第46話 おいは実験動物、核ん猿
第46話 おいは実験動物、核ん猿
おいは爆心地から離いた荒野に放り出さいた。
向こうんハイウェイにゃ一台ん車も通りよらん。
夜風はぬっか、今日が何月何日かは知らん。
じゃどん、たぶん夏が近かと。
髪が、服が、風ん持ってかれっせえまるで角んごた。
目ばつぶっと、おいは両腕ばうんと伸ばした。
テレキネシス、おいが身体からアメリカん太てか大地へ。
目にゃ見えん、こまんかこまんか放射能が流いて夜ん闇に消えよっ。
放射能汚染ん置き土産じゃっど。
どうぞ受け取ってくいやんせ、憎っか憎っかアメリカどん…。
おいはそいから隔離施設ん男らに確保さいた。
搬送先ん隔離施設でいっぺこっぺ検査され、まるで実験動物んごた扱いじゃった。
かつて能力開発ん訓練で殺いた猿と何も変わりはせん。
アメリカん白人から見っと、日本人のおいはイエローケークんごた黄色か猿じゃっど。
「何だ、少しも被曝していない、放射能が全く検出されない」
「なぜだ、あれだけの線量の中にありながら…」
「ありえない」
おいは研究者らにわっぜ珍しがらいた。
まず爆心地間近におった奇跡ん生存者であっ事、移送ん車からいきなりこつ然と消えた事、
何より高か放射能ん中にあいながら、ちいとも被曝も汚染もされちょらんち事…。
そん日から検査はより精密に詳しゅうなりよった。
たぶん政府はおいが事ば研究すっつもいじゃっど。
おいはいよいよ核ん猿んなっとけ。
じゃどんマスコミん方が先に動きよった。
隔離施設ち言うてん、そこはあくまでも病院ち扱い。
刑事施設やなか、言うたら新聞も雑誌も好きん読めっ。
核ば物ともせんわっぜ珍しか男がおっ、そげん書かれちょった。
施設は取材ばシャットアウトしようちしちょった。
核ん国んアメリカがこげん珍しか、核ん猿ば手放しよっ訳なかろうもん…。
おいはそん取材ば受けたかった、どげんしてん。
おいが願いは到底聞き入れきらんもんじゃった。
核ん猿にゃ利用法がいくらでんあっと。
原発で働かせてん良か、核兵器投下直後ん爆心地に立たせてん良か。
黄色か猿はまこち旨かケーキじゃっどね。
そげんある朝、おいが隔離されちょっ部屋ん扉が開きっせえ、
スーツ姿ん男ら二人が入って来よった。
「おはよう、ハルカ」
「こげん早よ何ね、核ん猿に急用け?」
「退院だ、荷物をまとめろ」
男らは渋か顔でそいだけ言っと、ベッドん上に服ば投げっせえ出て行きよった。
おいは良うわからんまま、用意さいた服ば着っせえ支度ば始めた。
服は黒んパーカとジーンズ、そいから靴下に黒か樹脂製んサンダルじゃった。
どげんしっせえおいが服んサイズば調べよったとけ、ぴったいじゃった。
荷物はなか、直さんとの婚姻届だけじゃっど…。
退院でん見送りひとつなか、おいはひとりで無機質でちんたか廊下ばとぼとぼ歩きっせえ、
建てもんが外に出っせえ、庭ん先ん正門に出た。
門番も無言で嫌々開門しよった。
何ね、こん扱いは…ひどかね、昨日まで核ん猿扱いしちょったくせん。
「…悠!」
年老いたじじどんが声がしよっ…。
「迎えに来たよ…遅くなってごめんな悠」
振り向くと、そこにゃ白髪ん細かじじどんが泣きながらかけ寄って来よった。
見た事んなかじじどんじゃっどん、そん優しか声でわかっ。
「おやっど…!」
じじどんは新井豊久、おいがおやっどじゃった。
こげんじじどんになってしもうて…おいももうおんじょじゃっど。
こまんか子どんはこげん太てか、ヒゲんおんじょんなってしもうた。
感動よい先ん、身体が動きよった。
おいたちはきつうきつう抱き合っせえ、声ばあげっせえ泣いた。
「二度と会えんち思もちょった…こんままここでけ死むかち思もちょった…」
「もう大丈夫、おやっどが迎えに来たよ…帰ろう悠、桜田門の新井博物館に」
おやっどは泣き笑いしっせえ、おいが髪ばくしゃくしゃ撫でてくいた。
身体がこまんかなりよった、おやっどは…。
渡米したきり音信もなか、帰国ん予定ば過ぎてんちいとも戻らん。
不審に思もたおやっどは、すぐに捜索願ば出しちょった。
付き合いん薄か笠垣ん実家にも頼ったち、おやっどはホテルん隣んベッドで言いよった。
「じゃどん、おやっどはおっかんと結婚した時、実家ば捨てて来たち…」
「そんな事言ってられないさ」
婿養子んおやっどは、おっかんと結婚すっまで「笠垣んぼん」じゃった。
笠垣ん家は力んあっ政治家ん家、結婚も相当反対さいたろう。
そん政治家が動いてん、アメリカは今までずっとおいが事ば解放せんかった。
「おやっど…なしておいはいきなり解放さいた?」
「笠垣の家も相当働きかけていたけど、交渉は長引いていた…。
そこへあの報道だよ、アメリカの報道もお前の特徴くらいは報じている。
すぐ悠だってわかったよ、日本の報道が悠を米国による拉致被害者にしてくれた…」
日本の報道がおいが事ば助けてくいた…。
拉致被害者ち騒がれたら、アメリカも動かずにはいられんかったち訳け。
「…明日は出発まで少し時間があるから、悠の服を買いに行こう。
家で用意していた服ももう小さい、悠の服は退院の時にここで揃えたあれきりだ。
アメリカなら悠のサイズもあるだろう」
あん服はおやっどが揃えてくいたとけ…。
おやっどが日本から持って来てくいたパジャマは着られんかった。
ホテルんバスローブで寝ちょったけんど、そいもつんつるてんじゃった。
おいはおやっどんがベッドに潜り込んだ。
「…あのよう、おやっど」
「何だね」
「一緒に寝てん良かけ、今夜だけじゃっど」
おやっどは笑ろっせえ、おいにそうっとふとんば掛けてくいた。
「何ち…!」
帰りん飛行機ん中で、おいはおやっどから意外な事ば聞かさいた。
新井ん家ん事じゃった。
「うん、悠の弟になるよ」
「おいに弟…?」
おやっどはおいにゃ弟がおっち言いよった。




