第6話 ナカムラ島んむきむきはるか先生
第6話 ナカムラ島んむきむきはるか先生
「俺もわからん」
リートは飯ば頬張っせえ、もごもご言うた。
「わからんち…」
「だって本当に突然なんだもん、いなくなる前日までナカムラ先生と連絡帳に、
『こないだ本土に行ったらモンスター襲来、美少女の生おもらし目撃☆』とか、
『どこだそれ! 俺もそれ犯り…見に行きてえ! 詳細よろ☆』とか書き合っていたのに…」
怒られたてん全然懲りちょらんとか…リートとナカムラ先生ん最凶最悪コンビは。
「うーん…ノリノリで美少女んおもらしち連絡帳ん書いちょっもんが、
突然失踪ばすっようん見えん、こいは何かあっと。
じゃどんこん家にゃナカムラ先生ん荷物はなか、さらわれたとなら荷物はあっはず…」
家んなかとはナカムラ先生ん荷物だけじゃった。
自分で失踪ばすっつもいじゃったら、ガスも電気も水道も止めちょっはず。
「きっと美人のおもらしを見ちゃったんだよ、くそう…ナカムラ先生め、抜け駆けかよ。
そんなもん見たらもう痛いくらいがっちがちで、先っぽなんかずるずるだよ!
そうなっちゃうと男はもう何も見えなくなっちゃう、追いかけるしかないよね! うん!
はるか先生なんか、きっとなんにもしなくてもいっちゃうね」
「先っぽ…? ずる…? そげん非現実的な」
おなごと駆け落ちすっにもライフラインは止めよっが。
戻って来っつもいじゃった…そいなら荷物は全部持っては行かん、ちいとは置いて行きよっ。
殺さいた…そいなら荷物んなか事も説明出来っ、じゃどんあんナカムラ先生じゃっど。
こん厳しか火山島で生き抜きよった、あげんむっきむきんばっきばきん猛者が、
そげん簡単に殺されっもんけ…? 絶対返り討ちんしちょっ。
食後、リートは肩から提げちょったかばんから、本やらプリントやら出しっせえ、
わからんとこがあっ、教せてくいやんせち言い出した。
ただ遊びん来ただけやなかち事じゃったか。
おいはリートん課題ば見ちゃっ、リートはさっきん下品さが嘘んごたようさん質問した。
こん島ん火山が作っ雲んごた、次から次へとどんどこどんどこ出て来っ…。
おいはそいが嬉しゅうて嬉しゅうて、つい調子ん乗っせえ答えてしもうた。
「しまった、調子乗り過ぎた! 航路が見えなくなっちゃう!」
日の暮れん暗うなり始めた頃、リートはがばり顔ば上げっせえうろたえた。
「航路ち…そげん遠か島から来たとか」
「俺のいるタケ島は3時間ちょっとだから、このカゴ島から一番近いよ。
でも外海を3時間、しかも夜間航海はさすがに…」
リートんタケ島でん約3時間け…3時間もこん子どんが一人で!
「ちゅうか、こん島は『カゴ島』ち言うとか…ちいとも知らんかった」
「この島が『カゴ島』で、俺の島が『タケ島』…で、本土の街が『アタ』、
この島を挟んで反対側の本土が『ウスミ』、
俺たち原住民はみんな昔の名前で呼んでるけど、地図じゃ全然別の名前だよ。
俺たち新しい国の国名や地名が長過ぎて、全然覚えられないから」
おいはこん島がなして「カゴ島」ち言うとか、なんとのうわかった。
こんこまんか火山島は湾の中で、四方ば陸ん囲まれちょっから…。
「俺たちみたいにナカムラ先生を知ってる人は、この島を『ナカムラ島』って呼ぶよ。
だってこの島の人口はナカムラ先生一人だったんだもん。
アタの街だと、『カゴ島』より『ナカムラ島』って言った方が通じるかも?」
リートはせかせか本やプリントば直っせえ、かばんに詰めっせえ立ちあがった。
「んじゃ…はるか先生、俺急いで帰らないと」
「待たんねリート」
おいはリートん肩ばがしい掴んだ。
「こげん遅う出発しよったらいけん、すんぐ夜んなっど。危なか。
おいがリートん家ん言うちゃる、明日ん朝出発しい」
おいはすぐにタケ島んリートん家に手紙ば書いた。
テレキネシス…いやテレポーテーション、声も一緒に送っ。
リートん家族もおいがむっきむきんおんじょで、きっとがっかいすっじゃろか。
「あら、はるか先生から手紙…」
クレアボヤンスでリートんおっかんが、手紙ば受け取った事ば確認しっせえ、
声ん通信ば始めた。
電話があればそいで良かけんど、おいもナカムラ先生も電話は持っちょらん。
「もしもし、あのですよ…こちらカゴ島、ナカムラ島ん新井悠ち言いもす」
「あっ…もしかして『はるか先生』! これは…いつもうちのリートがお世話になっております。
はるか先生は男の人だったんですね…てっきり女の人かと」
「あ、はい…すんもはん、こげんおんじょが…」
やっぱい! がっかいされちょっが!
「はるか」ち名でこげんおんじょん声…ドン引きじゃっど。
「いえいえ、丸い声と文字で優しい人だってよくわかりますよ」
「あいがとございもす…そいで、リートが今うちん来ちょっけんど、
今から帰っと途中で暗うなっせえ、迷うてしまいもす。
今夜はうちで泊めっせえ、明日ん朝出発ち事にしたかち思もちょりもす…」
おいは事ん経緯ば話っせえ、うちで一晩預かっ事ん了承ば得、
リートんおっかんとの通信ば終了した。
「…お許しもろたど」
「マジ? やった!」
「今夜はもううちん泊まりい、特別じゃっど」
おいはにいと笑うた。
「うおお! これはなんとしても探さなくちゃ! はるか先生のエログッズ!
絶対何か隠してるはず! 本だろ、オナホだろ、いやいやドールかも!」
「いや、そげんもんなかでね…」
「はるか先生だって男、絶対持ってるって!」
勉強中は真面目んしちょったリートは、また下品に戻りよった。
半でんエルフち、こげん下品なもんとは…。
「あのよう、エルフち普段は何しちょっ」
おいはタオルば浴室ん前に置きっせえ、リートに聞いた。
「んー、普通だよ。うちは漁師だけど、アタとかウスミとか本土のエルフやドワーフは、
普通に会社員とかしてたりするよ」
「会社員ち…あ、タオル置いとくど」
「でもね、最近は原住民の雇用がどんどん奪われていってね…、
会社員だった人も会社を追われたり、若者も就職難でさ」
「そいは、入植者んせいけ…?」