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第三章 その②

こんばんわ、中盤戦に差し掛かってきました。

楽しんでいただけましたら幸いです。

           ◆

「うひゃー、スクラップ天国です。この欠陥ロボットの死骸たちの数……な、なんて物騒なんですかーっ!」


「ぷぷいぷぷ」

 

 東の稜線に太陽が顔を仄かに覗かせた。その光に昨夜から続く緊張と不安が緩和したあかねは与太丸を頭にのせて絶叫した。 


「そんなオイル臭い油まみれの鉄くず拾っても売り物にもなりませんわ」


「この鉄くずはどうして生産されたのですか!?」


「あら、生産と凄惨を引っ掛けたのかしら? 頭の悪いお猿さんなみのダジャレですわね」


「むきー、話をそらさないでくださいーっ!」


 あかねの蜂蜜色の瞳からの明確なシグナル。そんなジト目を無視してミンメイはプイッと顔を背けて廃墟の壁に指先を這わせる。


「遠野の山奥で育った刃物恐怖症のかまいたちでは理解できない偶然と必然が折り重なった結果ですわ」


「むきーっ、なんだか腹立たしいです。小難しくてわからないから悔しいですーっ。じゃーです、その機械の匂いがプンプンする人間をどこでと拾ったのですか!?」


「ぷいぷいぷーっ」


 興奮したあかねにつられて与太丸も元気いっぱい髪の毛の上でお馬さんゴッコをはじめる。


「いたいた痛いですーっ! 与太丸ちゃん髪の毛は乙女の命です、ひっぱらないでーっ!」


「ぷぷいぷい」


「ふふふっ、僕を見て興奮するなんて可愛らしいね、勃起した?」


「びえーん、このサイボーグもどきのエロ発想がミンメイさんそっくりですーっ!」


「あかねはとっても失礼ですわ。この言葉の贖罪はわたくしの一部分でさしつさされつ……じゅるるる」


「誰かー、警察を呼んでください、変態です、とってもやばい変態がいますーっ!」


「警棒プレイ……じゅるじゅる」


 ほうきを右手に持ちかえたミンメイはもちろんこんなこと小手調べてしてよと嬉しそうに顔を輝かせてヨダレをたらす。


「これから僕はこのメンバーと旅をしないといけないのか」


 予想していた以上のバカっぽさにシロは大きく嘆息した。


「旅をする……ど、どういうことなのですか?」


 突如の経緯にしばし混乱した複雑な表情のあかねは蜂蜜色の瞳をパチクリさせる。

 そんな光景を興味津々といった不敵な視線をからめてシロは唇の端をうっすらとあげた。


「このかまいたちは脳みそつるつるてんなの?」


「初対面でいきなりのあいさつが脳みそつるつるてんですかーっ! ミンメ

イさん、この機械の匂いがする人間はだれですか?」


「あかねは親切をアダでかえすタイプなのかしら? 本当ならその辺りに転がっているスクラップと同じ運命をたどってもらうはずでしたがシロを探していると伺っていましたので生かしてさしあげましたのよ」


 もうこのかまいたちったらと額を押さえつつミンメイは小さく嘆息する。


「えええーっ、この機械の匂いがする人間がシロさんなのですか!?」


「ぷぷいぷあ」


「ううっ、与太丸ちゃんがそういうのであればシロさんなのですね」


「ぷぷいぷい」

 あれこれと話し合う与太丸とあかね。

 そんな二人を見るミンメイは何処か機嫌良さそうに華やぐとクスと小さく微笑んだ。


「頭の悪いかまいたちにも良くわかるように噛み砕いて説明してあげますわ」


「ううっ、言われっぱなしですが……我慢です」


「今日からシロも一緒に旅をしますわ。もちろん行き先は学園都市」


「それはさっききいていますーっ、うちは仲間になった経緯を聞きたいのです!」


「そんなに秘密を聞きたいのですか?」


「仲間になる経緯が秘密なのですか?」


「あかねがわたくしに操を差し出していただけましたら直ぐにシロにおこなった大人の説得を体験できますわ……じゅるるる」


「びえーん! そっち系の説得なのですかーっ!?」


「ぷぷいぷぷーっ!?」


 あかねはミンメイの熱視線を無視してシロに向き直った。透き通るほどの純白の髪、太い眉の下は黒く澱んだ瞳、左目は義眼なのだろう時折機械じみた反応を見せる。


 その肉体にまとっている少しきわどい灰色のビキニアーマー風の衣装が引き締まったウエストとバスト、ヒップを引き立たせている。年齢的には十代後半の少女にも見えた。


「相変わらずいい加減なやつだな。僕を生け捕りにする実力は認めるけどその性癖はドン引きするよ」


「い、生け捕りなのですかーっ!? 今晩のお夕食の材料にしては活きがよすぎます。うちはさばけないですよ」


「こらーっ、僕を食料扱いするな! ワザと…そう、僕はワザと捕まってやったのだから」


「えっ、そうなのですか! エサになるためにミンメイさんにHな操をさしだしてワザと捕まったのですか、とんだドMの嗜虐やさんなのです」


「ぷぷいぷぷ」


「二人で納得するな!」


 シロは興奮気味に肩を上下に揺らす。


「僕はキミたちの仲間になったつもりはない。忍びの里に生きる者たちのために同行する。それに連れてきたサイボーグたちを全滅されたれたからね。このカナンに支配された世界を一人で動くことは自殺行為だよ」


