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魔剣使いと女の子6

 

 自分のとは違う空いたもう片方のベッドで眠る男。


「......ヤマト・クサナギ」


 ベッドの横に立つラクスは、その名前を口にしただけで胸がドクドクと高鳴るのを感じていた。

 ラクスは自惚れではなく、事実として幼い頃から魔法士としての才能があったし、それに見合うだけの努力を積んできたつもりだ。 だが、それ故に人付き合いの方はあまり上手くいかず、友人と呼べる者はおらず、ましてや周りはラクスの才能を目当てに擦り寄ってくる者ばかりで、正直自分以外の者に等関心はなかった。

 ツバキに言われたからではないが、自分に勝ったヤマトの事を少なからず興味を持ってるは認める......不思議とこうして誰かが近くにいて、落ちついた気分になれるのは初めてのことだ。 家族といる時ですら、ここまで安心した気持ちになれることはなかった......。

 昨日、あんな突拍子もない出会いしたくせに本当に不思議なものだ.......。


「......ホント、何なのよアンタ」


 ツンと、ヤマトの頬を指で軽く突くと、「う~ん」と可愛い寝言が返って来た。


「フフ、こうして寝顔だけ見ていると案外可愛い所あるじゃない」


 そうしてしばらくヤマトの頬をツンツンして弄っていると、


「..........う~~ん!」


「きゃっ!」


 寝ぼけたヤマトにツンツンしていた手を引っ張られ、ラクスを腕枕してお互い正面を向き合う形でベッドに連れ込まれた。 さらに、反対の手をラクスの背中に回し、片足もラクスを逃がすまいと絡められ、気づけばラクスはヤマトの抱き枕状態とかしていた。


「!!」


 突然のことに顔を真っ赤にする。 ほんの僅かの距離に、ラクスを抱き枕にして寝むるヤマトの顔がある。


「ちょ、放しなさいよ......」


 拘束から何とか脱出しようとするが、手足をしっかりと絡められていて抜け出すことが出来ない。 それどころか、ラクスが放れようとすると拘束を強め自分の近くへと引き戻されてしまう。

 結果、二人の距離は目と鼻の先まで近づいており、最早僅かに動くだけでも肌が触れそうな距離にまで接近してしまっていた。


「(ちょ、ちょっとどうすんのよこれ! こんな状態でこいつが目覚めたら、何を言われるか分かったもんじゃないじゃない!)」


 ヤマトの寝息が声をあげられないラクスの頬に伝わることで、ラクスの顔は緊張と興奮でさらに赤くなり冷静な思考を奪っていく。


「(それにしても、男の人ってこんなにがっちりしているものなのね......私が知ってる魔法士は皆、ヒョロヒョロでこんなに筋肉もついていなかったのに.....それだけこいつが鍛えてるってことなのかな......)」


 肌が触れ合うくらい密着した距離で、ラクスはヤマトの胸や腕に自然と触れている。

 それは、積み重ねられた鍛錬が刻み込まれた鋼の肉体であり、まさに戦う戦士の身体であった。 大抵の魔法士は、身体など鍛えずとも魔法で相手を近づかせなければいいと考える。 

 魔法戦が主流であることの世界ではそれは決して間違った答えではないと思うし、現にラクスもそういう戦い方を得意としている。 近接戦の出来る魔法士も今では増えてきているがそれでもやはりというところはある......。

 だが、魔剣があるとはいえまったく魔法の使えないヤマトは、必然的に魔剣の届く近接戦に戦いの場が絞られる。 魔力障壁も張れないヤマトにとって、例え小さな魔法であっても受ける壁がない以上大きなダメージになりうる......それでも戦う事を諦めなかったヤマトは、身体を鍛え武を鍛えることでどんな攻撃にも対応出来るだけの近接戦闘能力を手に入れた。

