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魔剣使いと女の子2

「ハッハッハ、いや~来たそうそうやってくれるねぇヤマト。 まったくお前は私の期待を裏切らない奴だよ」


 椅子に腰掛け楽しそうに笑う黒髪ロングの女性。


「笑いごとじゃないですよ学園長! こっちは裸を見られてるんですからね!」


 学園長と呼ばれた女性の正面には、昨日ヤマトに裸を見られた少女とその横で苦笑いを浮かべ頬を痒くヤマトの姿が。

 場所は学園長室。 二人が呼ばれた理由は当然昨日の騒ぎが原因である。


「理由はどうあれ、王族である私の裸を見たんだからそれなりの責任を取って貰うわよ!」


「王族? 君って王家の人なの?」


「おや? ヤマトは知らなかったかい? 彼女はラクス・スカーレットレイン。 この学園のあるユーラリア王国の第三王女様だぞ」


「ほぇ~、どうりでこんなに可愛いわけだ」


「ちょ、またそんなことをアンタは.....」


「ハッハッハ、ヤマトには女性に嘘をつくなと教えているから今のはヤマトの本心だよ。 なぁ、ヤマト?」


「うん」


「だからってこんな所で言わなくても......と言うか、さっきから気になってたんですけど、学園長はこいつのこと知ってるんですか?」


「知ってるもなにも、こいつは私の息子だ」


「はい? えっ? 息子?」


「あぁ、君達生徒にはツバキとしか名乗っていないかったね......私のフルネームはツバキ・クサナギと言うんだ。 最も、里を出る際にクサナギの名を捨ててしまっているから、そっちの方は名乗っていないのだがな」


「・・・」


「君の言いたい事は分かるぞ。 こんな大きな子供がいるにしては私は若過ぎると言いたいのだろうが、ヤマトは私が14の時に産んだ子供だ、私やヤマトのいた里は外界とは違って少々古臭い風習が残っている地でな.....成人を迎えると夫となる者の下に嫁いで子供を作るのだよ」


 この世界では、一般的に学園を卒業する18歳が成人として認めれる年齢だ。 ただしそれは、婚姻関係を結ぶのに法的に必要な年齢がというだけであり、少なからず成人前に関係を持って子供が出来てしまっている者もいる。 勿論、王族やそれに連なる貴族筋などは、男女とも初めてを重んじる傾向が強く例え恋人や婚約関係にあったとしても成人するまでに関係を持つ事を禁じてはいる。

 ただ、それを差し引いてもツバキの容姿は、とてもヤマトのような大きな子供を持つ親には到底思えない、20代だと言われても信じてしまう位には若く見える為とても子供がいるとは思えない。


「まぁ私はヤマトが7つの頃には里を捨てて外に出て来てしまっているから、ヤマトが未だに私の事を母親だと思っているかはどうかは知らんが、血縁上は紛れも無く親子であると断言しよう」


 ラクスが隣のヤマトを疑うような目で見ると、ヤマトは首をコクコクと縦に振って頷いているので間違いはないだろう。

「......はぁ、それはそれでいいとして、結局の所こいつが私の裸を見たことに変わりはありません。 仮にも、嫁入り前の王族の裸を見たのですから当然然るべき罰が必要です!」


「それ何だけどね.....さっきも言ったように、私とヤマトがいた里は外界とは生活もルールもまったく異なる環境なのだよ。 こっちでは個々に部屋が与えられ、風呂も当然男女で別々が当たり前なのかもしれないけど.....」


「里には風呂と呼べる物が一つしかない。 その一つを男女で分けてたら全員が入り終わるまでに時間が掛かりすぎる.....だから里では、例え女の人が入っていても普通に一緒に入ってたし女の人の裸も普通に見てる。 けど、生活して行く上でそれは必要な事だから皆受け入れてる事で、いちいち女の人の裸に興奮したりする奴は里にはいなかった。 だから...」


「だから私の裸を見ても興奮してないから問題なかったとで言いたいの? お生憎様、確かにアンタの住んでいた所はいろいろとルールの違う所があるのかもしれないけど、そんなもの私の裸を見てしまった後ではどうでもいいことよ。 問題は、アンタが私の裸を見たってことなのよ! そもそも、なんで男のアンタが女の私と同部屋扱いになってるのよ、そこからして可笑しいでしょ!」


