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第三章 その④

こんばんわ、皆さまいかがお過ごしですか?

楽しんでいただけましたらとても嬉しいです。

     ◆

 正直なところあかねは戸惑っていた。血みどろの壁が延々とつづき死臭が鼻につく。

 

 魔装少女や仲間の妖怪たちの生きた跡など微塵も感じられない。

 学園都市の研究施設。

 この間まであかねも収監されていた施設だ。

 血みどろの中の静謐。

 時が止まったような錯覚、無茶な研究をしていた代償を支払ったと思いたい。あかねは心中で深い溜息を吐いた。


「与太丸ちゃんの教育には良くない現場です」


「ぷぷいぷぷ」


 壁に付けられていた燭台を手にとって危険が散乱した床を茫然と見ていたあかねに与太丸は慈しむように頭の上で小さな身体をこすりつけた。

 もう、こぼれたヨダレでベトベト状態だ。


「ここが魔装少女の研究施設だったところか」


「そうです、うちは必至にここから逃げました。仲間の妖怪が魔装少女に狩られていく中、ただただ恥と無力さを噛み締めて逃げ出したのです」


 あかねは自嘲気味にシロに微笑んだ。

 とても力のない微笑み。

 崩れ落ちそうな天井を眺めたシロもそれを察しそれ以上は触れない。


「ここは何を研究していたのかな。こんなに手の込んだ設備があったなんて僕はとっても驚いたよ」


「驚いて当然ですわ……あれ、ひやゃゃゃゃ、兄っち可愛らしくなってる。私は幼児プレイもお手の物です、さぁ、兄っち、私と夢の国へ」


「ぷぷいぷぷ」


「い、痛いですーっ、与太丸ちゃんが全身をつかって嫌がっています! ぐいぐいとうちの髪の毛を全力でひっぱらないでください!」


 大きく瞳を見開き時が止まったように表情で声の主を眺めた与太丸は視線を泳がせてあかねの髪を引っ張って隠れようとする。


「僕のセンサーに引っかからないなんてびっくりだよ。ところでキミは誰かな?」


 驚きと訝しみを隠す不敵な笑みを浮かべたシロが遠慮もなしにあかねの前に出る。

 その手には特殊素材で錬成された漆黒の短刀が握られている。


「私だけのものである兄っちの近くにいるだけでも死刑に匹敵します大罪。そんな大罪人が私の高貴な名を聞きたいだなんて鼻で笑ってしまいます」


「こんな物騒なところで喧嘩はやめてください。シロさん、この女性は敵ではないです。この女性は緋影さんです、与太丸ちゃんの妹さんなのです」


「そうです、兄っちの嫁であり愛人であり近親相姦の対象。愛があればバッチリの妹、緋影です。あかね、しっかり兄っちの栄養源になって……いえ、子育て頑張っていますね」


「ミンメイさんの隠れ家で寝ていたら突然いなくなったので心配していました。こんなところで迷子になっていたのですね? 凄く寝相が悪いのです」


「こんなおバカな子が兄っちの養分になるなんて……ちょっとジェラシー」


「養分って何のことですか?」


 不満そうに呟く緋影にあかねは小首をかしげる。

 緋影は人差し指をあかねの唇そえて「何も考えなくていいよ」と囁く。


「ところで緋影」


「初対面の私を緋影と呼び捨てとは。まったく身の程知らずの人の子はどこまでも傲慢。兄っちが見てなければ頭から丸かじりしてやるところです」


「それはこちらのセリフだ。僕を雑魚扱いしないほうが良いよ、与太丸の妹なんて聞いたことない。本当は何者なんだい? それと緋影はここで……この研究所跡で何をしていた?」


 シロの言葉に緋影は肩を竦めると瓦礫に覆われた剥き出しの床に落ちていた得体の知れない物体を拾い上げる。


「人の子よ……シロでしたね。これが何かわかりますか?」


 それはとても醜く朽ち果てたもう生きると言う存在意義を忘れた炭にも似た物体。

 姿形は生前の原型をとどめていない。何らかの実験に使われた成れの果てだ。


「僕が推測するに理科室の実験で失敗して真っ黒焦げになった化学の先生の成れの果て?」


「むむむっ、当たりっぽいのです。流石は頭脳明晰のシロさんですーっ」


「ぷぷいぷぷ」


 シロの選び出した答えにあかねと与太丸がやっぱりシロさん頭が良いのですーっと言った憧憬の眼差しをむけてうんうんと頷く。


「真偽の判然があやふやなことを持ちかけると無駄に言葉遊びをする。この機械人間は人の子の種族的な特徴を踏襲している良くできた人型ロボット(アンドロイド)、私の愛と性欲の子種対象である兄っちの警護をしているだけあって少しは鼻が利くようね、実験に失敗の部分は良い読みです」


