魔剣使いと女の子
アルテナ魔法学園。
大陸に幾つか存在する魔法学園のうちの一つで、魔昌獣と戦う魔法士を育てる為に作られ現在学園序列第3位を誇る由緒ある学園であり、学園に通っているのは、8~18歳の魔法適正の高い言わばエリートと呼ばれる子供達だ。
「ほぇ~、やっぱ都会の町並みは違うなぁ」
黒髪に少し白が混じった灰色に近い髪をした少年は、辺りを物珍しそうにキョロキョロとして世話しなく首を動かしている。
少年の名はヤマト・クサナギ。
ヤマトは、とある事情によりここアルテナ魔法学園のあるヘルゼニア皇国の王都にやって来て、見たこともない建物や物に目を奪われてしまっているのだが、その姿が田舎から出てきたと言っているのが丸分かりなのかすれ違う人は微笑ましいようにヤマトを見て通っていく。
そんな風に、フラフラといろんな物に目を奪われながらもヤマトは目的の場所へと辿り着くと、
「おぉ!こりゃまた立派な建物だな」
今までの物とは一味違う立派な建物に驚きの声が漏れる。
ヤマトの立っているその場所は、まだ門の入り口だと言うのに遠目からでも生徒達が通う立派な校舎が確認出来る。 魔法の教育では大陸随一を誇り、優秀な魔法士を数多く輩出している魔法学園。
そう、言わずと知れたアルテナ魔法学園である。
ヤマトはこの学園のとある人物にとある理由で呼ばれてやって来たのだが......まぁ、結論から言ってしまえばヤマトはアルテナ魔法学園に編入することになっている。
本来ならな、年に一度開催される入学試験以外で生徒を増やすことはないのだが、そこはヤマトをここへ呼び寄せた人物の力が働いているらしく特例としてヤマトはアルテナ魔法学園に編入することが決まっていたりするのだが、それを本人が知るところではなかったりする。
「そこの少年、学園には許可証がないと出入りできないぞ」
と、門の前で佇むヤマトに近くで学園の警備を担当している人が話しかけてくる。
「えっと...許可証みたいなのはないんですけど、一応この学園の人に呼ばれて来ました。 これを見せれば学園に入れてもらえるからって言われてるんですけど?」
そう言ってヤマトは、鞄から一枚の手紙を取り出して警備員に手渡す。
警備員はそれを受け取り中を確認すると、驚いた顔をして手紙とヤマトの顔を何度も交互に見返す。
当然ヤマトは手紙の内容を知っているのだが、
「......何か変なことでもありましたか?」
「い、いや何も問題はないよ.....ただ、編入生何て初めてのことでちょっと驚いてしまってね...。 あぁ、まずは荷物も置く必要があるだろうから寮に案内するからついて来てくれ」
警備員の人の後についてヤマトは学園の門を潜る。
学園の敷地内は、さながら小さな町のようにいろんな建物が並び学園の生徒以外にも、商人風の人や白衣を研究者風の人など大人の出入りも多い。
それもそのはずで、魔昌獣という世界の敵が現れて以降、個々の魔法力を底上げすることは勿論のことなのだが魔法だけで強力な魔昌獣に対抗することは一流の魔法士でも難しい.......そこで、格魔法学園は学園内に魔科学の研究施設を作り、生徒の高い魔法適正に合わせた対魔昌獣用の武器や道具を開発し若い世代から底上げを図っているのだ。
「......寮長にも確認が取れた。 君の部屋は6階だそうだ」
「ありがとうございます」
「一つだけ注意事項だが、階毎に分けられてはいるがこの寮は男女共用の施設だ、中には女生徒しか入れない場所もあるから無闇矢鱈と寮内をウロウロしないようにしてくれ。 毎年それで問題を起こす奴がいるからな......」
「分かりました気をつけます」
警備員さんを見送ったヤマトは、荷物を持って寮に入り指定された部屋へと向かう。
寮の中は、まるで高級感のあるホテルのように綺麗に清掃され、備え付けの道具も施設も最先端の物が使われている。 流石は、大陸でも随一を誇る魔法学園と言ったところだろう。
「ここだな....」
