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魔剣使いと女の子4

 その瞬間、ヤマトの刀を黒い霧が包み込む。 それに呼応するかのように、闘技場内に存在する魔力がヤマトを中心に渦を巻くように暴れ出す。


「何、この魔力の流れは一体......」


 次第に黒い霧は刀へと吸収され、その下には全てが黒く覆われた漆黒の刀が.....。


「全てを破壊する漆黒の魔剣ウロボロス。 どうだかっこいいだろ」


「......魔剣って、AWSよりも前の骨董品の武器じゃないの......アンタ本気でそんなナマクラで私の魔力障壁を如何にか出来ると思ってるの....」


「酷い言われようだなおい.....」

【全くです。 我々魔剣は所有者を選び少々扱いに困るだけで、性能は最新型にも劣らないと言うのに】


 ARSが作られる以前、魔剣は魔昌獣に唯一対抗しうる武器だった。

 ただ、魔剣の能力は確かに優れたものがあったが、クセのある能力を扱える者が極端に少なかったため魔剣の使用者は限られた者に限定されARSの登場と共に自然と表舞台から消えていってしまった。


「それに、魔剣を扱うには膨大な魔力を消費する必要があるはずよ......魔力が0だって言うアンタがどうして魔剣を扱えているよ....」


 魔剣が最も扱いにくい理由......それはいたって単純な理由で魔剣を使用するのに膨大な魔力を消費することにある。

 それこそ、並みの魔力保有量の魔法しでは魔剣を持っただけで魔力欠乏を起こして倒れてしまう為、魔力保有量の高い一流の魔法士でしか扱うことが出来なかった位に魔剣の消費魔力は高い。

 では何故魔力0のヤマトが魔剣を扱えているのかと言えば、ヤマトが魔剣ウロボロスに認められたこともあるが、ヤマトの特異な体質によるところが大きく関わっている。 


「俺は生まれつき特殊な体質何だよ......体内に保有している魔力がない代わりに、空気中の魔力の元となる魔素を体に取り込むことが出来る。 そんで、魔剣ウロボロスと契約している俺は魔剣を自分の体内に保管することが出来るから、後はウロボロスが勝手に俺が吸い上げた魔素を魔力に変換して魔剣に蓄えておいてくれるから、俺はその魔力を使って魔剣を自由に扱えるってだけさ。 最も、俺が吸収出来る魔素は極端に少ないから魔力を溜めるのに物凄い時間が掛かるし、魔力の少ない状態で魔剣を使うとしばらくまともに魔剣を扱えなくなるから、使い勝手としたら良くないかもな」  


 実は、ヤマトが言った事は魔力を持つ者なら誰しもが無意識に行っている事だ。 体から魔力が放出されると、失った魔力を補おうと空気中の魔素を知らず知らずのうちに体は吸収してしまっているのだが、魔素と言うのは、魔力に触れた瞬間魔力へと分解され時間を掛けて魔力へと変質する性質を持っている。 本来ならば魔力を持たないヤマトには起こらない現象なのだが、ヤマトの生まれ育った里では魔素を体に取り込む術を小さな時から教え込まれる為ヤマトは空気中の魔素を感じることが出来るし魔力の動きも敏感に感じ取ることが出来る。 一般的には知られていない知識と技術である為、殆どの者は魔力は体を休ませることで自然に回復していくものだと認識している。 それも間違いではないが、正しくもない。

 また、魔素は魔力の元なる力ではあるが過剰に取り込むと毒になる。 人間の身体は常に危険を感じ取り無理のない範囲で活動するように出来ている為、例え魔力を回復する為に魔素を体内に入れたとしても過剰に入れすぎてしまうことはないが、動物や植物は別で生命を維持する為に魔素を体内に取り込み過ぎてしまうことがある。

