第10話 標準語だけが日本語やなかが
第10話 標準語だけが日本語やなかが
「私も城の者、そんぐらいわかる…」
緑んドレスんおなごはベッドん上であぐらばかきよった。
そいから同じ緑ん花ん髪飾りば外っせえ、肩ぐらいん髪ばぐしゃぐしゃん掻きむしった。
姫やなかかね、おまんさあ。
そういや、おいが部屋ん落ちちょった髪もこんくらいの長さじゃったな…。
「お前、名前は何と言う?」
「え…おまんさこそ名乗らんね、無礼な」
「ああ、一応チェルビアッタだな」
「ぶっ! こん顔んどこが『チェルビアッタ』ね! どげん見てんおまんさは日本人じゃっど!」
「いや、しょうがねえだろ…名前変えられたんだから。まあ座れ」
チェルビアッタちばばどんはベッドん端ば、ぽんぽん手で叩いた。
おいはベッドん縁に腰掛けた。
「いけんが、こげん…」
「構わぬ、よからぬ想像をしているのはお前だけだ」
「おいは新井悠ち言っと…カゴ島で離島ん子らに勉強教えちょっ。
ナカムラ先生が後任じゃっど、今そんナカムラ先生ば探しちょっ」
「ナカムラ先生…!」
チェルビアッタちばばどんは、目ば丸うした。
「お、知っちょっけ? カゴ島ばナカムラ島にしよった、オタクんむっきむきんおんじょ!」
「むき…? おんじょ…?」
すると彼女はベッドんひっくり返っせえ、手足ばばたつかっせえ笑うた。
白んパンツ見えちょっが、しかも食い込みっせえ割れ目まで浮いちょっが…。
何ねこん色気んなかラッキースケベは、要らんが。
「確かに中村先生はオタクでむきむきのおっさんだ! くそ笑える!」
「うちん生徒がナカムラ先生は、連絡帳が下ネタばっかいで下品ち…」
「下品! いやお前…後任のはるか先生の方が下品だろ、
何だよさっきのBLドラマDVDな台詞選びは…声優かわいそうだろ、泣くぞ」
チェルビアッタばばどんは、おいが肩に後ろから足ば乗せた。
おいはそん足ば掴んで、どけようとした。
「あのよう、そいでこん『はやとん国』は入植者らが来てから…」
「…ね? はるか先生、しない? だんなが相手してくれないから、たまってるんよ」
「あ、人妻じゃったか、どうりでばばどんち…てか、たまっ…?」
「下品で結構。私はね、民間から王室に入った女…元の名は『直』。
チェルビアッタとか御免だね、私は元民間人だからこの国の民の事くらい知ってる。
入植者の支配、原住民への非道な行い、人身売買…。
私は王室にありながら反体制派の先鋒…そう思っている」
こげんところにも同志がおっとけ。
するとまたノックん音がし、声がした。
「妃殿下、大臣がお目通りを願っております」
「支度する、下がって待たれよ」
妃殿下…! このばばどん…直さんは、こん「はやとん国」の王妃なのだ。
「すまん、行かねば…はるか先生、私に連絡してくれ。声だけでもいい。
中村先生の事は私にまかせろ、私は王室の者だからな…」
「おおきに、ばばどん…直さん」
直さんは起き上がっせえ、服ん乱れば直した。
放った髪飾りもまたつけ直す。
「…はるか先生は『おっかん語』の訛りがきついけど、
丸くて甘い声だ、録音の作ったイケメンボイスよりいいと思うよ。
なんだか久しぶりに生きた人に会った気がする…」
「むひょ。 だからよう、方言キャラば否定すっなち…」
おいが訛りはおっかんが訛りじゃった。
3つん時け死んでしもうたし、おいもわりとすぐアメリカ行ったし、
日本語話す機会はあんまなかったけんど、そいでんおいはおっかんが事忘れとなかった。
おいにゃおっかんがおった事、おっかんちおなごが生きちょった事…。
じゃからおいはこん「おっかん語」通しちゃる。
標準語だけが日本語やなか、おいはそげん思もちょっ。
「また私のところに来て会ってくれ…いや入れてくれ。今度はしようぜ、はるか先生。
はるか先生の、きっと気持ちいいんだろうな…ぐへ。
パンツぐちょぐちょに濡らして待ってるよ」
「ぐちょ…? 濡れ…?」
「あ、した事ない? 大丈夫、私がみんな教えてあげる」
直さんはくすり笑ろっせえ、部屋から出て行ってしもうた。
何ち下品な王妃じゃっどか…。
そいから直さんはナカムラ先生ば知っちょっごたじゃったな。
きっと過去に会うた事あっと。
しっかしナカムラ先生は会う人会う人、みいんな下品にしよっ…。
おいもナカムラ先生に会うたら、わっぜか下品になっとかも。
離島ん子どんらん勉強は、やりとりすっうちんどんどん進歩すっ。
まるで砂が水ば吸い込むごた…日本の学生と訳が違う。
子どんらからは別紙にまで質問がみちい書いてあっし、
おいも添削ん文字が入りきらんで、別紙にまで書く始末じゃった。
算数ん面積ば求めっ公式ん解説、理科ん開花から結実までん仕組み、国語ん動詞ん活用…。
そいからこん世界にも英語はあっ。
「Civillization」ち単語ん意味と用法、IF構文が仕組みと解説…。
“IF構文は『もし〜ならば」という条件の部分と、
その結果の部分の2つがカンマで区切られて出来ています。
条件と結果の部分は前後どっちでもいいよ。
ほら、先生がよく書いてるあれ、『イフ・ユーなんとか』。あれだよあれ”
仕事ん合間に城で見た事ば図に起こす。
こないだあちこち走り回ったから、間取りはだいぶ覚えたど…。
リートもプリントんついでに手紙ばよこして来よった。
“こんにちは、はるか先生…カムショットファイア!
隣の島のタビタが帰って来たの、あれはるか先生だよね?
まじぱねえ能力! 俺らに通信講座してる場合じゃないっす。
そういやはるか先生って童貞…Web授業とかしないの? てか、してほしい!”
カム…? 童て…? てかWeb授業け。
じゃどん全家庭にネット環境があっち訳やなか。
おいはリートに返事ば書いた。
“はるか先生です、こんにちは。
Web授業については、全家庭にネット環境があるとは限らないので…。
あと先生はこんなヒゲ面のむきむきおじさんなので、顔出しはめちゃくちゃ恥ずかしいです。
小さい子たちがきっと泣いてしまいます。
でも先生ももうちょっと踏み込んだ授業を、何か出来ないか考えています”
「そこでイケメンボイス再生だよ」
直さんが言った。
彼女とはその後も声を送って連絡ば取っちょった。
そいでまた会いに、城ん直さんが部屋に忍び込んだ時じゃった。




