第3話 おいはナカムラ先生が後任ん先生
第3話 おいはナカムラ先生が後任ん先生
「…そいは『学校』け?」
「いや、学校みたいなものだが厳密には学校ではない。通信教育だ」
「通信教育…!」
おいはおやっどんが言う「通信教育」ち単語に反応した。
通信教育はおい自身こそが求めちょったが、郵便もなか火山島だから諦めちょった。
「この国は数年前に入植者が大勢やって来て、国名も『はやとん国』から変更になった。
なんだか洋風のすごく長い名前になってな、俺も未だに覚えられん。
国名が変われば政治も変わる、元あった教育もすっかり廃れてしまった。
この街のある本土はまだ学校もあるが、問題は離島だ」
おやっどんは厳しか顔んなった。
「この街から海に出ると、ハルカのいる火山島以外にも小さな離島がいくつも点在している。
その離島には新しい国の教育から取り残された子供たちが、教育を受けられずに困っている」
「ふん…そん子どんらが教育ばおいに?」
「ハルカのその能力ならば安全に通信教育を行う事が出来る、どうか力を貸して欲しい」
「安全?」
おいはおやっどんから離島ん教育んついて、おいがここん来っ前ん事を聞いた。
前にも通信教育ば試みた者がおったが、郵便ば使うちょったとで時間がかかった事。
離島ん事で、道中も危険でスクーリングもままならなかったち事。
そいから…前任の先生が突然いなくなってしまった事。
「前の先生はナカムラ先生て言って、たいそう熱心に教えていたんだけどね」
「へえ…ナカムラち日本人か日系人ん先生け?」
「わからんね、皆がそう呼んでいただけだから。
突然いなくなるような人には思えなかったんだけど、まあいなくなってしまったのさ」
「つまり、おいはそんナカムラ先生ん後任け?」
おやっどんはおいが送った買い物かごにしがみついた。
「頼む! ハルカ! 配達先の子供らが教育を求めている、ハルカしか後任は考えられん。
もちろん給金は支払う、バイトと思って引き受けてくれないか」
バイトなあ…まあ悪りかはなか。
おいも安定した収入ちもんが要っと。
「…おいにゃこん国ん教員免状はなか、そいでん良かかね?」
「引き受けてくれるか!」
そいからおいはおやっどんに詳しか話ばしたかち、今から会いたか言うた。
俺は火山島から中継地ば挟み、テレポーテーションば繰り返した。
そいで自分が肉体ば店ん奥に送った。
「あまり人ん見られとなか…隠してくいやんせ」
島んおったおいは下だけズボンで、上は裸じゃった。
おやっどんは嫁じょに店番ば頼み、店と続いちょっ居間においが事ぎゅうち押し込んだ。
「ハルカ…来てくれてありがとう、こんなに立派な青年で驚いたよ。
見事な身体をしておる、それにすごいヒゲだ」
「むひょ。こげんむきむきんおんじょでげんなかあ…」
もともとごつか身体ばしちょったけんど、火山島ん来てから山ん登り下りで、
おいはますますむっきむきんばっきばきんなった。
「で、そん離島ん子どんらは何人け?」
「ナカムラ先生が教えていた頃は15人だったが、今はもっと減っている。
配達先の子らで6人、もうちょっと増えても10人いくかいかないかぐらいだと思う。
俺のようなはやとん族の人型の子もいれば、エルフやドワーフのような妖精型の子もいる。
皆このはやとん国の原住民の子だ」
「歳も人種もばらばらけ…何教えたら良かかね?」
「とにかく算数や理科など一般的な…学校で教えなければ学ぶ事のない教科を頼みたい」
おいはおやっどんが出してくいたお茶ばすすり、クッキーらしか菓子ばつまんだ。
久しぶりん甘かもん…そん旨か事身に染みっごた。
「方法はどげんすっと? おい、あんま顔は出しとなかあ…。