 そうして生まれるのが魔昌獣である。

 魔素に含まれる成分は、体の組織を作り変える効果を持っている。 微量ならば問題ないが、これが大量となると自我が崩壊し別の生命体へと姿形を変えられてしまう。 

 魔素を体に入れるということは、それだけリスクを伴うということでもあるのだが、ヤマトの場合魔剣と契約することで魔素の危険を少なくしている上に魔剣という戦う術も得ている。

 毒も使い方を変えれば薬になるとは正にこの事を言うのだろう。



「まぁ、最新型に骨董品の実力とやらを見せてやろうじゃないか。 時間制限もあることだしな」

【了解です。 存分に力をお振るいください】


 漆黒の魔剣ウロボロス手にヤマトが前に出る。


「その骨董品の魔剣ごと灰にしてあげるわ!」


 ラクスはレーヴァテインを振り炎でヤマトの動きを封じに掛かる。 その隙に反対の手で魔法を生成し空へと打ち上げる。 ヤマトの動きに惑わされぎみだが、ARSを操りながら、魔法を同時発動させるなど高度な魔法制御能力と圧倒的な魔力保有量がなければ出来ない芸当だ。 それをしてみせるラクスの実力も実は相当なものだ。

 

「......破壊しろウロボロス」


 ヤマトがレーヴァテインの炎にウロボロスをぶつけると、「パリン」っと、まるでガラスが割れるかのように音が響き炎が砕け散った.......比喩ではなく、炎は砕け散って消滅した。


「なっ!」


「ウロボロスは二つの顔を持つ魔剣、その一つがこの|破壊≪ブレイク≫モードだ。 この状態のウロボロスは、触れたものを文字通り破壊する......それが例えどんな強力な魔法であっても、ウロボロスが触れたものは破壊され消滅する」


 頭上からの魔法は歩防でかわし、レーヴァテインによる炎はウロボロスで破壊し突き進む。


「くっ、この!」


 ウロボロスの届く距離まで近づかれたラクスは、魔法の発動を破棄して両手でレーヴァテインを握り大剣を振るう。 大剣に見合った重く鋭い攻撃だが、それも当たらなければ意味がない.......近接戦では、歩防と身体能力で上回るヤマトに圧倒的な分がある。

 ヤマトは魔力障壁を張れないので防御面では他の魔法士に劣るが、それを体術に技と鍛え上げた身体能力でカバーしている。

 一方でラクスはレーヴァテインと魔法による遠距離戦を得意としている為、近接戦に持ち込まれるとどうしても劣ってしまう。 元来、魔法士は魔法での遠距離戦を得意とする者が多かったが、ARSの登場により自分の個性にあった戦闘スタイルを編み出し近接戦を得意とする魔法士も増えてきていたが、ラクスは良くも悪くも魔法士であった。

 剣の太刀筋を見てもそこまで悪いものではなく、基礎となる剣術のスタイルがしっかりと叩き込まれていたことを考えれば、王族としていろいろと教え込まれていたのだろう。

 ただそれは、あくまで齧った程度の物で、近接戦を主戦とするヤマトにとっては何ら脅威になりえない。


「この、この、この! 避けてばっかりいないで少しは打ち合ったらどうなのよ!」


「お前の剣が壊れてもいいならそうするぞ。 これでも一応は、気を使ってあんまり壊さないようにしてるんだからな」


 そう言われるとラクスは何も言い返せない。

 近接戦が得意ではない以上手加減されているのを分かっているからこそ、こうして挑発めいた言葉で相手の隙を作ろうとしているのだが、如何せん相手の魔剣の能力が凶悪過ぎる。

 触れた物全てを、否応無しに破壊してしまうなどチートにも程がある。

 思わず卑怯者と叫びたくなるが、戦いである以上愚痴を言っても仕方がない。 そんな暇があるなら、一つでも多く手数を出すべきなのだ。


「そろそろこっちも時間ギリギリだからな......決めさせて貰うぞ」


「そう簡単に終わらせて何かやらないわよ!」


 ラクスの大振りのレーヴァテインによる一撃。


「クサナギ流『|滅流掌≪めつりゅうしょう≫』!」


 それをヤマトは、支点となる部分に掌を打ち当て受け流した。

 それにより、大きく体勢を崩されたラクスに隙が出来る。


「破壊の一閃!」


 ウロボロスによる破壊の一撃が、ラクスの魔力障壁を物の見事に破壊して見せた。

 