「あぁ、それ何だけどね....現在寮の相部屋が全部埋まっている状態で、空いている部屋がラクス君の所しかなかったんだよ.....ほら、寮は基本相部屋だけどラクス君はこないだルームメイトを追い出しちゃったでしょ? あのせいで、他の子の部屋の移動もしないと行けなくなって他の部屋は全部埋まっちゃったんだよ」


 基本的に、アルテナ魔法学園の寮は二人一組の相部屋である。

 しかも、部屋の数は入学者に合わせギリギリの数しか用意されていないので、基本的には部屋変えや一人部屋も認められてはいない。  では何故、ラクスの部屋は一人部屋だったかと言えば、答えは簡単で彼女が相部屋を嫌いもう一人の子を追い出してしまったからだ。 ラクスには、『|災厄の姫≪カラミティープリンセス≫』や『|炎熱姫≪レッドプリンセス≫』等彼女の性格を揶揄する二つ名が存在す。 普段のラクスは王族である事を鼻に掛けたり傲慢な態度を取ったりはしないが、如何せん熱くなりやすく口より先に手が出てしまう性格をしている。 その時も小さな言い争いがきっかけで、ついカッとなって魔法を発動させてその子を追い出してしまったのだ。

 冷静になって謝ろうとしたが、相手の子がすっかり怯えきってしまいまともに話し合える状態ではなくなってしまっていた。 そこで、特別措置として部屋変えが行われたのがちょうどヤマトが訪れる少し前のこどで、本来ヤマトが入るべきはずだった部屋も埋まってしまっていて空いている部屋がラクスの部屋しかなかったというわけだ。

 当然ラクスも、それについては自分が絡んだことなので承知している。

 だがしかし、男女で同じ部屋に住むというのにはやはり問題がある。


「.....それについては承知しているつもりです。 ですが、だからと言って年頃の男女が同じ部屋で生活するのは可笑しいと思います。 ましてや、事故とは言え私の裸を見た男などと....」


「うんまぁ、私も女だからラクス君の言うことも分かるよ。 だけど、今から部屋割りを変更することも出来ないのも分かるよね?」


「....はい」


「そこでだ、ラクス君に一つチャンスを与えてあげようじゃないか」


「は? チャンスですか?」


「そうだよ。 私が出す試練をクリアすれば、一つだけ君の願いを叶えてあげよう。 試練の内容はヤマトと一対一での模擬戦だ。 ラクス君が勝ったら、部屋を変えろでも何でも好きな願いを一つ叶えてあげよう。 なんならヤマトの事を好きにしてくれても構わないよ」


「ちょ、何でそこで俺が関わってくるんだよツバキさん」


「今更自分は関係ないとは言わせないぞヤマト。 理由はどうあれ、女の子泣かせたらダメだと私は教えたはずだぞ? それに、よく考えたらお前ここに呼んだはいいが入学試験を受けさせるのを忘れていてな.....ついでだから、ヤマトの入学試験も兼ねることにしたよ」


「はぁ? 俺ツバキさんの推薦で試験なしで学園に入れるんじゃなかったのか? と言うかそもそも俺はツバキさんに呼ばれてここに来ただけのはずなんだけど?」


「細かい事を気にしていてはいい男にはなれないぞヤマト。 それに、人生楽して通れる道なんてないぞヤマト。 男は毎日が試練さ」


「相変わらず勝手だなぁツバキさんは......」


 そう文句をいいながらも、ヤマトはツバキの言葉に逆らうことはしない。


「さて、ヤマトの方は問題ないとして、ラクス君はどうする? 別に私の提案を受けなくても問題はないが、それだと君とヤマトが相部屋になることは変えられないよ?」


「......学園長が出すその試練とやらに合格すれば、本当に何でも願いを叶えてくれるんですね?」


「勿論だとも。 ただし、私が叶えられる範囲でのことだけどね。 まぁ、学園のことならば大抵の事は私が何とか出来るから問題はないよ」


「では、私がその試練に合格したらそこの男を私の奴隷として扱うことを許して貰えますか?」


 この世界には奴隷制度が存在する。

 ただしこれは労働や性奴隷といったような扱いではなく、重犯罪を犯した大罪人を無理やり従わせる為だけに使われる絶対服従が基本の制度だ。


「ほぉ、奴隷ね....その言葉を王族である君が使うのは些かどうかと思うが.....まぁいいだろう、相手が王族ではヤマトのしてしまった事は罪に問われても言い逃れ出来ないからな」


