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魔剣使いと女の子5

 ラクス・スカーレットレインは王族ではあるが、側室のそれも第三王女ということもあって生まれた時には周囲からの期待も高いものではなかった。

 他の兄姉達は幼い頃から将来国に携わる為の教育を受けていたが、ラクスだけは頭よりも体を動かしているのが好きで国の魔法師団に混じっては魔法の練習ばかりしていた。

 元来、王族や貴族は政治に関わることが多く魔法や個人の修練は二の次とされ勉学の方が優先されていた。 そこにあって当然ラクスの行動は度々問題視され、5歳の頃に受けた魔力検査でその評価は一遍する。

 魔法適正は火属性のみであったが、魔力保有量は最高のSランク評価を記録したのだ。

 Sランクと言えば、現在確認されているだけでもその殆どが国の筆頭魔法士を勤めている猛者ばかりで、それが分かった瞬間周囲のラクスへの評価は一遍して皆ラクスに媚びを売って擦り寄ってくるようになった。

 魔法士にとって魔力は文字通り生命線であり、己の強さを証明する確固たるものだ。

 魔力が高い......それだけで、高度な魔法を使うことが出来、長い時間魔法を使うことが出来る。 無論、魔法の習得は簡単なものではなく厳しい修練を積まなければ習得できないものなのだが、ラクスは小さい時から魔法師団に出入りして魔法に触れていた為、魔法の習熟にも才を見せた。

 さらにラクスは、成長して年を重ねるにつれその容姿にも磨きがかかっていったことで、ラクスに取り入ろうと欲丸出しで擦り寄ってくる者は日に日にその数を増していった。

 

 将来は国に携わるものだと決め付けられ、両親や兄姉からも将来はラクスがいるから国は安泰だという始末....。

 正直嫌気が差していた。

 毎日毎日、「貴女は将来国を背負う人だ」と言われ過度な期待を掛けられる。

 彼女はただ、魔法が好きなだけな女の子だったはずが、気づけばその小さな体で国を背負うことを強くあらねばならないことを義務付けられていた。

 そんな言いえない気持ちが溜まっていたのだろう・・・。


 ある日、父である国王からラクスに婚約の話が持ち上がった。

 相手は、ラクスと同い年の国でも有数の大貴族であるコンターニ公爵家の三男......所謂政略結婚という奴だ。

 頭も顔もいいが魔法のほうはからっきし、ラクスとは正反対の典型的な貴族.......父の言いつけで一度会って見はしたものの、話の内容は自慢話ばかりで......あげく、ラクスの体を嫌らしい目で見てニヤニヤとするものだからつい口より先に手が出てそいつをぶっ飛ばしてしまったからさぁ大変.....。

 元々ラクスは熱くなりやすい性格をしていた為、このことでいろいろと文句を言ってきた者を次から次へと返り討ちにしてしまったのだ。

 当然、身内からもいろいろお叱りを受けたが、溜まりに溜まった不満が爆発したラクスを止めることが出来ず、しまいには家を出て行くと言い出す始末.......ラクスの力を何としても置いておきたい国はラクスをアルテナ魔法学園に通わせることにした。

 そこでラクスは改めて気づかされた.......国が必要としているのは私の魔法の才能だけ、私自身には家族ですらちゃんと見てはくれないのだと......。

 それからのラクスは、まるで心を閉ざしたかのように人を寄せ付けなくなった。

 ただそれでも、魔法に関しては紳士に向き合い己を高めることをやめなかった。 そのおかげで、学園でも上位のランクに入る魔法士として改めてその才能を周囲に見せ付けていたのだが・・・・・・


「どうして....どうして私があんな奴に負けたのよ...。 魔法も禄に使えないあんな奴に何で私が.......」


「それは覚悟の違いだろうな」


「.....学園長」


 ラクスを追って現れたツバキは、諭すようにラクスに語りかける。


「ラクス君、確かに君には才能もあるしそれに見合うだけの努力をしていることもあって同世代でも上位に入る強さを持っているよ。 ただし君には、己を犠牲にしてでも誰かを守りたいという死の覚悟が足りない。 君とヤマトの違いはそれだけさ」


