第9話 悪役イケメンボイスば用意すっど
第9話 悪役イケメンボイスば用意すっど
奴隷んなっちょった原住民がおなごらは、アタんおやっどんに送られっせえ、
それぞれん家へ帰って行きよった。
そん数日後リートば経由しっせえ、おいが許にゃタビタから受講ん申し込みが来よった。
リートからんプリントに、タビタからん手紙が添えてあった。
“はるか先生、こないだは助けてくれてありがとう。
あたしもさらわれて中断していた勉強を再開したいので、受講を申し込みます。
あたしもうすぐ二十歳になっちゃうけど、今からだと遅過ぎないかな…?”
タビタはずんぐりしっせえこまんかけんど19歳け…。
何ちぐらしか事、あげん事で勉強が中断されっとは。
返事書いたら、さっそくタビタんためんテスト作っちゃらんと。
長か監禁生活で、勉強も忘れてしもたかな…。
じゃどん大丈夫じゃっど、おいが最初からでん教えっから。
タビタん手紙はまだ追伸があってちいとだけ続いちょった。
“ナカムラ先生は悪役イケメンボイス声優とか好きよ。
はるか先生の能力で音声データ送信とか配信とかすれば、きっとつられて出て来るよ☆”
ほう…そいは良か事ば聞いた。
ナカムラ先生が好みはともかく、つまり音声データばおいが声ん代わいに送れば、
そいが複数ん人物がもんなら、敵は必ず混乱すっ、誘導出来っ。
じゃどんおいが遠隔会話はデータ送信やなかで、電話んごたもんじゃから、
複雑な会話はちいと難しか、どげんしてんあらかじめ用意されたデータが要っと。
タビタはリートんタケ島んひとつ先、イオ島に住んじょった。
おいは実力ば見っためんテストば送付すっと、音声データん作成に着手した。
同時におやっどんに小型ん音声データ再生機ば注文した。
データん編集自体は切り貼りしたら良か、問題はデータ収集じゃった。
おいはネットば使こっせえ、無数ん動画から探した。
…やっぱい勇者気取りん冒険者相手すっとなら、あいつら好みん声が良か。
ヒーローんごたイケメン声、冒険者がオタ声、ヒロインらしか声、幼女ん声…。
そいからナカムラ先生用ん「悪役イケメンボイス」も忘れんと。
データが出来上がっと、再生機に取り込みっせえ、
おいはまた一般人に化けっせえ、アタん街に忍び込んだ。
おいは遠かところまで見えっけんど、現地ん行っ事は大事じゃっど。
アタん街は町並みこそ中世ヨーロッパじゃったけんど、中身はまるきり日本。
街ん奥にゃ西洋風ん屋根ん尖っせえ、ぎざぎざん塀ん城があっ。
どこんラブホテルけ、城趾ん方がまだましじゃっど。
小じゃれたつもいでんやっちょっ事はおんなじ、勇者と姫もただん男とおなご。
城ん中で魔法ばぶりっぶりキメっせえ、ばっこばこしたい放題じゃっどな…!
城があっち事は、たぶんこん国は王政が敷かれちょっ。
今どき王政じゃっど、今どき。ぷっ、そげんもんちいとも流行らん。
王様は勇者あがりんヒキオタニートけ? ごく普通ん高校生け?
まあどうでん良か…行っど悠、おいにしか出来ん事ば。
テレポーテーション、おいは城ん内部ん目立たんとこに登場した。
セキュリティわっぜえ甘かと、こいでん城け。
おいはテレポーテーションば小刻みん繰り返した。
「何者!」
そいでん見つかっとは時間の問題じゃった。
まあ仕方なか。おいはふっち笑ろっせえ、すんぐテレポーテーションしっせえ消えた。
こん城んセキュリティん甘かは、そんだけ戦えっもんがおっち事。
王んなっほどんもんとそん従者、まともに戦うたらいけん…そうじゃっどね、貴様ら。
おいが目的は戦う事やなか、おいだけが逃げられてん原住民は逃げきらん。
もしこん城に原住民がおっとなら、逃がさにゃいけん。
ナカムラ先生ば見つけてん、ナカムラ先生はただんむきむきんおんじょじゃっど。
そいにおいが能力は偵察あってこそ生きっ…。
おいはジャケットんポケットから、再生機ば取り出しっせえ再生した。
表示がタッチパネル式なら、再生項目ん選択も簡単じゃっど。
「見つけたぞ、こっちだ!」
誘導…わっぜかイケメンボイスじゃっどね、さすがアニメからんサンプリング。
再生ば終えっと、すんぐまたテレポーテーションで逃げっ。
そいでまた音声データば再生すっ、用意しちょけばなおさら速かと。
「やべえ…お前すげえいい匂いするな…」
「早く来て、お願いだ…もう我慢できない」
連続したデータなら、簡単な会話も出来っ。
何もなかとこでん、声さえ送れればそいで良か。
おいは煽情すっ、誘導すっ。
「もう逃がさない…お前は俺だけのものだ、めちゃくちゃにしてやるよ…」
テレポーテーション、捕まえてみやんせ。
キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャンじゃっど…!
「ぎゃん!」
すると、転移先で悲鳴がした。
見っとおいが下でおなごが倒れちょった。
30代半ばぐらいん、緑んドレスば着込んだおなごじゃった。
姫んつもいけ? わっぜかばばどんの姫じゃっどな。
「しもた」
おいはすぐ起き上がっせえ、すんぐまたテレポーテーションばしようとした。
「ちょっ…待ちい」
するとそんおなごはおいが事引っ張っせえ、近くん部屋に押し込んだ。
おなごん部屋け? 部屋ん真ん中にゃ天蓋付きんベッドが置いちょっ。
乙女チック…いや、いよいよラブホんごた部屋じゃっどな。
「はーん…お前が侵入者か、えらいデブいおっさんだな」
「デブち…おんじょち…! おまんさにゃばばどんの姫に言われとなか!」
「何だそのしゃべりは、隼人の族か? おとなしくイケメンボイス再生しとけばいいものを」
「むき! こいはおいんおっかんが言葉、『おっかん語』ぞ!
標準語だけが日本語やなかでね、否定すっな!」
ドアん外から声がすっ、こんおなごに差し出されたら終わいじゃ。
どげんすっと悠、袋ん中んねずみじゃっど…。
とうとう声はこん部屋ば見つけ、こつこつノックすっ音がした。
すると、おなごは外ん向こっせえ声ばかけた。
「着替えて夕食まで休みたい、下がっていてもらえないか」
「かしこまりました」
声が去って行きよっ…助かった。
「おおきに…」
「構わんよ。お前、反体制側の人間だろ?」
「えっ…」