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第三章その③

こんばんわ、楽しんでいただけましたらとても嬉しいです。

     ◆

 闇夜になれば街灯に照らされていたであろうかつて歓楽街メインストリートも今は昔の物語。

 辺りは静寂を保ち、その静寂がカナンなるものとの遭遇への不審につながる。

やけに荒れ果てた建築物だけが戦いの傷跡を風化させまいと奮闘していた。


「これはいったいどういうことなのかしら?」


「それは僕が聞きたいよ」


「与太丸ちゃんはみちゃだめなのです!」


「ぷぷいぷぷ」


 奇妙な現象が四人の目の前でおきていた。

 十メートルほど向こうに学園都市の正門が血の色に染まっていた。

 引き裂かれた藍色の生地が艶かしくまだあどけなさが残る年頃の少女が幾人も吐き捨てられたように倒れていた。

 死臭はないが息もない……生気も養分も枯れ果てた物体とかしていた。


「学園都市は鉄壁の守護ガーディアンに強力な魔装少女に守られていた一級防衛都市のはずですわ。魔装少女がこういう殺され方するなんて」


「も、もしかしてカナンなるものの仕業なのですか!?」


 ミンメイは転がる魔装少女の亡骸を見つめて下唇を噛んだ。


「守護ガーディアンや防衛部隊の魔装少女はカナンなるものに遅れをとるほど貧弱なるものたちではありませんわ」


「僕はとっても嫌な予感がするな」


「うちもミンメイさんに迫られた夜ほどに嫌な予感がします」


 ミンメイはそんな反応に肩を竦めて苦笑した。そして視線を遠くにやり身体をあかねのとなりに寄せた。


「皆さま、ここに来たそれぞれの目的は覚えていますか?」


「うにゃーっ、そんなストイックな表情でうちのおっぱい揉まないでください」


「ぷぷいぷい」 


 ミンメイはあかねの背中からすっと腕を回すとぴったりと掌が胸に吸い付き揉みしだく。

「うちは研究所に行く! 与太丸ちゃんとの約束……この学園都市にいるはずの本物のシロさんを見つけるのです」


「そうでしたら偽物のシロはあかねと与太丸ちゃんをお願いいたしますわ」


 何らかの標的を見定めたミンメイの異様な視線にシロは無言で頷きあかねの腕を掴むと正門を潜ることに意識を総動員して無駄のない動きで「うひゃーっ」「ぷぷいぷぷ」と意識を失いそうなほど叫ぶ二人を引っ張っていく。


「さて……気配を隠していても無駄ですわ」


 ミンメイの視線の先に口元で不敵な笑みを浮かべ忌み子をみるように睥睨する年端もいかない少女が立つ。

 ただ、その瞳の奥には学術的好奇心の色が赤黒く変色した瞳に宿っている。


「よもやとは思っていましたが……まさかカナン(、、、)が出向いているなんて驚きですわ」


 正門と反対側にあらわれた少女。

 その姿は零落しきった身なりだ。

 頬は煤ばみ、ボロ布を袈裟のようにまく。

 足は細く素足。

 ただ、その顔立ちはおさなさの中に妖艶な美が潜んでいた。


「もろきゅーっ。ジゼルさまぁ……まだ、魔装少女の生き残りがいたきゅ」


 薄汚れた少女が抱くクマのぬいぐるみが不貞腐れた顔で声をだした。


「べるべる……うるさい」


 みかんと呼ばれた少女は抱きかかえていたクマのぬいぐるみを素っ気なく引き裂くと陽の光も当たらない薄暗い笑みを浮かべた。

 その笑みは孤独。

 背筋が凍りつくほどの威圧感に心まで凍結しそうになる。


「あれ? 違う。ジゼルに襲いかかってきた魔装少女と違う。女……みたいな男の娘?」


 ジゼルは視界に捉えたミンメイを見るや思案したように小首をかしげる。まるで希少種と遭遇したハンターみたいにその瞳は好奇心が見え隠れしていた。


「この惨状は貴女がしでかしたのかしら?」


「ジゼルは違う。ここの場所殺してない。この都市には学術的好奇心……ここは妖怪や神を研究してる」


「学術的好奇心?」

 

 ミンメイの手の甲に紋章が現れるとほうきは漆黒の薙刀へと変化していく。

 全身が漆黒のドレスに覆われ魔装少女としての本来の姿を顕現した。ただ、その漆黒のドレス下の肢体は真実の状況ははっきりさせるように汗腺が開き粘っこい汗が全身つつむ。


「起源光炉……知りたい」


「な、なんですって!?」


 ミンメイは心底驚愕した声をあげつつ幾何学模様の魔法陣を立体的に構築する。


「起源光炉をどこで知りましたの?」


「ジゼル知ってる。何でも知ってる」


「でしたら質問をかえさせていただきますわ。ジゼルと言いましたわね、その威圧感……カナンと断定してもよろしくて?」


「ジゼルはカナン。間違えない。だけど下っ端たちは扇動してない。見学しにきた」


「見学でして?」


「実験……見てるだけ。血気盛んな奴もいる」


 自らの意思に反して肉体が震えている、凄まじい威圧感に魂までもわななく。カナンは地上の覇者にして最強の捕食者。

 本来はこの魔装少女が統括していた辺境の自治区では巡り合うことなどない存在。


「学園都市のここまでの荒廃。あなたの仕業ではありませんの?」


「ジゼル関係ない。いつも一人ぼっち。やったのはそいつ」


 貧相な布から細い腕がするりと出てぴょこりと人差し指が駆逐された魔装少女とガーディアンの散乱に立ちつくす黒く巨大な影。

 不穏な物音一つしない無音の影。

 まるで奇妙な道化師(ピエロ)のようなカナンが玩具を与えられた子供のように口角を上げてミンメイとジゼルを凝視していた。


「おやおや、まだいたんだ。全て出来損ないのカナンなるものの胃におさまったはずなのに。しぶとい子猫ちゃんがまだいたのかな?」

 