「死の覚悟って....そんなの誰だって死にたいと思って生きてる奴何ているはずがありません」


「そうだろうね。 普通そんな事を常に考えて生きてる者何ていやしないだろう、でも私達は魔法士だ、魔法士は時に魔昌獣と命を掛けて戦わなければならない。 そこで戦っている魔法士の後ろには、たくさんの民が生活をしている私達魔法士はそんな人々を守る為に存在し、決して逃げることは許されない死の戦場に立っているのだ。 君はそれを自覚したことがあるかな? ないだろ。 あれば、君がヤマトにあんなに簡単に負けることはなかっただろうな」


「......学園長が言いいたいことが分かりません。 仮に、私にその死の覚悟がなかったとして、どうしてそれがあいつとの差になるんですか?」


「では一つ昔話をしよう。 私とヤマトはある里の出だと話たと思うが、その里はかつて人類が最も繁栄していた場所であり、人類が最大の過ちを犯してしまった場所でもある。 その里の名はガルガントア......そう、かつて魔科学の最先端の地と呼ばれ魔昌獣を世に放った禁断の土地だ」


「なっ! じゃぁ、学園長とあいつは......」


「その末裔だな。 最も、あの事件で生き延びた里の者は魔科学の研究を捨てて、昔ながらの生活をすること選んでしまってからは一切の魔法を捨ててしまったがな。 おかげで末裔である私達は魔力を持たないのだよ」


 ガルガントア.......その都市の名を知らぬ者はいないだろう。

 今から凡そ100年前、まだ魔法と科学がそれ程発展していなかったその時代において、ガルガントアは設備も研究員も最先端を誇る者が集まって魔法と科学の実験が行われていた。 

 当時行われていた研究は、魔法の使用と同時に失われる魔力を瞬時に回復させる実験.....つまりは魔素を効率良く体に取り込む実験であった。

 空気中の魔素を特殊な道具で集め、それを体に摂取させることで自然吸収よりも多くの魔素を一度に体に取り込み魔力がどの程度早く回復するかを確かめる....そんな実験であった。

 それが立証されれば、魔科学の研究が一歩先へと進んでいくはずだった・・・。

 結果から言うと、魔素を大量に取り込むことで失った魔力を通常よりも数段早く回復させることが分かった。 それを元に、魔素を吸収する道具から魔素を体に摂取させるのではなく、道具そのものを体の中に埋め込み、さらに体への魔素の吸収を高める段階へと実験は移っていった。 


 事件はそこで起きた。


 実験開始から数日、魔素の吸収実験は順調に進み結果も上々のものだった......そんな時、体に魔素を吸収させる道具を埋め込んだ被験者の全部で4人その全員に異変が起きた。

 突如理性を失った獣のように暴れ出した。 原因は、過剰な魔素を取り込み過ぎて魔力の変換速度を超えた明らかな暴走。暴走した被験者は、新たな魔力を求め研究員を襲い始め襲われた研究員は、体の魔力を吸い尽くされ廃人とかしていった。 後に分かった事だが、魔素には体の組織を変質させる毒性があることが分かった。 微量であれば魔力が魔素を分解し魔力へと変換してくれる為問題なかったのだが、体内の魔力保有量を越える魔素を吸収すると、魔力が魔素を変換しきれず体が魔素の毒にやられ変質を起こす。 

 暴走を起こした者は、文字通り姿形を異型の物へと変え、人外の力に芽生え、飢えた獣のように魔力を求めて人を襲う。 彼等に人としての意思はなく、あるのはただ魔力を欲する欲求のみ.....。