教えてもらった部屋の前に辿り着いたヤマトは、与えられて鍵で部屋のロックを外すと躊躇いなくドアを開けた。
それ自体に問題視する点は何らなかったのだが、ヤマトは大切な事を一つ教えられていなかった........。
「あっ....」
「えっ!」
開かれたドアの向こうには一人の少女いた。
燃えるような赤い髪に白絹のような白く透き通った肌、髪の色と同じ赤い瞳はしっかりとドアの前に立つヤマトを見据え両手を胸の前でクロスさせて大事な部分を隠そうとしているが、小柄な体の割りに発達したそれを隠し切ることは出来ておらず、上下黒の下着が見え隠れしてしまっている。
そう、何のことはない少女は着替えの最中であった。
「・・・・・」
初めは何が起きたのか分かっていなかった様子の少女だが、次第に頭の中がしっかりしてきたのか髪の色以上に顔を赤くして今にもヤマトを射殺すのではないかと言う鋭い視線をヤマトに向ける。
普通ならば、ここで男の方が申し訳なさそうに言い訳の一つでもしてドアを閉めるところなのだろうが、
「へぇ~、思ってた以上に部屋も広いんだ。 机もベッドも一人用とかうちの田舎とは大違いだよなぁ」
と、何事もなかったように部屋に入って来て暢気に部屋の感想を述べている。
少女も怒ろうとしていた矢先のまさかの行動にポカ~ンと口を開けて呆けていたが、首をブンブンと左右に振って頭の中を切り替えると、
「ちょっとアンタ、何勝手に人の部屋に入ってきてるのよ! それに、年頃の女の子が下着姿でいるのにその反応の薄さは何なのよ!」
と、後半部分はズレている気がするがヤマトに向かって怒気を荒げる少女。
「ん? 勝手にって、ちゃんと管理人の人にも確認して貰ってるから今日からここは俺の部屋だぞ。 あぁでも、相部屋だとは聞いてなかったな.....ヤマト・クサナギ今度ここに編入することになったからよろしくな」
「は? 編入ってアンタ、うちは途中入学は認められてないはず......って、アンタが何処の誰だろうと関係はないわよ! 問題はアンタが私の裸を見たってことよ!」
「裸って言っても、下着は付けてるんだから正確には裸じゃないだろが。 それに、男女が一緒の場所で着替えるの何て普通の事なんだから気にする必要だろ? むしろさ、こんなに可愛いんだから誰かに見てもらわないと損だと思うぞ」
「か、可愛いだなんてお世辞.....」
「お世辞じゃないさ。 ツバキさんから、女の人には絶対に嘘をつくなって言われてるから女の人に嘘は言わないぞ俺は。 お前は俺が今まであった女の子の中で一番可愛いぞ」
「.......な、何なのよアンタ、いきなり部屋に入って来たかと思えば私を口説くなんて.....でも、ここまで素直に褒めれて悪い気はしないって言うか....むしろ、嬉しいと言うか....」
「おーい大丈夫か?」
「はっ! 私ったらこんな奴の言葉に何故乗せられてたのかしら.....そうよ、理由はどうあれこいつが私の裸を見たことに間違いはないじゃない。 と言う事でアンタは私の裸を見た罪により死刑よ。 安心しなさい、苦しまないよう一瞬で燃やしてあげるわ」
そう言うと少女は、手に炎を顕現させる。
「え、待った、待った!」
「待ったはなしよ! 燃えてなくなりなさい!」
「っと! 部屋の中で火属性の魔法使う奴があるか! 火事になったらどうすんだよ!」
「安心しなさいこの寮は建物自体に防壁が施されてるから、ちょっとやそっと魔法で暴れた所で壊れはしないわ。 さぁ、大人しく灰になりなさい!」
「無駄に万全だなチクショー! だけど灰になるのはごめんだね!」
唐突に始まった部屋の中での鬼ごっこ。 ヤマトとしては裸を見たくらいで何故少女は怒っているのだ言いたい所だが、それを少女に言った所少女が納得して止まってくれるはずもない。
ならだ物理的に少女を止めればと思うかもしれないが、少女の魔法はヤマトを正確に捉え、尚且つ中級程度の威力のある魔法を詠唱破棄で休むことなく連発してくるので容易に反撃することも出来ないでいる。