「緋影さん、さりげなく変態的性癖を暴露していますーっ!」


「ぷぷいぷぷ」


「むひー、頭皮がとても痛いですーっ、与太丸ちゃんそんなに髪の毛を引っ張ったらばっさり抜けてツルツルハゲになってしまいますーっ!」


「ああっ、私の兄っちがあんなに大興奮で……とってもジェラシー」


 あかねの悲痛な叫びなどどこ吹く風、シロは汗ばんだ手で漆黒の短刀を握り直す。センサーの誤作動? 僕のセンサーも狂わせるほど強力な力なのか、得体の知れない相手(緋影)の存在が放つ覇気はかすり傷でも致命傷になりそうだ。


「緋影、キミはこの研究所の何を知っているのかは知らないけど僕たちの邪魔はしないでくれるかな。僕たちは僕たちの力で調べきる」


「むむーっ、シロさん教えてもらったほうが楽チンですよ」


「あかね、僕たちは僕たちの手によって調べたほうが良いんだ。眼下の甘言に惑わされてはいけない」


 床を蹴り上げ羽のように舞い上がったシロは漆黒の短刀を緋影にむけて振るう。

 しかし涼しげに微笑む緋影は回避も防御もいらないとばかりに微細な動きもしない。

 しかし緋影の肉体にはいかなる干渉や接触も許さないのだろう、漆黒の刃が胸とおぼしき場所に突き刺さろうとした刹那、大気に微かな振動がおこるとシロの頬が床をこすり、不可思議にも倒れ伏していた。


「シロさーん!」


「ぷぷいぷぷ」


 突然の驚きにあかねは半ば叫んでしまう。

 這いつくばったシロの前に立つ緋影は無機質で無表情に近い顔に唇の端を上げて嘲りと冷笑を入り交えた。


「兄っち、安心してください。あれっ? 兄っち目が怖いです」


「ぷぷいぷぷ」


「……ぐすん、後生です、そんなに睨まないで。分かりました潔く責任をとって兄っちと今すぐ結婚します」


「ぷぷいぷい」


「もうこうなったら近親相姦ちっく既成事実を作ってしまって蜜月ハネムーンをするしか道はありません」


「ぷぷいぷあ」


「びえーん痛いですーっ。もう与太丸ちゃん作人工円形脱毛症まっしぐらですーっ!」


「そのあばずれ妖怪女のことを骨の髄まで愛しているということですか!?」


「緋影さーん、むっきーとか言って服の袖を噛んでないで助けてくださいーっ!」


 ひっそりとした研究所に響くクールな上に才色兼備である緋影のブラコンの悲壮な声。


 そんな兄っちによるハレンチなSMプレイは私の特権のはずです! ととっておきのジト目でなんともいえない表情だ。


「特別な恩赦です。今だけの恍惚なひとときをゆっくり楽しみなさい」


「マゾっけのないうちが楽しめるはずがないでしょ」


「そういうわけで本題にはいります、私の期待に添えるようにしてください」


「びえーん、その、なにごとも融通はしません的な威圧が怖いです」


「そこまで感じ取って貰えるとは思わぬ僥倖です」


 悲観的な音色をあげるあかねを一瞥すると手の平で転がしていた黒い物体を床に落とす。黒い物体は粉雪のように粉塵とかして散っていく。


 その模様を確かめた緋影はうっすらと微笑む。


「ここは高炉の研究をしていた場所」


「高炉? 高炉って何ですか?」


「ぷぷいぷぷ」


 あかねはその場に膝をついて床に転がる黒い物体の欠片を拾う。

 謎に満ちた物体、それはとても軽く……ただ、見覚えのあるシリアルナンバー入りの首輪だけが原型に近い形で残っていた。


「う、うそ……そんな……」


 あかねの言葉が裏返り動揺が見える、精神的な硬直があかねの意思を呑み込んでしまう。

 

 あの日、仲間たちと脱走した日、最悪の展開は覚悟していた。

 その覚悟の想像がこの場所でおきていた事実がシリアルナンバー入りの首輪から見て取れた。

 強烈にして陰惨な儀式がこの場で行われていた事実。


「ここは魔装少女が捕縛した人や妖怪を魂と肉体を分離する工程を行っていた場所。その黒い物体は分離し損ねた残骸。スクラップだよ」


「ど、どうして……このシリアル番号はうちと一緒に逃げた小豆とぎが付けていた首輪」


「あーあー、そんなこともわからないの? 首輪は発信機。どこに逃げても魔装少女の餌食になる仕組み。あかね、貴女は選ばれた供物。兄っちの枝分かれ……義弟キラが言っていたでしょう。兄っちと結婚(、、)しろって、すなわち養分(、、)になれって」


 養分……兄者、ど、どういうこと?


