第52話 声オタならチェックしやんせ、直さん
第52話 声オタならチェックしやんせ、直さん
「ぷっ、アニメ雑誌のグラビアの女の子たちの間におっさん一人…」
「ラジオ番組のきゃぴきゃぴ収録現場に、訛った強面のおっさん一人…」
「くくく…華やかなアイドル女子声優の世界に、場違いなプロゲーマーが一人…」
声優プロダクション「ラジエーションナイフ」ん3人はそげん言っと、
声にならんほど笑い転げよった。
「やめてくいやんせ、おいはただん事務員のバイトんおんじょじゃっど」
おいは必死に抵抗した、こげんおんじょがそげん爆笑ハーレムはいけんが。
「どうする? 山本くんに智太郎、このついでだから売り出しちゃう?」
「いいね、やろうぜ俺ら…悠をこの『ラジエーションナイフ』の看板女性声優に…ぷぷっ」
「兄さんは名前もちょうど『悠』って書いて『はるか』だし」
3人はによによしっせえ言っと、また声ば無くしっせえ笑うた。
「ぎゃひ! 嫌じゃあ! 止めてくれんねえ!」
「『ラジエーションナイフ』所属女性声優の新井悠ちゃん…ぷくっ」
「ああ〜ん!」
そいからおいはぴきぴき泣きっせえ、もう一個んバイト先へと事務所ば追い出された。
今日は合同で練習すっ日じゃった。
そこじゃおいは一番の新入りじゃったから、誰よいも先ん現地に入っ。
まだ誰も来ちょらん、バイト先ん部屋にゃおい一人じゃった。
椅子ん座っせえ、他ん人らが来っとば待つ。
そこへ後ろんドアから誰かがしゃべりながら入って来よった。
「おはようはるかちゃん…新人だからもう来てるよね?
俺、高岡ってんだけどさ、知ってるだろ? 『幻想☆チーレムナイト』主演の。
今夜俺とごはんでも行かない?」
男んやらしか声じゃった。
完全においが事ばおなごち思い込んじょっ。
「悠はおいじゃっど」
おいは振り向いた、そこにゃちいと肥えたチャラかぶにせがいよった。
高岡ち男はびしい固まりよった。まあ、当然じゃっどね。
あん「新井悠」ちゃんがまさか、こげん太てか、ヒゲんむきむきんおんじょち。
「何ね貴様、おいに用け?」
「ひっ…あの、いや、その…部屋間違えましたあ!」
男は慌てて部屋から出て行きよった。
そいと入れ違いに他ん人らが固まっせえ来よった。
出演者はみんなタビタんごた年頃ん娘らで、おい一人がおんじょじゃった。
タビタも今頃はもう「はやとん国」ん立派なおなごじゃろけ。
そろそろリートと婚約ぐらいすっとやなかけ。
「おはようございもす、今日もよろしゅうたのんあげもす」
「今、高岡さんが血相変えて出て行ったけど…?」
「はい…何かおいが事おなごと間違えたらし」
すっと、女の子らはきゃあきゃあ言いよった。
「あの人、女癖悪いんだよ。悠ちゃんの事も女だと思って口説こうとしたんだよ」
「いい気味だよね、コネ欲しさに高岡さんに泣かされた女の子いっぱいいるから」
「悠ちゃんグッジョブ、高岡さんも絶対びっくりしたよ!」
「まさかあの『はるかちゃん』が、こんなかっこいいシブメンとはね」
おい一人がおんじょじゃっどん、そいば機会においはこんバイト先にも馴染めた。
女の子らはみんな生徒んごた、待ち時間にゃまだ学生ん子ん勉強も見ちゃっ。
離島ん生徒らは今頃どげんしちょっ、ナカムラ先生が教えちょっから安心じゃろけ。
おいは何しちょっ、ここで。
直さんに会いたか…帰りたか、「はやとん国」へ。
おいは女の子らん真ん中で涙ばこぼした。
「悠ちゃんも一緒に写ろうよ」
「じゃどん、こげんぶにせが顔出しはいけんが…」
「デボラは人気キャラだし、悠ちゃんはうちらの仲間だよ」
女の子らに言われっまま、おいは雑誌んグラビア撮影に引きずい出さいた。
「新井悠」がおんじょち事が知れっと、智太郎がネットん掲示板ば読み上げよった。
「デボラの中の人が女どころか、すげえイケメン!」
「すっげえ身体…男の中の男だろ。あの本体からあの声かよ」
「あの人プロゲーマーの『IF YOU CAN』じゃね、『サクライゼーション』世界一の」
「クソワロタ、何声優やってんすか! てかあの人の名前『新井悠』なんだ!」
わっぜかぶにせん智太郎でんイケメン扱いなら、ぶにせんおいはわっぜかイケメンち事け。
何ち狭か世界じゃっどね。
「…おいはもう『はやとん国』が『ナカムラ家住宅』へ帰りたかあ、うおん! うおん!」
おいは焦げた「かにぱん」ごた手ん甲で涙ば拭いながら、うおんうおん泣いちょった。
「そう言ってもどうやって帰るのさ、帰り方がわからないんじゃ帰れないんじゃん」
「じゃどん…じゃどん…! うおーん!」
「…あ、でもさ兄さん」
「何ね」
智太郎は急に真面目な顔んなりよった。
「兄さんは『はやとん国』がゲームの中の世界て言うなら、プレイすれば良くね?」
「そいはいけんが、そいじゃおいもただん冒険者になっ」
「うーん…じゃあさ、向こうにいる直さんに見つけてもらったら?
直さんてすげえ声オタなんだろ? なら直さんは絶対兄さんの事見つけるよ。
声優で今よりもっと有名になったら、直さんも見つけやすいんじゃないかな?」
「はっ…」
こげん遠か異世界でん、声優ん声なら、声優ん名前なら、
「はやとん国」んおっ直さんにも届きよっ、きっと。
直さんはわっぜか声オタじゃっど…!
そいからんおいは取材も引き受けるようんなっせえ、積極的に顔出しもした。
「新井悠」はこげんしっせえ、「ラジエーションナイフ」ん四枚目ん看板になった。
おいはマイクん前ん立つ時、いつも直さんが事ば思もっせえ、
遠か「はやとん国」へ届けっつもいで話しかけっ。
声オタならチェックしやんせ直さん…イフ・ユー・キャン、出来っとならな。
帰り方がわからんまま、帰国から3年が経ちよった。
さすがに直さんが実家ん中村家でん、おいが事不思議に思もちょっ。
会うごとにいつ帰っとけち言いよっ。
「はい、皆さあこんばんは、新井悠じゃっど。
『今夜はわっぜかラジオアクティブ!』ん時間です…」
そん夜はラジオん生放送で、ゲストは智太郎じゃった。
何の因果ね、兄弟でラジオとか。
おいたちだから「ソウル・レディエーション」が活動とか、ゲームん事とか話しちょった。
「ほんじゃ、リスナーからんお便りば…」
おいは手許んプリントアウトば読み上げ始めた。
「カゴ島県がラジオネーム『中村チェルビアッタ直』さあ…」




