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商売の基本

作者: MAKI

*****俺の視点*****



俺はそいつに金を払い品物を受け取る。



そいつはなにも言わず、表情さえ一切変えず、品物を渡す。



渡された品物を受ける取るとき、俺は必ず頭を下げなければその品物を受け取れない。



そいつはどこにでもいる。誰もがその存在を知っているが、あえて誰も話しかけたりはしない。



夏の暑い日であろうと、冬の寒い日であろうと関係なく。



朝であろうと、深夜であろうとずっと待っている。



そいつの仲間にも変り種はいて、たまに金を渡すと話し出したりもする。



だが、その話す内容は一方的で、こちらに会話の機会さえも与えない。



その変り種もごくたまにではあるが、話し方を変え、さらに音楽を交えて俺を喜ばせてくれることがある。



だがどれだけ付き合いが長くなろうがそいつの態度は変らない。



今日もまた金を渡し、頭を下げ品物を受け取る。



こうやって頭を下げているのに、そいつは礼さえ言わない。



表情は無表情、感情面も無感情といったところだろうか。



そいつも子供には甘いのかは不明だが、幼い子供には頭を下げさせたりはしない。


俺が幼いときも、そいつには頭を下げた記憶はなかった。



そいつはある程度の年齢が過ぎた頃から頭下げないと品物を渡さないらしい。



ごくまれにではあるが、たまに自分が欲しい品物と異なった品物を渡すことがある。



渡された品物が自分の欲する品物でなかったとしても、誰もそいつに文句を言わない。


いや、言ったところで無駄だとあきらめてしまうのだろう。



俺も何度かそんな経験があった。



俺はある日そいつと話そうと思った。



なぜなら、こちらは金を渡し、そいつは渡された金に見合った品物を提供しているわけだ。

常識で考えたら礼の一つもあって当然ではないのか。



コンビニや飲食店にしたって、お金を渡し、品物を渡すときに必ず礼を言ってくる。

違った品物や、食べ物などを渡せば、クレームは必ずくる。



クレームがくれば当然謝罪する。それが常識であり本来の姿だと思う。



だが、そいつは、いやそいつらは違う。



ならば俺が思いきってそいつらに教えてやるべきではないだろうか。



そんな態度ではこの先やっていけなくなるぞと。



でも実際、そいつらはそんな態度でありながら、常連客を確実に確保していっている。

それどころか場所によっては一見客も多数存在するのが現実だ。



決心はついた。



今日こそそいつに言ってやる。



たとえ、周りの人から変な目でみられようがかまわない。



俺の言っていることは誰が聞いても正しいと思うだろう。



そしてさっそく俺はそいつのいる場所へと駆け出した。



そしていつものように金を渡す。



だが俺は頭を下げない、そいつに向かい話しかけた。



「お前さ、商売なめてんのか?」



そいつは黙ったままだ。



だが俺は続ける。



「普通はさ、『ありがとうございました。』ってそっちが頭を下げるのが普通じゃね?」



「黙ってないで、なんと言ったらどうだ?」



かなり高圧的に責めて見たが、あまり効果はなさそうだ。



そのやりとりを見ている通行人達。



そいつとの会話を聞いて、きっと当然だと思っているに違いない。



皆思っていることは同じはずだ。



通行人達の視線を浴び、俺は少し元気が出た。




*****私の視点*****




またこの男がやってきた。



この男はいつも私から品物を買ってくれるので、私としては嬉しい。



だが私のほっぺを指先で強く押す。



もっとやさしくしてほしいものだ。



そして品物を渡すと必ず頭を下げて品物を受け取り立ち去っていく。



ほぼ毎日来るのだが、最近私を睨みつける。



私にはなぜこの男が睨みつけてくるのかが解らない。



なにか言いたそうな素振りを見せるが、決して話しかけてこない。



だが今日は違った。



会社帰りのサラリーマンや学生が行きかう中、そいつは現れた。



なにかを決意したかのような表情だ。



そして男は突然説教を始めた。



「お前さ、商売なめてんのか?」

初めて聞いたその男の声。それがこんな言われ方をしてしまった。



もちろん商売をなめているわけではない。むしろ感謝の気持ちでいっぱいだ。



それをいきなりこんなことを言われ私はショックだった。



何も言い返せず落ち込んでいると、さらに男は続けて話し出す。



「普通はさ、『ありがとうございました。』ってそっちが頭を下げるのが普通じゃね?」


「黙ってないで、なんとか言ったらどうだ?」



たしかにこの男の言うことには一理ある。しかし私にはできない。



感謝はしている。さらにありがとうの気持ちでいっぱいだ。



だが、私の仲間に共通して言えることがある。



それは、決して表情に出さずに、言葉にも出さない。



それがこの仕事に不可欠であり、無駄な時間を使わずスムーズに品物を渡す方法なのである。



しかしそれをこの男に伝えたところで無駄だろう。



そしてついに男は周りの視線を気にもせず私の名前を叫びだす。




「おい!聞いてるのか!」



「なんとか言えよ!」



「無視してんじゃねーよ!」



「自動販売機!」





つまらない作品ですが、最後まで読んでくれた方々、ありがとうございます。

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