味噌汁は断然、豆腐派です
「ようこそ!帝国、ノーザン・クラークへ!」
金の髪が美しい少女が告げる。他の人が口を開けて動けなくなっている中、1人だけ冷静に
(こんな事なら、昨日のお味噌汁豆腐にするんだった…)
否、現実逃避をするのだった。
なぜ、こんなことになったのか…莉子はひとり、3週間程前の事を思い出していた。
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「莉子〜、起きて〜、時間よ〜」
いつも通りの妙に間延びした母の声。いつも通りの朝のあいさ…つ……。
「莉子、挨拶して?新しいお父さんよ。」
莉子の父は二か月前に事故で亡くなった。それからの母のは心ここにあらずと言った感じで、覇気が無かった。そんな母の久しぶりの笑顔。
良くも、悪くも莉子は賢い子だった。そして、家族思いだった。自分の心を簡単に押し殺せてしまうほどに。
「よろしくお願いします、お父さん!」
完璧過ぎる笑顔。莉子を良く知るものが見れば崩れそうな、脆く、危ういそんなことをかんじされるものだった。
それからの日々はまるで父がいた時のようだった。それから、1週間。最近、母は静かになった。父の言うことに逆らうことは無い。僅かな口答えすらしなかった。不審に思った彼女は母に話を聞いた。
「何でもないのよ。大丈夫。そうだ、今日は莉子に買い物に行ってもらいましょう。カレーの材料を買ってきて頂戴。」
その話題のそらし方を、きっと聞かれたくないことなんだと理解した莉子は、エコバッグ片手に買い物に出かけた。それが母との最後の会話だった。犯人は父がだったそうだ。
それからの1週間以上、莉子は引き篭もった。心配した友人が訪ねてきても、会う気にすらならなかった。
さらに時間がたち、莉子もこのままでは…と久しぶり学校に行った。いつも笑っていた友達から向けられる気まずい笑顔、同情の瞳。耐えられなかった。唯一の救いはいつめん(いつものメンバーの略称)の3人は今まで通りに接してくれていることだろう。
その瞬間、足元が光り輝き、魔法陣が現れた。
「なんだ!?」
「うわっ!」
(よりによって…久しぶりに来た学校でこれですか……)
大好きという程でもなかったが、ラノベをよく読んでいた莉子はなんとなく、この後の流れを想像し、ため息をついた。
(サ〇ウのごはん持ってけないかな……あっ、レンジがないか…)
帰れない可能性も視野に入れた、速すぎる頭の回転。そんな、思慮深い?一言がバカっぽくなってしまったのは、驚きすぎて思考回路がショートしたのか、莉子の性格なのか。