「それ、俺の意思は?」


「ない。 何だ不服なのか?」


「いや。 どうあっても、こちらの王女様は俺の事を許してくれそうにないからな。 それに、ようは勝てば問題ないんだろ?」


「へぇ~言ってくれるじゃないのよアンタ。 まさか、私に勝てるとでも思ってるのかしら?」


「戦う前から負けるつもりで戦う奴何ていないだろ。 やるからには絶対に勝て、俺は師匠にそう教えられてんだよ」


「ふぅ~ん、嫌いじゃないわよそういう負けず嫌いな奴。 いいわ、もしアンタが私に勝つことが出来たら私がアンタの奴隷になってあげる。 当然、私の裸を見たことも許してあげるし、なんなら私のこの体を好きにしてもいいわよ」


「いや、それはちょっと....女の子はどんな物よりも大切に扱いなさいってツバキさんに言われてるから.....俺が勝ったら普通に許してくれるだけでいいよ。 最悪部屋は野宿でも何とかなるからさ俺は」


「私の体じゃ不満だって言いたいの! つべこべ言わず、受け取っとけばいいのよアンタは!」


「何だそりゃ、俺はどうすりゃいいんだよ.....ツバキさん助けてよ」


「ハッハッハ、思いの他ラクス君はヤマトに惚れ込んでいたようだな。 受けてあげればいいじゃないかヤマト。 ラクス君もあぁ言ってることだしな」


「本気かツバキさん? こういうの、ツバキさんが一番嫌うような事だと思うけど?」


「無理やりそうするのであれば私も反対してやるところだが、今回は本人がそれでいいと言っているからな。 それに、例えヤマトは奴隷が出来ても女の子酷い扱いはしないだろ? これでも私はヤマトの母親なのだぞ、ヤマトのことは誰よりも知っているし信頼しているだから問題はない。 それに、ヤマトもそろそろ女を知るにはいい年頃だろうからな」


 そうして楽しそうに笑うツバキに、ヤマトはそれならと納得した表情を浮かべる。

 どこか親子以上の関係に見える二人だが、それ以上でも以下でもない。


「ツバキさんもあぁ言ってるし、その条件でやろう」


「ふん、後悔しても遅いわよ。 試合が終わる頃には、アンタを地べたに這い蹲らせて私の裸を見たことを謝らせてやるんだからね」


「いや、謝って許してくれるならそれぐらい幾らでもするぞ」


「アンタにはプライドってものがないのかしら......仮にも男でしょうに」


「何度も言っているだろ俺は女の子には嘘をつかないんだよ。 それに、理由はどうあれ俺にも悪いところがあったのも事実出しな」


「ホント、妙な所で誠実なのねアンタ......まぁいいわ。 これでよろしいですか学園長」


 ラクスがツバキにそう投げ掛けると、ツバキは一つ頷いてから言葉を返す。


「それでは、時間もないから模擬戦はこの後直ぐでもいいかな?」


 二人は問題ないと頷いて返す。


「結構。 それでは、立会人は私が勤めることにしましょう。 場所は学園の闘技場を使うとして、ヤマトは場所を知らないだろうからラクス君案内してあげてもらえますか?」


「分かりました」


「では、一時間後に闘技場で模擬戦を開始します。 二人ともそれまでに準備を整えておくように。 では、解散」


「ほら、時間がないんだからさっさと着いて来なさい」


「分かってるよ」


 そう言って部屋を出たラクスの後を追うヤマト。


「ヤマト」


「ん?」


「間違ってもやり過ぎるんじゃないぞ」


「ツバキさんには迷惑掛けないから心配すんなって。 んじゃ後でな」


 ヤマトは足早にラクスの後を追いかけて部屋を出て行った。

 残された部屋でツバキは、


「......あの力はあまり使ってほしくはないが、そうも言ってられないだろうな.....まったく、母親失格だな私は」


 その声は当然ヤマトには届いていないのであった。

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