 高濃度の放射性を振りまく覇気。 

 いかに魔装少女と昇華した強力な力量を誇るミンメイとはいえ膝がガクリと震える。

 畏怖の対象、地上の覇者たるカナンがすぐそばにいる。それはミンメイにとって全身が炎に包まれるほど恐怖の対峙だった。

 このままでは殺されますわと確信に近い予感が脳髄まで反芻する。


「どういうことかしら、カナンが二体。一体と遭遇するだけでも天文学的確率と学生時代に役に立たない教科書に記してありましたわ」


魔装少女(キミ)は運が良いのだよ。そして私も運が良い。ペットたちに与える餌の質(魔装少女の魂)がすこぶる劣化していた。最後に上玉そうな魂を狩れる喜び、とても嬉しいよ」


 辺りの威圧感が強まる。

 笑顔を崩さず右手をひと振りしたカナンの合図にあわせて道化師風のカナンの背後で蠢いていたカナンなるもの、クリームたっぷりシュークリームがセーラー服風の着こなしをしたカナンなるものがミンメイを取り囲む。

 

負けられませんわ。


捨て鉢になる覚悟もしていたミンメイは臆することなく薙刀を構え臨戦態勢に入る。


「ぐるじゅゅゅゅ」


 ミンメイを取り囲むシュークリームたちの頭部がパッカリと割る。そこから覗く間喰い尽くされた魂の叫び。

 シュークリームの中にはクリームではなく喰われたであろう魔装少女や人間、妖怪たちの顔がぶどうの房につく実のようについていた。


 その実が叫ぶ「助けて……」の懇願。

 

永遠の監獄に囚われた魂の悲痛の叫びにミンメイは胸を炒めると同時にその痛みが自分の行く末にも繋がりかねないことに拳を強く握った。


「囚われし魂、直ぐに開放してあげますわ。元第三自警団副団長ミンメイ、推して参ります」

 

 気配を潜めることなく貪欲に獲物(ミンメイ)に狙いをさだめたカナンなるもの足元に幾何学的模様が波紋のようにカナンなるものの奥に広がる。少なくとも形勢が不利であるためにミンメイは力の出し惜しみをせず初撃から鉄槌を下す。

 その覚悟がカナンなるものにも伝わったのだろうかぶどうの房についた顔の実が一斉に弾け大音響と共に生命を根幹から喰らい尽くす楕円型の化物が一斉に飛翔する。

 我が身は最愛の友人と共に。

 ミンメイは全権の信頼をしている薙刀を振るうと真紅の瞳に魔力が満たされた。


「学園都市にくれば、身分を隠しても行列にならんで菓子パンとお米の支給にありつけると内心ウキウキしていましたのに……許せませんわ……わたくしと嫁たちを含めて四人分。貧乏人の恨み晴らさせていただきますわ!」

 

 大地が揺れた。不思議な光沢を放つ魔法陣から闇が溢れる。

 その闇はカナンなるものを真っ直ぐに見据えてその個体を侵食していく。

 その闇、今は亡き青い大空に向かって規模を拡大させる。


「へえぇ、素晴らしい魔力だ。そこに転がっている劣化した魔装少女とはモノが違う。ジゼル、あの(ミンメイ)と知り合いかな」


「ジゼル……よく知ってる。だから、これ以上、餌嬲ると……ジゼル、シャルロットに怒る」


「これは驚いた。あのジゼルが餌に興味を示すなんて」

 

 道化師風の衣装を身にまとったカナン・シャルロットはジゼルとの緊張を和らげるために闇に飲まれその個体を死骸化しているカナンなるものに睥睨して冷笑した。


「そうだね。もうあらかたペットたちも満腹だし。それにたかが餌のために境界線の覇者ジゼルと事を構えるつもりもないよ」


「それ正しい……ここ、魔装少女の統括地。ジゼルたちは統治する場所でない」


 激しい闇のエネルギーが混沌とした死臭が漂う世界を創り上げる中、涼しい顔の二人(カナン)は互いに牽制をしつつ有効的ではない視線を交差させた。


「それもそうだ。餌の狩場(、、、、)が消滅しないように喰らうこともカナンの嗜みだからね」


「シャルロット……卑しい。だから西は……餌場を狩り尽くす」


「手厳しいな」


 シャルロットの暴挙を阻んだジゼル。

 心中どう思おうとカナン同士の格が違うのだろう。

 シャルロットがジゼルの顔を見て肩をすくめると潮時かなと苦笑してその肉体が霧散した。

 ジゼルは幼い相貌を一度だけミンメイにむけた。

 その赤黒い瞳の奥に酷く爛れた好奇心を含みながら。

   


いかがでしたか?

まだまだ拙い文体ですが一生懸命執筆しております。

皆さまに楽しんでいただけるために頑張ります。

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