「どうだ? 骨董品も捨てたもんじゃないだろ?」


「たかが魔力障壁を破壊したくらいで、勝った気になってんじゃないわよ!」


「いいや、この試合はもう俺の勝ちだよ。 何故なら......」


 ラクスの首元には刀が突きつけられていた。

 それも、何時の間に戻したのか漆黒の刀ではなく銀色に光る通常の刀の方でだ。


「降参してくれるか? 出来れば女の子を傷つけたくないだけど?」


「......っく.....分かったわよ降参すればいいんでしょ.....降参すれば...」


 そこでお互い武器を下に下ろす。


「そこまで! 勝者ヤマト・クサナギ!」


 審判であるツバキが、ヤマトの勝ちを宣言する。

 ヤマトはフゥっと一息吐いて刀を鞘に収める。


「っつ!」


 ラクスもまたARSを解除すると、ヤマトを一睨みして無言のまま闘技場を出て行ってしまった。


「何か怒らせるようなことしたかな俺?」


「まだまだ女心が分かってないなヤマトは」


 ヤマトが振り返ると、闘技場に下りてきていたツバキが笑みを浮かべていた。


「あの子はあれで学園でも上位の魔法士なのだぞ、それが昨日突然にやって来て裸まで見られた相手に模擬戦とはいえ負けたのだ.....その気持ちが分からんお前ではないだろう。 まぁ、あれのフォローは私がしておいてやるからお前は少し休め。 辛いのだろ?」


「......少しね。 今回は時間制限もあったからいいけど、やっぱしまだ完全には体に馴染んでないみたい」


「当然だな。 本来お前は魔剣の担い手ではない所を、あの男が無理やりねじ変えたのだからな.....今後もどんな影響が体に出るかは分かったものじゃない。 出来れば、長時間の魔剣使用は控えることだな」


「そうしたいのは山々だけど、ここでそれが出来るかどうか......」


「なぁに、心配しなくても周りがお前を助けてくれるだろうさ.......あれもお前に気があるようだしな」


「ツバキさん?」


「何、こっちの話だ。 それよりお前は部屋に戻ってさっさと休め。 途中で倒れられても面倒だし、魔剣の魔力を回復させる必要もあるだろ」


「じゃぁ、お言葉に甘えてそうさせてもらうよ」


 疲れた様子のヤマトは、重い体を引きずりながら闘技場を出て行った。


「たったあれだけの使用時間であそこまで疲労するとはな......強力な分やはり反動もそれなりに大きいか....やれやれだな、まったく」


 使用者の魔力を大量に消費する魔剣を、ヤマトは体と一体化させることで適正を高め使用しているがそれは、一見デメリットがなくなったように見えて使用者であるヤマトに相当な負荷を強いている。

 その証拠ヤマトは、たったあれだけの使用時間でかなりの疲労を見せている。 それはヤマトが魔剣を使う際に体に入ってくる魔素全てをからにして、体の維持も全て捨てて魔剣に力を注いでいるからであり、普通の者なら倒れていてもおかしくない所を、強靭な精神力と体でヤマトは持ちこたえているに過ぎないからだ。

 魔剣を使う制約とでも言い換えればいいのだろうか.....兎に角、魔剣使用後は体に相当な負担が来ていることは事実であり、出来れば使わせたくはないとツバキも思っているが、


「ここにいる間だけでも、ヤマトには普通の生活をさせてやりたいものだな。 その為にも、ヤマトの横に立てる者が必要になってくるかな.......さて、果たしてあの子はその一人になれのかな」

評価してくれたらうれしいです。

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