第7話 イフ・アイ・キャン
第7話 イフ・アイ・キャン
リートは浴室んドアば開けっせえ、タオルば掴んだ。
「俺も将来就職出来るかどうか…厳しいね。今、いい仕事はみんな入植者の物だから」
「ふうん? 入植者ちこん島ん来っ、勇者気取りん冒険者らん事け?」
「あいつら文化は俺らに近いけど、中身は人種差別主義者だよ。ところで…」
リートは裸んまんま、浴室から飛び出して来よった。
「じゃん! どう? 最近剥けてきたんだよ、見て」
「ひい! そげんもんわざわざ見せっな!」
まこち下品じゃっどな…!
何ねこんいやらしかエルフは!
エルフちもっと清純なイメージが、神々しかイメージが…。
リートと交代し、今度はおいがシャワーば使うた。
「へえ…はるか先生のはすごい立派だ、さすが大人。すげえ、AV男優みてえ。
それで一体何人の女を泣かせたんだか」
「ぎゃひ!」
気付くとリートが浴室んドアば開けっせえ、おいが身体ばしろじろ見ちょった。
「お、おいはAV男優やなかでね…!」
「はるか先生はエルフの女を抱くかな? すっげえんだよ、エルフの女は。
まず見た目がいいし、肌もきれい、おまけに劣化しない。
散々すごいプレイしても、次やる時にはもうまっさらな処女なんだから。
風俗でも人気だよ。まあ、ドワーフの女が可愛いって人と分かれるけどね」
そいち…エルフやドワーフんおなごが性ん商品なっち事け?
リートは拳ば握っせえ、唇ば噛んだ。
「俺はあいつらが許せない…何が勇者だ」
「リート…」
「俺が混血なのはエルフの女が少ないから…ドワーフだってはやとん族だって同じだよ。
はやとん族の女はもっと美しいし、稀少だからもっと貴重品なんだ」
「貴重品ち…人は物やなかでね」
おいはリートばたしなめた。
「俺はエルフとはやとん族の混血…昔だったらそれぞれの部族の中で差別を受けたと思う。
純血じゃないから…でも今はもう差別している場合じゃないんだよ。
人種を問わず結婚して子供を作っていかないと…そして俺も」
「何ね?」
「エルフとはやとん族の混血の男、美しい血の重なり…どういう事かわかるよね?
男だって女と同じくらい価値は高いんだよ…」
リートはおいが腰ん抱きつきっせえ、泣いた。
「…俺らは物じゃない! 俺らの命は売り物じゃない!
ナカムラ先生はきっとその事に気付いていた、だからいなくなったんだよ。
俺たちを助けるために、俺たち原住民を解放するために…!」
「リート…!」
おいはリートん事きつうきつう抱きしめた。
確かにリートは美しか少年じゃった。
近か将来きっとわっぜよかにせんなっ、こいほどん少年放っておくはずなかろうもん。
「助けて…はるか先生…俺たちはやとん国の原住民を、ナカムラ先生を。
はるか先生はよそから来た人、こういう事はよそ者じゃないとだめなんだよ…」
その夜おいは狭かベッドば分け合っせえリートと寝た。
リートはおいが腕ん中でしばらく泣いちょったけんど、
そんうちすうすう寝息ば立てっせえ寝よった。
リートん寝顔ば見ながら、おいもそいからすんぐ寝付いた。
真夜中んふとんの中ん股間に温かさと湿り気ば感じっせえ、目ば覚ます。
おいは目むいて、がばりふとんば剥いだ。
リートがそこに覆い被さっちょった…。
「何しよっ…!」
「起きてたんだ、はるか先生…」
リートはくすり笑ろっせえ、また顔ば埋めた。
「ごめんね、はるか先生…俺、こんな事しか出来ない」
「そんな…リート」
「ナカムラ先生もだめって何度も教えてくれたけど、これが俺の現実なんだよ。
最後までさせて、俺を抱いてよ、はるか先生…どうせさらわれて売られるなら、
変えられない運命なら、初めての時くらいせめて自分で選んだ人としたいよ…」
何ち悲しか事…何ち辛か現実。
おいは原住民が現状ば知ってしもうた。
俺のいた世界でん、エルフは男も女も性ん玩具じゃった。
おいはリートから身体ば離した、リートん唇から唾液が糸ば引いちょっ。
「…こげん悲しか事せんで良か。こげんおんじょなんぞ相手ん…」
リートは施設んおった頃んおいと同じじゃっど…。
部屋ん外から監視されながら、目の前に連れられて来っおなごば抱きっせえ、
ただ腰ば振っちょっ、機械んごた男とおんなじじゃっど…。
「はるか先生…」
「おいが助けっ…おいが助けっから!」
おいはリートん事抱きっせえ、誓うた。
はやとん国が原住民ん解放…。
こん能力が役ん立つとなら、そいがおいに出来っ事なら。
…イフ・アイ・キャンじゃっど、悠。
朝おいが浜まで送っせえ、リートはタケ島んもうて行きよった。
おいはそん足でアタん街ん対岸に出た。
クレアボヤンス、おいは通行人ば観察した。
おやっどん始め、アタん街んもんらん服装は日本とさして変わらん。
おいは家ん戻っせえ、長う伸びた髪ば切った。
本職ん美容師んごた上手くは出来んけんど、まあ悪りかはなか。
ヒゲは今風にあごだけちいと残っせえ、あとは落とした。
小奇麗んしてんこん顔にゃ、相変わらずイケメンの要素はどこにもなか。
じゃどん今はイケメンでん不細工でん、目立ちよったらいけん。
部屋ん戸棚ん引き出しから、シャツば探す。
普段上にゃ何も着ん、服でん靴でん衣料品は大事んしちょっ。
ぶりぶり太てか腕は出しとなか、黒ん長袖が良か。
すると、そんシャツに髪の毛が一本付いちょっが見えた。
「長か髪じゃっどな…おいが毛やなか」
そん髪は切っ前んおいが髪より、ちいと長かった。
指でそん毛ば転がしてみっ…丸か、おなごん髪じゃっど。
男ん髪じゃったら、断面に角があっと。
こん家になしておなごん毛があっとけ…。