 この身体は、それを証明してくれる確かな証拠であり、その強さをラクスは実際に目の当たりにしている。

 それこそヤマトの強さなのだと思うが、ツバキはラクスとヤマトに技量的な差はあってないようなものだと言った。

 だが、あれほど手も足もでずに負けたラクスとしては、それに納得出来るわけがなかった.......。


「一体、どれだけやればここまでの強さが身に付くのよ......」


「そうだなぁ、基礎も含め10年も鍛えれば俺と同じことは出来るようになると思うぞ」


「えっ!」

「ん?」


「「・・・・・」」


 無言で見つめ合う二人。

 情況が理解出来たのかラクスは顔を真っ赤にして、


「何で起きてんのよアンタ!」


 ヤマトを突き飛ばして拘束から脱出すると、反対側の壁まで遠ざかってヤマトから距離をとる。

 ヤマトはベッドからゆっくりと起き上がると、ラクスと向かい合うようにベッドの淵に腰を下ろす。


「そんなに逃げなくても襲ったりしないって......」

 

「今までの行動でよくもそんなこと言えるわねアンタ」


「あぁ...俺昔から寝てる時に側に誰かいると抱きつく癖があるんだよ....だからまぁ、襲うつもりはなかったんだけど迷惑かけたよな、ごめんな」


「.....フン、まぁ、ちょっとビックリはしたけど何もなかったのだから今回は許してあげるわ。 今後、アンタが寝てる時に近づかないようにもするわ。 それより、学園長から聞いたわよ.....体辛いならまで寝てたほうがいいんじゃないの?」


「さっきまで寝てたおかげで、もう大分楽になったから寝てなくても平気さ。 今回は魔剣を使ってた時間も短かったからな」


「何時もはもっと酷いの?」


「魔剣を使ってた時間によるかな。 今日のは魔剣に魔力が溜まってなかったからあれだけど、魔力がちゃんと溜まった状態なら今日くらいの時間魔剣を使っても何ともならないかな。 ただ、今日のでウロボロスの魔力が空になっちゃったからしばらくは使えないけどね」


 ヤマトのこの症状は魔法士が魔力不足になった時の状態に近い、もっとも魔力をまったく持たないことで症状が普通の魔法士よりも悪化してしまっている。 これに魔剣を使った反動による疲労もプラスされるので、ヤマトの場合酷い時は数日寝込むこともあるが命の危険がある程ではない。


「で、俺に聞きたいことがあるって顔してるけど、ツバキさんに何言われたの?」


「.......学園長が、私とアンタに力の差はあってないようなものだって......私とアンタで違うのは覚悟の違いなんですって。 正直私は、その意味が分からないわ。 だって、あの試合私は手を抜いて何かいない、それなのに私はアンタに手も足もでずに負けたのよ。 それだけ私とアンタには差があるってことじゃないの? 違うの?」


「ツバキさんがそう言ったのなら、それは間違いじゃないよ。 現に、俺は魔力もなければ魔法も使えない、多少体術はかじっているけどそれだって自分の身を守る為にやっていることであって、誰かの為にってわけじゃない。 俺の強さの半分以上は魔剣があってのもので、君と俺じゃ自力の差がありすぎる。 はっきり言って俺は、魔法士としては欠陥品もいい所だ。 でも、俺には自分の身を犠牲にしてもやり遂げたいことがあるんだ。 その為に俺は、誰よりも強くなりたいと思ってる......多分、ツバキさんが言いたいのはそこら辺の思いのことなんじゃないかな」


「学園長も同じことを言ってた......そこまでして、アンタがやり遂げたいことって何なの?」


「......まぁ、隠すようなことでもないか。 俺の夢と言うか目的に近いかな.......俺の目的は魔昌獣の排除、正確には魔昌獣の始祖と言われる最初の4体”四凶獣”を倒すことさ」


 ”四凶獣” 

 それは、がルガンドアの悲劇により誕生した最初4体の魔昌獣のことだ。

 四凶獣は最初に生まれた個体であり、他の魔昌獣とは異なる力を持っている。 それは、喰らった相手の魔力を素に新たなる魔昌獣を生み出すことの出来る強力極まりないものだ。

 かつてはまだ、魔昌獣に対抗するだけの魔法士も、それを倒す為の武器を作る魔科学も発展していなかった時代であり、この強力な能力を持って幾つかの国は滅ぼされるなど四凶獣によって世界的に大打撃を負わされた。