「裏山の和尚さんのお経ぐらい頭が痛くなる言い回しです。素直にひとりぼっちが寂しいからついて行くと言えばいいのです」


「キミに一緒にするな!」


 いくらなんでも非常識すぎるぞとシロが抗議のジト目をあかねに浴びせるが人差し指をギュとすぼめて唇にのせて小首をかしげている。


「二人共およしなさい。どちらともわたくしの夜のピーピーなのですから……じゅるるる」


「「だれがピーピーだ!」」


「ぷぷいぷぷ」


 思わぬ性癖ぶりを見せつけられたシロは小さく嘆息しつつも片眉をあげて整った顔立ちを与太丸にむけた。


「僕は与太丸がいるからついていく」


「むむーっ、もしかしてシロさんは与太丸ちゃんが探しているシロさんなのですかー!?」


 シロは少し戸惑って首肯する。


「僕の一部分はシロなんだ」


「一部分がシロ?」


 シロのその口調は少し重い。

 シロがそういうのであればそうなのだろうとあかねは少し困惑ぎみにオウム返しする。

 そんな困惑した表情のあかねにミンメイは胸から何か熱いものが溢れ出す衝動にかられていた。


「これですからエロ馬鹿かまいたちは刃物恐怖症なのですわ」


「誰がエロ馬鹿かまいたちなのですか、痴女に言われたくないのです!」

 あかねの言葉を聞いた瞬間、冗談めかしつつ微笑ましく苦笑したミンメイ。

 このときミンメイの胸の奥に潜んでいる何かが包み隠した思慕とともに膨れ上がる。


「あかねは与太丸の価値を理解できていないのですわ」


「与太丸ちゃんの価値?」


「そうですわ。宝の持ち腐れのかまいたちにとって与太丸はどんな存在ですか」


「むむっ、とっても悪意がある言い方です……与太丸ちゃんはうちにとっては兄者が残してくれた遺言。頭の上にのっかる大切な旦那様です」


「ぷぷいぷい」


 与太丸を両腕で抱え上げて頬をすりすりしたあかねが僅かに目を細めてミンメイとシロを睥睨する。

 その想いは真剣そのものだった。


「そのジト目はわたくしの服の下がどのようなものかを想像したいがためにみていらっしゃるのかしら? 夜、ベッドと共にしていただけましたら貞操を代価に見せて差し上げましてよ……じゅるるる」


「心から遠慮します!」


「僕は見ていて恥ずかしいよ。与太丸ちゃん、この二人はいつもこんな調子なの?」


「ぷぷいぷぷ」

 

 シロは呆れたように二人を眺めて与太丸に話しかけた。

 その表情は何処か懐かしくもあり寂しくもある雰囲気に包まれていた。


「あかね」


「はい、シロさん何ですか?」


「僕たち人間にとって与太丸はカナンや魔装少女から地上の覇権を取り戻せる可能性がある能力を保有する宝の一つ」


「与太丸ちゃんが宝?」


「そう、与太丸は数百年前に白銀の髪の一族が封印した大妖怪であり神格された存在だよ」


「白銀の一族といったらシロさんの身内ですよね」

 

 その言葉を聞いた途端、シロの表情が仄かに曇り、口元が苦笑した。僕は違うんだよ、と口の中で囁く。どこか寂しげにどこか苦しげに。


「身内かぁ……どちらにしても与太丸は僕たち昔の人間が残した未来の希望。ただ、その力はカナンを呼ぶ」


「カナンを呼ぶ? もしや与太丸ちゃんのお友達なのですか!?」


「ぷぷいぷぷ」


「ふぅ……脳みそが沸騰して蒸発しましたの? 頭の上に乗っかっている与太丸の力はカナンなるものにとって濃厚な蜜。上質すぎるエサですわよ。そう、未完成な存在がカナンと畏怖される究極進化した化物に育つための贄。あかねは与太丸の妹がわたくしの隠れ家から出て突然、姿消したことをおかしいと思いませんの?」


「はえぇぇぇ! そういえばいないです、どこにもいないです、どこに行ったのですか、まったく気付かなかったですーっ!」


「ぷぷいぷぷ」


 あかねはキョロキョロと首を回す。その蜂蜜色の瞳に映るは東から昇るスモークがかった太陽ぐらいだ。

 そんな仕草を見たシロは小さく頷きながら失笑した口元を隠すように手で口元をおおった。


「ミンメイ」


 シロの呼び声にミンメイは気だるそうに振り向く。


「あら、昨日の濃厚な時間が忘れられずに朝っぱらからわたくしを誘っておりますの?」


「与太丸ちゃんの妹はカナンなるものに吸収されたの?」


「もしそうでしたらわたくしたちは生きていませんわ」


 ミンメイはそう言うと頬に人差し指を当てて小首を傾げて半場呆れた視線を空にむけた。


「あのブラコン痴女はわたくしたちには手の届かない場所で力を蓄えていますの」


 ミンメイは胸の奥からこみ上げた言葉を紡ぎながら微かに優しい表情が見えた、まるでミンメイではないもう一人の誰かが微笑んだように。


いかがでしたか?

私の拙い作品を読んでいただきありがとうございました。

次回は三日後ぐらいを目安にアップします。

宜しくお願いします。

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