悔しい!奴隷になんか絶対にならないんだから!!
「こいつは<召喚者>だな」
金貸しの男は呟く。
召喚者って召喚する側の事を指すんじゃない?とか無粋な事をいってはいけない。召喚された者、略して召喚者だ。召喚する側は召喚師と呼ぶ。
<召喚者>の存在は目ざとい商人であればまず知っている程度に「ままある」話である。そして<チート>と呼ばれる強力なスキルを持つ事も知られている。
そんなレアでお宝な存在が「金貸してくれ」とやってきたのだ。商人として合法的な範囲で、あらん限りの手法でレアな<召喚者>を自分のものにするのは当然といえる。話をしながらさりげなくコッチの世界の常識を教え、同情して助けるふりをみせてやる。建前としては「あなたが立派に稼げるようになれば貴方に金を貸した私も儲かる」というスタンスだ。
この世界には奴隷が存在する。一般的な奴隷は奴隷狩りにあった者である。傭兵(というか山賊)が集落からはぐれた人・亜人を確保し奴隷商に持ち込む。そこでファンタジーな魔法で様々な制約をつけた従属魔法で奴隷が完成するのである。力づくで身柄を奪い、暴力を背景に奴隷化に同意させれば良い。
対して、<召喚者>に対してはこのような一方的な奴隷化は禁止されている。決闘・捕虜・借金など理由のある場合にのみ奴隷化が可能である。そして今回ドロップチートな拾雄は借金を理由に奴隷にされる罠にはまっている。
・なぁにいつでもいいんですよ
返済期限については「(俺が返せと言わなければ)いつでも良い」と口頭で説明する。そして契約書にも返却期限を記載しない。コレは[返済はいつでも良い]のではなく[俺が返せといった時に返せ]という契約書だ。『返済期限がない場合には貸主の一存で期限を決められる』コレが法律だ。
あまりに好都合だと怪しまれるので、初回のみ期限を明記しその後は期限なしという契約にした。これについては初回の返済ができる能力があるならその後について安心できるから、と説明しておいた。
・いい人ぶって服と宿を斡旋する
こいつ異世界の服そのままできやがった。このままでは他のハイエナどもも寄って来るからコッチの服を貸してやる。ついでに逃げられたら困るからウチの息がかかった宿屋も紹介する。宿も自分のツテで3割ほど安くなると言ったら恐縮していた。
さて、そんな罠をしかけつつ<召喚者>を送り出す。
◇◇◇
「どっせい!!」
ドロップチートな拾雄が村人A並みの力を手に入れるブートキャンプから1週間。
ドロップチートな拾雄はなんとか仲間をあつめ、3人で一角兎を狩っていた。ともに村から出てきたばかりの村人Aクラスの実力者だ。一回戦う度に一人は重症になる、こうなったら街にもどって休むしかない。幸いファンタジー成分満載なポーションにより一晩休めば重症者もバッチリ回復する。
この世界、魔物は倒すと消滅する。所謂「光の粒子となって消える」タイプで魔石がその場に残る。そしてドロップで毛皮やら角やらが稀に手に入るのが通常だ。
事前調査では1PTが1日にかれる兎は5匹前後、ドロップ率は1割ほどと聞いていた。つまり魔石5個とアイテム0-1個だ。しかし現実には1日1回の討伐しかできず、ドロップ品もそこまでではない。予定の3割ほどの収入だ。
今のところ「拾雄がトドメをさした場合ドロップ100%」である。しかしこのままでは借金の返済は厳しい気がする・・・そんな事を考える余裕があるのは、先の気合の一撃(笑)で兎が光の粒子となったのを確認しているからだ。今回も仲間の村人C(仮)が犠牲になった。担いで街に戻るのって中々きついんだよね。
そんな事を考えながら重い足取りで街に戻る。
◇◇◇
「いくぜぇえぇ!大地斬!!」
村人Bの必殺技(自称)が炸裂!!なんでも昨今人気の勇者様の必殺技らしい。うん、イメージやノリは大切だ、頑張って兎を狩ってくれたまえ・・・なんて思っていたら本当に剣筋が光った気がした。こいつ、もしかして<スラッシュ>とかそんな基本スキルを覚えたのか?もう村人とは呼べないな、これからは戦士Bと呼んでやろう。
そんな進歩があってか今回はじめて犠牲者なしに兎を倒す事ができた。調子にのって次の獲物を探そうとするが、戦士が一言言ってきた。
「俺の大地斬カッチョエーけど、多分今日はもう使えない気がする」
SPが足りない!的なものだろう。まぁスキルが使えなくても何時もどおり一人を犠牲にして兎をボコれば良いのだ。
「ここは俺に任せて先にいけ!!」
そんな人生で一度は言ってみたい(けどそんな状況にはなりたくない)台詞を言いながら兎の攻撃を防御する。落ち着け、傷は浅いぞ、まだ大丈夫。とはいってもこのままではジリ貧。今日の生贄は僕になってしまう。他の二人は兎を挟んで攻撃をしている。
スキルはイメージとノリが大切。ならばここで相応しいのは敵の攻撃を受け止めカウンターを取る技。いくぜ!真っ白に燃え尽きるまで
「クロスカウンター」
僕の左腹を付こうと突進をする兎。それを僅かに体をそらしながら右手の剣で突きを行う。気分は世界を掴む右ストレート!!
僕の剣は見事兎に突き刺さり光となって消える。そして、レア中のレアである[一角兎の角]を残している。通常レアの兎皮とは違い、万分の一とも言われるレア素材で、ユニコーンほどではないが、優秀な治療薬の素材となる。3等分しても十分に借金を返せる!ビバ!レアドロップチート!流石僕のチートは最強だ。
ドロップ品を取得しようとするが体が動かない。何故だ・・・自問する間もなく意識は途絶える。ああ、きっと真っ白に燃え尽きたんだな・・・。
[system:スキル<捨て身>を取得しました]
一定時間、被ダメージが増加し命中・攻撃力を大きく増加させる
ふふふ、先ほど送った<召喚者>は不幸な身になったようですね。まぁ、敵を倒した後に意味があるチートを得ながら敵を倒す手段について考慮してなかった彼はちょっとオツムが足りない残念な<召喚者>でしたね。
しかし、根本的にあちらの人は肉体的なスペックが低いようです。次の<召喚者>からはチートへの割り当てを減らしてでも、こちらの平均以上の肉体スペックを持つ体を用意する必要がありそうですね。
別作品
謙虚なナイト:プロントさんの異世界転移
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