 現在の魔昌獣の被害があるのも四凶獣のせいだと言われ、四凶獣を倒せば魔昌獣の増加もなくなり魔昌獣の殲滅も可能になるのではと言われているが、ここ数十年は四凶獣の姿を見たものはおらず何処に生息しているのかも不明だ。 ただ、魔昌獣の危険指定ランクで言えば最高ランクであることに変わりはなく、四凶獣が出現した場合、捕食されて新たな魔昌獣を生み出させないよう速やかな避難が義務付けられている。


「ツバキさんから聞いたなら知ってると思うけど、俺とツバキさんの里はガルガントアから生き延びた人で作られた里で、俺やツバキさんはその末裔にあたる一族だ。  この四凶獣は元々実験の失敗で変質したとは言え、かつての同胞だった人達だ......世界の脅威を生み出してしまったからこそ、それを止めるのも一族の勤めなのさ」


 言い換えればそれは、魔昌獣になってしまったとは言え、現在も世界を危険にさらしている元凶は自分達にあるとも言える。 最も、過去の出来事を知らない者からすればそんな事どうでもいいことなのだろうが、ヤマト達一族の者にとってはそうではない。

 魔科学の研究を捨て、魔法を捨てて魔力をも失いながらも、魔昌獣と戦う術として魔剣を作り出し魔剣に適応する人材を育成する為に魔法学園の本を作ったのも実はヤマト達の先祖なのだ。

 ただし、時代が進むにつれ魔法も魔科学も目覚しい発展を遂げたことで、使用者を選ぶ使い勝手の悪い魔剣の存在は徐々に表舞台から遠ざかって行ってしまい、現在では魔法士の全てがARSを使っている。


「魔剣は所有者を選ぶから、里の者とは言えそう簡単に扱えるものじゃない。 俺は偶々魔剣に適応したこともあって、小さい頃からいろんな戦う術を教えられてきた。 俺の力は誰かを救う為に得たものじゃない、俺の力は自分を犠牲にしてでも誰かの許しを得らんとする為のものだ。 君に俺と同じ気持ちを持てとは言わないけど、今の自分に悩んでいる君では決して強くはなれないと思う」


「......私は....私を利用しようとする奴らが嫌い。 他の人よりも魔法に適正があると分かっただけで、それまで私のことを見向きもしなかった奴等が作り笑いを浮かべて私に近寄ってきだすし、あげく両親や兄姉まで私を使える道具だと見始めた。 私はただ魔法が好きなだけだったのに、王族に生まれたというだけでいらぬ義務を背負わされることになった...だから...」


「だから王族を捨てて自由に生きたいとか? 君が君らしくいられるなら、いいんじゃないかなそれで」


「そんな簡単なことじゃないのよこれは。 アンタは一族の、私は国の思いを背負っているのよ、それが決して望んで背負わされたものでなくても背負ってしまったからには、その置き場所はちゃんと決めてあげないとダメ。 何処にでも捨てていいような覚悟じゃないでしょ、私もアンタも」


 理由は違えど二人はせおっているものがある。

 方や一族の思いを方やそこに住む国の思いを、二人は背負わされている。


「だったら、お互いその背負った重荷の置き場所を見つければいいんじゃないかな.....一人じゃ思いつかないことも、二人いれば思いつくかもしれないだろ。 ツバキさんも、それが狙いで俺達を一緒の部屋にさせたみたいだし」 


 部屋といい彼女といい、一体ツバキさんは何処まで計算していたのやら......。


「学園長が言ってたけど、私とアンタは似ている。 お互い立場も考えていることも違うけれど、その背中にはいろんな思いを乗せられているわ。 今ならそれが分かる気がするわ」


「いい顔してる。 多分、ツバキさんが伝えたかったのもそんな気持ちの部分だったんじゃないのかな。 これから君は強くなるよ。 それこそ、俺よりもずっと強くね」


「そうでありたいわね。 だって、私負けっぱなしは好きじゃないもの」


 そう言って自然と笑顔で笑い合う二人。

 お互いの事をほんの少し話しただけなのに、二人に間には通じ合う思いが出来ていた。

 これを仕組んだ者は願う、「何時か、この通じ合う思いが男女のものに変われば」と.......。


「これからよろしくラクス」


「ええ、仲良くやりましょヤマト」


 そして、


「「二人で強くなろう(なりましょ)」」


 更なる高みへと思いを馳せるのだった。


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