こげんむきむきんおんじょ、子どんらが恐がりよっ」
「そこは通信教育、顔は見えなくとも添削の文字だけでいいんじゃないかな?」
そんシステムはおいが授業んプリントば能力使こっせえ、配送しっせえ、
受け取ったもんに添削しっせえ、また送り返すちごく単純なもんじゃった。
テキストなど教材ん準備期間が要っから、授業は秋ん新学期から、
プリントば作っ機械に、おやっどんがプリンタば提供してくいて、
インクや用紙も提供してもろうて、そいでおいが自分でそん都度プリント作成すっ事んなった。
おいは買い物かごば能力で伸ばっせえ、借りたプリンタとサプライば入れっせえ、
またテレポーテーションで火山島へ帰って行った。
毎日毎日朝は灰ばかきっせえ、海ん行っせえ食料調達しっせえ、
日中はネットばしっせえ昼寝しっせえ、時々島に来っ勇者気取りん冒険者ば狩っせえ、
植えた芋ん手入ればしっせえ、たまん夜にゃ子種ば山に海に流っせえ、
いつもと変わらん毎日送りながら、授業ん準備も始めちょった。
…おやっどんが離島ん子どんらは、教育から取り残されたち言うちょった。
ならばきっと勉強も相当に遅れちょっ、まずはテストばしっせえそん実力ば見んと。
そいから個々ん実力ん合わしたカリキュラムば考えんと…。
通信教育ん再開ん告知は、配達ば兼ねっせえおやっどんがしてくいた。
とりあえずおやっどんが配達先ん6人と、そん近所ん子で9人からんスタートじゃった。
8月ん半ばからおいはテストんプリントと、子どんらに宛てっせえ挨拶ん手紙ば書いた。
おやっどんから聞きっせえネットで調べちょいた住所に、能力ば使こっせえ、
テレキネシス、手紙とテストば子どんらに送付した。
9月1日、こん日おいは通信教育ん先生んなった。
おいはこん「はやとん国」ん教員免状ば持っちょらんから、
「通信教育」どころか、ほんの「通信講座」ごたもんじゃっどか…。
じゃどん、おいはやっど…。
こげんむきむきんおんじょでん、子どんらが必要としてくれっとなら。
出来っ、おいは頑張っ…アイ・キャン・ワーク・イット・アウト、イフ・アイ・ビリーヴじゃっど。
子どんらからんテストん回答は、そいから間もなく集まり始めた。
子どんらが回答し終わったプリントは、家ん外ん出して置いてもろうたら、
おいがクレアボヤンスで見回っせえ、見つけたら回収すっ。
やっぱい、相当遅れちょっ…年齢別ば考慮してん、こん実力ん低か事にゃびっくいした。
12歳ん子が九九もわからん、8つの子が文字もろくん書けん。
こいはどげんかせんといけん、こんままじゃ絶対いけんでね。
おいは当初考えちょったカリキュラムば、一から作り直す事んした。
おいはこん国ん新しか政治から取り残された、離島ん子どんらでんわかっように、
文字ん書き方、読み方、数ん数え方、そっから始めっ事んした。
噛み砕っせえ、噛み砕っせえ、挿絵や図も使こっせえ、
問題ん作成んひとつひとつに苦心した。
プリントば作っせえ送っせえ、回収しっせえ添削しっせえ、
子どんらとやりとりば重ねていくうち、「わかりやすい」ち言われっようんなった。
そげんある日回収した、子どんらとの連絡帳ん書き込みんが目がとまった。
14歳、最年長んリートち男ん子からんもんじゃった。
“はるか先生、いつもわかりやすい説明をありがとうございます。
こうしてまた勉強できる事をとても幸せに思っています”
嬉しかあ…通信講座ば引き受けてまこちよかった!
リートん書き込みはまだ続いちょった。
“はるか先生の字は、やさしくてきれいですね。
きっと文字と同じように、はるか先生もやさしい女の人だと僕は想像しています”
何ち! おいはおなごち思われちょっとか!