流石は学園序列でも上位にある学園と言っていいのだろう、個々の生徒の力量も大したものだ。
が、それは少女だけに言えることでもない。
「何でこんなに魔法を連発してんのに当たらないのよ! 大人しく灰になりなさい!」
「無茶言うなっての! こっちは命が掛かってんだぞ!」
別段ヤマトは魔法を使って身体強化をしているわけではない。 素の身体能力で少女の魔法を避けているに過ぎない。 身体的なスペックだけで言えばヤマトのスペックは人間離れしていると言っていいだろう。 それに加え、ヤマトは幼い頃から里で魔法を使わない武術を嫌と言うほど体に叩き込まれている為、ヤマトはその有り余る身体能力に振り回されることなく制御することが出来る。
その為、ヤマトに一撃を入れるのは並大抵の攻撃では難しい。 とは言え、ヤマトとて人間である以上これが長時間続けば疲労はする。 そうなれば少女の魔法も当然避けれなくなってしまうだろうが、それは魔法を使っている少女にも言えることで、こちらも魔力を消費している為何時かは限界がやってきてしまう。
つまりは、お互いこのまま長い時間これを続けるのは無理だというわけだ。
「あぁもう! こうなったら多少部屋が壊れるかもしれないけど上級魔法で吹き飛ばしてあげるわ!」
「ちょ、マジでそれはシャレになんないぞオイ!」
少女は両手に顕現させた炎を合体させて巨大な炎の塊を作り出すと、
「消えなさい覗き魔!」
ヤマトに向かってそれを投げつけた。
「誰が覗き魔だ!って、それどころじゃないぞこれ...何か役に立つ物は....お、これだ!」
ヤマトは部屋の中に転がっていたそれを手に取ると炎に向き直る。
そして、
「お返しだ!」
ヤマトは手に持った鏡を炎へ向けると、炎は鏡に反射して少女の方へと方向を変えた。
この鏡は姿を映す何の変哲もないものだ。 ただ、この手のガラス製品には魔法を反射する効果を持った特殊なガラスが使われていたりする。 何故そんなものが....と、聞かれれば答えは至って単純でより綺麗に写すことが出来るそれだけだ。
女性と言うのは何時どんな時でも綺麗でいたいもの....だからこそ、本来ならば魔道具に使われる貴重な素材を鏡にまで使っていたりする。
ヤマトは偶々それを知っていただけだ。
「ちょ、え、こっちこないでよー!」
炎は少女を追いかけるようにして少女に向かっていく。
そして、
『ドオォーーーン!』
炎は部屋の壁に当たり凄まじい爆発音が響き渡る。 流石にこれ程の音がすれば人が駆けつけてきてもおかしくはないだろう。 ましてや、これだけ部屋が散らかってしまった上に一部部屋の壁が黒焦げになってしまえば........。
「おーい大丈夫か?」
「けほけほ、酷い目にあったわは.....」
ヤマトが床に転がっている少女に声を掛けると、間一髪の所で爆発を逃れた少女は体を黒く汚して立ち上がる。
「まったく、幾ら広い部屋だからって流石に上級魔法はないと思うぞ?」
「うるさいわねぇ、元はと言えばアンタが私の裸を見たのが悪いんでしょ!」
「だから、下着姿は見たけど裸は見てないっての」
「同じ事よ! 女の子とって、好きでもない男に下着姿でも見られればそれはもう裸を見られたのと同じ事よ!」
「そう言われてもなぁ......あれは事故であって見ようとして見たわけじゃ....」
「うるさい! 兎に角、私の気が治まるようアンタは灰になり.....」
「「あっ!!」」
その時、少女の纏っていたタオルがはらりと地面に落ちる。 さらに運の悪いことに、先程の爆発でホックの部分が外れていたらしく上の下着も一緒に落ちてしまった。
これにより、上半身だけとは言え本当に裸を晒すことになってしまった少女は、
「......ご馳走様です」
「い、いやーーー!!」
爆発音よりも響き渡る悲鳴をあげヤマトを殴り飛ばした。
その後、駆けつけた管理人さんにこっぴどく叱られることになったのは言うまでもない。