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第二章その②

そこは間違いなく脱衣所だった。


「後生ですーっ。それはかまいたちの一族としてとっても難しいです。お、男の子と一緒にお風呂に入るなんて」


「何をとち狂ったことを口走っているのですか! その変態的妄想は誰もいない一人のときにしてくださいますこと」


闇の世界で出逢った魔装少女に連れられてやってきた境界線ベース基地にて放射線を洗い落とすために風呂にはいることになった。

この世界を覆う放射線は独自の進化をはたしており全てが有害という物質ではなくなっていたのだがその代償として地域をあらわす独特の匂いが発生させる成分物質発生させていた。

まさしくベース基地に入るための匂いを落とす禊であった。


「だってだってだってーっ、うちの一族は結婚する相手と兄妹以外には全裸(素肌)を見せてはいけないのです。たとえ相手が子供でも該当してしまうのです」


「田舎妖怪はこれだから嫌ですわ。なんとも閉鎖的で狭小な決まりですこと、とてもキモいですわよ。それにあの儀式の日(、、、、、、)、与太丸にお兄ちゃんとの約束なんて古臭いことを言って結婚を申し込んだ妖怪(かまいたち)は何処の誰でしたか? 貴女の駄肉で弛みきったお腹にくぐりつけてある魂の紐がある限り与太丸と貴女は一心同体、離れることが出来ない親密な仲ではありませんか?」


「駄肉なんてないですーっ、弛んでないですーっ! ひもじい生活していて弛む暇もないのです。そういうミンメイさんこそ実は隠れ肥満で弛んで……って……ひえぇぇぇー!」


ミンメイは脱ぎなれた仕草で首からすっぽり漆黒のゴスロリドレスを脱ぐと誰もが魅入ってしまいそうになる艶やかな裸体があらわになった。

その肢体には下着を付けておらず丁寧にドレスを脱衣籠にたたみ置く。


その刹那、「ぷぷぷんぷー!」とアヒルの玩具をがっしりと握りしめて上機嫌の与太丸をあかねは猛スピードで抱え上げると裸体になったミンメイと距離をとる。


「どう、貴女と違って駄肉がまったくないスレンダー系でしょ」


「ス、スレンダーすぎますぅーっ、それに、な、ななななな、何でついている(、、、、、)のですか―っ!?」


蜂蜜色の瞳が昏倒しそうなあかねを一瞥するミンメイ。


「そんなに奇声を発しなくても貴女が馬鹿なのは一目瞭然ですよ? 旧世界の哲学者の言葉を借りれば無知は罪です。無知で罪でクズな貴女には与太丸ちゃんの世話が大変すぎるのでしょう? わたくしも一緒に入ってあげますから安心してよくてよ」


「そんなもの見せられて、振り回されたら安心できないですよーっ!」

あかねは恥ずかしさのあまりほっぺが真っ赤にまりつつ、あまりの驚きに息がつまりながらも納得がいかない視線でミンメイを見つめる。


「そんなにヨダレをたらして見つめてくるなんて、飢えている乙女はデリカシーがないですわ。そんなにおちんろん様が羨ましいですの?」


「羨ましくないわーっ! ボケー」


「ほらほら、与太丸ちゃんはお姉様の味方ですよね」


「ぷぷいぷん♪」


「びえーん、与太丸ちゃんが手懐けられていますーっ」


長く広がったバスタオルをきめ細やかな純白の柔肌に巻くミンメイはうんうんと頷きながら与太丸にやさしく微笑む。その微笑みをあかねはジトーと虚ろな眼差しをむける。


「さぁ、与太丸ちゃんお風呂に入りましょうね」


「ぷぷいぷん♪」


 他愛もない会話を交わしながらミンメイは与太丸を抱え上げた。艶やかな光る長い黒髪に眉目秀麗な麗人のそのひとつひとつの仕草にあかねは目を奪われた。


「だ、駄目です、とっても全力でストップなのですーっ、それ以上与太丸ちゃんを引っ張ったら、うちまで一緒にお風呂に入らないといけなくなるのですーっ!」


「与太丸ちゃんのついで(、、、)に特別に一緒に入ってあげてもよろしくてよ」

 与太丸を抱え上げたミンメイは底抜けに明るい声と微笑みをあかねにむけた。あかねはまったく笑っていない瞳でプルプルと顔を左右に振って穴があきそうなほどミンメイを見つめている。


「ぷぷんぷー」


「ひえぇーやめてーっ!  与太丸ちゃんがエッチな手つきでうちの洋服を剥ぎ取ってくるのですーっ。誰におそわったのですかぁ!?」


「ぷぷんぷー」


「びえーん、もうお嫁にいけないのですーっ」


「服を剥ぎ取られたぐらいで何をメソメソしているのですか! そんな貧弱なものみせられても嬉しくもないですがしかたありません。わたくしが嫁にもらってあげますわ」


「ぷぷんぷー」


「どうしてそうなるのですかーっ!?」


 手をニギニギさせる与太丸とミンメイの光景を目にしたあかねは驚愕と羞恥が合わさった感覚に支配されていた。あかねは茫然としつつ一歩も動けないまま「ぷぷんぷー」と上機嫌の与太丸に促されてぽやんぽやんと風呂場に一歩一歩、足が前に進む。

 当然ながら本人の意思など全く察しられることなく吸い込まれるように進んでしまうのであった。


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