv上げのPT募集の声があちこちから聞こえてくる。 テスターの人達はアバター等の動かし方なども慣れていそうだし、スキル等もきっちり考えて編成していそうだ。
また一方では······
「新規さん方ー、安くて手軽な装備あるよー!」
「戦闘に行く前に装備はいらんかねー!」
というような生産者の皆さんの声も飛び交っている。 早くも露店を出しているのはやっぱりテスターの人達なのだろう。 大通りに所狭しと露店が並ぶのも、MMOの名物だ。
しかしぎゅうぎゅうになるくらいに人がいるのに、長弓らしきものを背負っている人は見当たらない。 いるのは短弓や狩弓、あとは自動弓らしきものを持っている人達ばかりだ。
などと考え事をしていると、背後から声を掛けられた。
「なあ、そこの少年」
その声に振り返ってみると、そこには蒼いローブを着た優しそうな見た目の老人がベンチのような椅子に座っていた。
「自分ですか?」
一応確認を取りながら近づいていく。
「そうじゃ、お主、旅を始めたばかりじゃろ?」
老人はにこやかに笑いながら隣に座るように促す。
「はい、そうですが······どうかしましたか?」
俺は答えながらベンチに座る。
「いやなに、同じ場所でずっとキョロキョロしておったからの、なんとなく声をかけてしまったのじゃよ」
「なるほど」
確かに同じ場所でずっとキョロキョロしてたら気になるわな。
「それで、お主は旅を始めたばかりなのじゃな?」
老人が聞いてきたが、特に隠す必要も無いので正直に話す。
「はい、今日はじめました」
「なら丁度いい、ここから北にある訓練所に、この手紙を届けてきてくれんか? 訓練所に行けば武器の基礎的な使い方を学べるぞい」
そう言いながら懐から手紙を出す老人。
元々武器の練習はしたかったし、人の頼みということもあったので、この頼みを受ける。
「分かりました! 訓練所に届ければいいんですね!」
手紙をひったくるように取り、北の方に走り出す。
「待ちなさい! まだ報酬の話が!」
背後から老人がこう言ってきたが、訓練所の場所も教えてくれて、更に武器の練習が出来ることも教えて貰ったのだ。 何より手紙を街の中で届けるという簡単な仕事だ、これ以上報酬は必要ない。
「いえ、報酬はいらないです! 行ってきます! あと、情報ありがとうございました!」
こう言い残し俺は北の方へ走る。 しばらくすると訓練所に着いた。 さて、あとは手紙を渡せばいいだけなんだが······
「誰に渡せばいいんだろう······」
そう、誰に渡せばいいのか聞くのを忘れていたのだ。 そして、しばらくウロウロしていると、また背後から声を掛けられる。
「おい小僧、どうした?」
今度声を掛けてきたのは、禿頭の隻眼、ザ·冒険者というような恰好をしたマッチョな男性だ。
威圧感に緊張しながら要件を話す。
「いえ、あの、蒼いローブを着たご老人から、手紙を預かったんですけど、誰に渡すか聞くのを忘れてしまって······」
そう答えた瞬間······
「なに!? 蒼いローブの老人だと!?」
物凄い剣幕で詰め寄られた。
少し引きながらも詳細を説明する。
「······なるほど、分かった。 その手紙は我輩に渡してもらえればいい。 配達ご苦労だった」
「え?」
いきなりこんなことを言われたので、戸惑ってしまう。 その様子を見て禿頭の男性は何かに気付いたのか、自己紹介をした。
「これは失礼した。 我輩はティーチャー·ガンベルグ。 この訓練所の教官長をしている。 お前の言った老人とは、知己の間柄だ」
なんか大物な人が来た。 と思いながら手紙を渡した。
用も済ませたし、武器の訓練をしようと思ったが、使用の仕方や、誰かに教われるのかすら分からない。
「あの、ティーチャーさん? ガンベルグさん? 質問いいですか?」
恐る恐る聞いてみる。
「ん? なんだ、聞きたいことがあるなら存分に聞いてみろ。 それと我輩を呼ぶ時はガンベルグ教官でいい」
「あ、はい。 それで、この訓練所の使用の仕方や、誰に教わればいいかを教えて頂きたいです」
勝手に使用していきなり逮捕とか嫌だからな。 そう考えながら聞いたが······
「わははは! なんだ小僧、お前はそんな所まで聞いてこなかったのか! 報酬の話をされる時と一緒に説明されたろう?」
と、笑いながらこんな事を言った。
報酬の話聞いてこなかったから、説明されてないんだよなー。 老人の話をきっちり聞いとけば良かったかな? と軽く反省しながら
この事を伝える。
「すみません。 報酬はいらないって言い残して、走ってきてしまったもので······」
「なに!? 報酬を貰っていないだと!?」
その瞬間にまた、すごい剣幕で顔を近ずけてくるガンベルグ教官。 すごく怖い。
「ひゃい、街の中で手紙を届けるだけだったので······」
返事が少し裏返ったがなんとか答える。
「······ふーむ。 そうか」
何かを考え込んだガンベルグ教官は、胸のポケットから水晶のような物を取り出しそれに話しかける。
「グランド殿、我輩だ。 ······うむ、今目の前にいるのだが。 ······分かった我輩が直々に教えながら引き止めておく。 それでは」
なにかグランドさんとゆう人と話していたみたいだが。 それが終わったようでガンベルグ教官はこっちに向き直った。
「小僧! 名前はなんというのだ!?」
「あ、はい! 新空······いえ、スカイと言います!」
危ない、つい焦ってしまってリアルネームを言うところだった。
「ふむ! スカイか、いい名だ! それではついてこい!」
そう言って、訓練所の中に歩いていくガンベルグ教官。
「はい!」
特に何も考えずに、俺は勢いにまかせてついて行った。