 動揺しているあかねは与太丸を抱えてじっと見つめる。蜂蜜色の瞳に見つめられた与太丸は「ぷぷいあぷ」と上機嫌で真摯にあかねを見返した。

 その眼差しは純粋そのもの、とても何かを策謀している体には見えない。


「だからクズ妖怪は餌にしてあかねだけは特別に魔装少女から逃がしたの(、、、、、)。世界がカナンなるものに呑み込まれ、キラが殺され、遠野の里は露と消え、くたばり損ないのかまいたちが魔装少女に捕縛されて、居心地の悪い研究所のモルモットとして囚われ生かされていたかまいたちやクズ妖怪たちがこの魔装少女の支配する学園都市から遁走できるはずないだろ」


 ちりーん。あかねの首輪から小さな鈴の音が鳴る。

 その音は苦しみの結晶。

 束縛された身体、屈辱的につけられたシリアルナンバー入り首輪、あかねは研究所で受けた屈辱。

 あらゆる記憶を噛み締めると蜂蜜色の瞳に悲観的な音色が込み上げる。


「兄っちは地上の宝。地上の残された限りなく稀有な希望。あかね、貴女もカナンなるものの恐ろしさしっかり瞳に焼き付けてきたでしょ」


 あかねは唖然とした。カナンなるものの恐ろしさ、この世界の惨状を見れば痛いほど理解出来る、されとて、何故、自分自身の生命をなげうたなければならないのか。ただ、悲壮な決意だけではとても割り切れない。


「昔から人間は強欲だった、互いに蹴落とし合い、万物の至宝である大地の資源を我が物顔で浪費したり、人類種は滅んで当然だった。ただ、誤算はカナンの誕生。未来を予知した私は強力な霊力と鬼神を召喚した銀髪の一族のちっぽけな繁栄の代価として、兄っちを封印した場所の守人とした……いえ、私だけの兄っちになってもらうために世界を閉ざした」


「ぷぷいあぷ」


「兄っちは私の憧れ。その血肉や臓器、骨の髄まで愛している。誰にも渡さない、たとえ相手がカナンだとしても」


「ぷえーん、チーン」


「与太丸ちゃん、髪の毛で鼻水を拭かないでーっ!」


 あかねの髪の毛をベタベタにした与太丸は緋影の切なる想い(欲望)に抗議の視線を送る。とっても嫌そうだ。


「あかね」


 騒然とした雰囲気が沈静化する声。シロは漆黒の短刀を握りぎこちないく厳しい表情だ。

 おぼつかない足どりでこちらに来る。

 胸元から引き裂かれた衣服からのぞく引き締まった肉体は保護欲がそそられるほど熱く火照っているように見えた。


 「シロさん無事だったですか、勢いよくやられたショックで可愛いお尻からうんことかちびってないですか? もしチビっていたらえんがちょです」


「ぷぷいぷぷ」


「馬鹿かまいたち、緋影の前に貴様を三枚おろしにしてやろうか」


「そんな痛そうなプレイはいやです、シロさんはドSなのです、ビーストゴブリン青姦プレイなみのド変態なのです、なので、心からご遠慮します」


「ぷぷいぷぷ」


「その減らず口、僕たちがこいつから逃げられたら洗濯バサミでとめてあげるよ」


「こいつ? ですか。もしかしなくても緋影さん?」


 シロの手に携えられた漆黒の短刀が血に飢えた禍々しい輝きを放つ。シロの意識を映し出したのだろう、危機迫る迫力だ。


「こいつは与太丸の兄妹にしてはおかしい。絶望的なことを言うようだけど僕の高性能ライブラリーデーターから鑑みるに98%の確率でカナンと判別できる」


「緋影さんがカナンですかー!?」


 あかねは蜂蜜色の瞳をパチパチされると頭の上の与太丸を抱えてグッと抱きしめた。まるで与太丸は誰にも渡さないと言う決意を示したようだ。


「人間にも科学技術の残滓をまとった禁忌から作り出された人造人間が徘徊すると聞いていましたがシロがその禁忌か」


 少し感心したように緋影は小声で言葉を漏らす。その気配は先程までのものとは違う。

 刺々しく触れれば切り刻まれそうな覇気。


「もう少し養分を吸収して大きくなった兄っちとベッドの上にて近親ラブラブ巨根の旅をしたかったのですがやもえない。兄っちとあかねを結ぶ紐を引き裂く。恐ることはないです、その紐を引き裂いたらあかねが血まみれになって衰弱死するだけ、兄っちは五体満足だからあかねは安心して死んで」


「嫌なのですーっ、絶対に死にたくありません!」


「そうですわ、あかねを殺すほどエッチなことをしても良いのはわたくしだけですわ。わたくしの自称スレンダー系美人と言う貧乳嫁をいたぶる作業は蜜月初夜の初体験って相場は決まっていましたよ」


「はうう、その声はミンメイです。やっと来てくれました……だけどとっても心が引き裂かれる想いのうえ、絶対に嫁ではないのです」


「ぷぷいぷぷ」


 抗議の声をあげるあかねの視線の先に非常に大人びた表情のミンメイが手に漆黒の薙刀を持ち、メリハリのある膨らみとくびれを強調したボディラインが黒の魔装少女の衣装に包み込まれている。

 その手の甲には特殊な紋章が浮かび上がり臨戦態勢であることの意味をさしていた。


いかがてしたか?

読みづらいなどもあると思いますが、感想等をお待ちしております。

毎回、私の作品を読んでいただきありがとうございます。

今後とも頑張っていきますので宜しくお願いします。

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