 当時の者に、この異型の存在に抗う力はなく逃げることが精一杯であった。

 後にこの異型の存在は【魔昌獣】と呼ばれ、その数を増やし人類に牙を剥いていくことになる。 

 これが歴史上で語られる”ガルガンドアの悲劇”である。


「魔昌獣を世に放ってしまった我々一族には世に言い得ない責任がある。 それは決して、これまで魔昌獣によって死んで行った者に償えるものでもない......だからと言って、自分達には関係ないかと言えばそうではない。 私達には私達にしか出来ないことで、世に償いをしようとしている。 いざとなれば世界の為に死ぬ覚悟も当然出来ているし、その為の戦う力ももって入る。 まぁ、君とヤマトの違いはそれだけではないがね」


「私とアイツでは戦い方が異なります......ましてやアイツは、魔剣何てチートな武器を持ってるし.....」


「魔剣か.....確かにあれは使いこなせば強力な武器であることに間違いはないが、ヤマトとてあれを完全に使いこなしているとは言えないぞ。 むしろ今も、使用の反動で部屋で悶えているだろうから、今ならヤマトを襲うことも出来るぞ? 無論、そっちの意味ではなくあっちの方のことだがな」


 そう言ってニヤリと笑って見せるツバキ。


「....私にそんなつもりはありません。 と言うか、何で私があんな奴何かと......」


「おや? 王族であることを嫌う君とその身に一族の業を背負うヤマト、中々にお似合いだと思ったんだがな.....」


「例え私が家族を嫌っていたとしても、アイツとはまったく関係ないことです」


「まぁいいさ。 結局の所、私が君に言いたいのはその負けた悔しさを晴らしたければヤマトと一緒にいることだ。 私の目から見てもあれは強い。 それは、魔剣を持っているからとか体術や身体能力が優れているからじゃない、そんなものは努力次第で何とでもなるからな。 問題はここだ」


 そう言ってツバキは自分の胸をトントンと叩いて、


「さっきも言ったが、君とヤマトに実際は実力差何て殆どあってない。 ただし、ヤマトには己の生死を掛けてでもやり遂げたい思いがある......だからこそヤマトは誰よりも無理をするし、誰よりも強くあろうとする。 神・技・体、これら三つの中で唯一目に見えないのが神・・・心の部分であり、これが強くなければ他の二つが幾ら良くてもそれは見てくれだけの強さでしかない。 君はヤマトの側でそれを学ぶべきだ。 そうすれば君は、今よりももっともっと強くなれるだろうし、君が抱えている悩みの答えにも辿りつけるだろう」


「.......随分と私の事を気に掛けているんですね.....」


「当然だな。 私はこれでもアルテナ魔法学園の学園長なのだぞ、そこには優秀な魔法士を育て導く責務があるのだ......と、言うのは建前で、ヤマトは放っておくと無茶ばかりして危ない子だから側で支えてやってくれる者が必要なのだ、それにヤマトの常識は里の古い習慣のせいでここでは問題になるだろうからそれを教えてやる者も必要もある。 その点君なら、王族として常識にも強く、ヤマトが無茶してもあれを止めるだけの実力も持っているから安心してヤマトの側においておける。 まさに一石二鳥というわけだ」


「勝手な言い分ですね。 私がそれを受けると思っているんですか?」


「強制するつもりはないさ。 ただ、今のモヤモヤした気持ちのままでいるより、もう一度ヤマトに会ってみた方が君の気持ちもスッキリすると思うよ。 今のヤマトこそ本当のあの子だからね」


「・・・・・」


「まぁ、私は君に道を作ってやれるが、最後に決めるのは君だ好きにするといいさ。 では、私は仕事があるのでこれで失礼するよ。 ヤマトのいる部屋は......言わなくても分かるか.....」


 ツバキはそれだけ言うと静かにその場を離れて行った。


「.......私にどうしろっていうのよ......はぁ、悩んでいても私らしくないわね......こうなったら、自分の感情に素直に従ってやるわ」

 

 覚悟を決めたかのように、ラクスはその足をある場所に向けて進めていった。


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