第35話 だからよ、おいはもう引き返しきらんち言うたが
第35話 だからよ、おいはもう引き返しきらんち言うたが
「パパ久どんもナカムラ先生ば知っちょっけ?」
「ナカムラ先生は前の戦いで軍師を務めたと聞く…かつて別の勢力が侵略を試みたが、
ナカムラ先生の見事な采配で失敗に終わっている…しかし、なぜ声だけなんだ?」
「おいが能力ん通信じゃっど、ナカムラ先生は通信が先んおっと」
おいは地下ん一番奥ん牢屋ん前で、パパ久どんにおいが能力ば明かした。
「能力なあ…冒険者らのチートや魔法とは違うのか?」
「チート&マジック? んな訳なかろうもんが…おいにゃそげんもんなか。
こん能力は訓練がたまもんじゃっど、おいはそげん施設んおったから…」
「へえ…超能力者か。冒険者らはチート、チートって魔法を使いたがるけど、
やっぱりそこは所詮魔法でさ、素材や道具が必要だったり、
呪文や魔法陣などの暗記が必要だったりして、ちょっと手間だね。
相当に熟練しないと、ミンストレル…悠のように必要な時にぱっとは出せない」
パパ久どんは冒険者らん魔法ん仕組みば教えてくいた。
魔法は手間…。
「つまい、先ん発動したもんが勝ちち事じゃっどな…!」
「よっしゃ、俺が王妃さまより先に悠としちゃえば…ぐへ、悠は俺の嫁。
俺が王妃ボイスで誘導して、魔法なんか出させなきゃいいだけ」
「誰が男と結婚など…ナカムラ先生さ、直さんボイスちどっからそげんデータば…」
ナカムラ先生が直さんボイスん仕組みはおいと同じ。
あらかじめ用意しといた音声データば再生しちょっだけ。
「変態の道は変態」
「盗録け…まこちナカムラ先生は変態じゃっどな。
じゃどん直さんボイス…王妃さあん声なら人も動きよっ」
「悠、ナカムラ先生、その王妃さまなんだがどうやら狂ってしまったらしい」
パパ久どんが意外な事実で、おいとナカムラ先生が間に割り込んだ。
「いやあ…狂ってるって最初からだろ、あんな下品な王妃さま」
「だからよ、おいもそげん思も…狂うちょっち今さら過ぎじゃっど」
「いや、そうじゃなくてさ…最初はそこの牢屋に入ってて、俺が看守してたんだけどさ。
だんだん様子がおかしくなっていって、ひとりで笑ったり叫んだりしててさ…。
夕方、上のやつらに連れて行かれてしまったんだ」
そういや開戦前ん通信以来、直さんが通信はなか。
「王妃は正気だからこそ、王妃としての価値がある。
狂えばただの女、そこにもう価値は無い…刑の執行も早まるか」
ナカムラ先生がちんたか声がすっ。
そこへカゴ島からん通信が入っ。
「こちらナカムラ島、発見された。現在交戦中、敵は別勢力。
運営から島津への応援と思われる」
「おやっどん! 皆は…皆は無事け!」
「今のところは…アタに展開しているポチャ弘らに応援を要請している」
ぶういちおやっどんと通信ばしちょっ横で、パパ久どんが腕ば掴みよっ。
「悠、俺を派遣してくれ。そっちの方がポチャ弘の到着より絶対早い」
「パパ久どん…」
「頼む、相手が多勢なら力で、体力で押すしかない。
ドワーフの変異種は堰として必ず力になる、頼む悠…!」
ドワーフん変異種…確かに。
こげん太てかドワーフは確かに変異種じゃっど。
「…わかった」
おいはカゴ島んぶういちおやっどんに言うた。
「ぶういちおやっどん、おいは現地で新しか味方と合流した。
今からそん味方ばテレポーテーションで送っ、いろいろあってんそいは後。
信用は出来っ、パパ久どんはおいがスカウトしたわっぜか頼りんなっ味方じゃっど…!」
行っど、おいはパパ久どんに目配せで合図した。
テレポーテーション、パパ久どんばカゴ島へ。
パパ久どんが姿はふっと消えっせえなくなった。
「…ナカムラ先生、おいたちは島津じゃっど」
「悠と二人きりなんて嬉しいね、これは薄い本フラグと見てもいいかな…むひょ」
「断っ…おいはBLなぞ嫌いじゃ」
自分で小指ん指ば噛むと地下牢ん瓦礫ん山に血液ば垂らす。
おいはナカムラ先生との通信ば維持しっせえ、地下から出た。
階段の入口に島津ん兵が集結しちょっ…さっそく袋ん中ん鼠じゃっどね。
「出てきたか、地下にはパパ久がいたはずだが…?」
兵らん頭が聞きよっ。
中肉中背、良う日焼けした肌に白髪んじじどんじゃった。
「ああ、うっ殺したね…完全に消したど」
「馬鹿な、パパ久は『電脳シーマンズ』四強の一角…お前ごときに消せるはずはない」
「じゃどん四強んうちん最弱、違うけ?」
「うん違う」
白髪んじじどんは真顔で答えた。
「パパ久は『電脳シーマンズ』武力最高ぞ…!」
「あ、そうじゃったか」
「悠、島津最高の戦士登場だ。武力はパパ久に若干劣る、だが統率力や政治力がある。
総合的に彼が島津最高だ、本名は中村肉弘…」
ナカムラ先生がアナウンスが耳元で聞こえっ。
「中村…!」
「はやとん国出身、デブ久の伯父…そしてポチャ弘の父」
「ポチャ弘どんの…なしてはやとん民がこげん…」
何かがおいが腕ん横ば横切った。
「国の内で守っているだけがはやとん民じゃない、外から攻める者もいる…それだけだ」
「くそ…」
腕に手ばやっと、ぬるりぬっか感触がすっ…斬られてしもうた。
「よそ者が首を突っ込むな、ミンストレル」
「確かにおいはよそもんじゃっどん…おいはもう引き返しきらん。
こん『はやとん国』ん心ば知ってしもうた、こいが放っておけっ事け…!」
テレキネシス、おいは出血ば止めっせえ肉弘どんらが動きも封じた。
チートでんなか、魔法でんなか、おいが能力は戦うだけんもんやなか。
戦いば止めっともおいが能力んうち。
「答えやんせ、なして民どうしが争いよっ? 同じ国ん民、国ば思も思想も同じ…。
なして力ば合わさんね? 島津がこん国ば支配したら他ん冒険者らは来ん?
そいは違う、ただ運営ち冒険者らん親玉ん手に下っち事じゃっど…」
「わかってるさ、そのぐらい…それを承知で俺たちは『電脳シーマンズ』を結成した。
故郷を裏切り、冒険者のふりをして、運営に認められるべく功績をあげてだ」
肉弘どんらに戦う意志はなか、おいは解放した。
「あんな勇者気取りの冒険者らの好き勝手にはさせん、そのためには運営の力が要る。
そうでもしないとこの国を守りきれない、じじいが役に立てるのはこのくらいしかない」
「肉弘どん、じじどんでん命は命じゃっど…大事にしやんせ」
おいは肉弘どんが肩に触れた。
首ん鎖に通した指環が揺れっせえ光りよっ。
肉弘どんはざあと青ざめた。
「…その石!」
「だからよ、おいはもう引き返しきらんち言うたが…」




