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第二章 その⑤

ひさしぶりの投稿です。

楽しんでいただけましたらなによりです。

欲望というものは生きることの原動力なのだろうか?

荒廃した世界……過去の成熟した世界とは違うモラトリウムの世界。その世界の中心に(カナン)は蠢いている。そして偉大なる(カナン)になるべく、その者たちはこの世界に生き残った数少ない生者を捕えて魂や肉体を苦痛と絶望をブレンドした味を堪能するために境界線を越えてやってきたのだ。

 そう、山に食べ物がなくなり里に下りてきた野生動物のように。


「びえーん。どうしてこうなるのですかぁーっ!」


「ぷぷぷーぷい」


「それは貴方たちの日頃の行いが悪いからですわ。昨日も働きアリが見つけて巣に持って帰ろうとしたバッタの死骸をタンパク質発見とかいいながら横取りして食べましたでしょ。その報いがきているのですわ」


「あの蟻んこたちはカナンの手先だったのですねーっ!? こんなことならあの苦かったバッタ食べなければよかったです」


「……や、やはり馬鹿につける薬はありませんですわ」


 あかねは寝癖いっぱい髪をがっしりと掴む上機嫌の与太丸を頭に乗せて、太陽の頭もでない宵闇の中、剥離した壁がどっしりと崩れ落ちている下水道をひたすら走っていた。

 突然の強襲だった。

 第二自警団が守護する闇の世界との境界線。

 その前衛基地に突如カナンなるものが押し寄せてきたのだ。

 フレア率いる量産型魔装少女たちは前衛基地の守備力を活かし籠城戦の構えをみせた。


「ど、どうして魔装少女たちはうちたちを逃がしてくれたのですか?」


「それは貴女が知る必要はなくてよ。そんなことより短い脚を駆使してもっと速く走りなさい。与太丸ちゃんもお馬さん(あかね)にはっぱかけていいですのよ」


「ぷぷんぷーん」


「はにゃーっ、与太丸ちゃんそんなに引っ張ったら髪がばっさりと抜けてしまいますーっ。三件となりに住んでいた子泣き爺みたいなずるっぱげになってしまいますーっ」


  あかねは走りを妨げるような粘り気を靴の裏で踏みしめてほうきに乗って先導するミンメイの背中を追って足場の悪い下水道を走る。

  時折、地下を根城にするネズミたちが「こんな時間に何だチュ」とひょっこりと怪訝そうに顔をだして疾走する一団を一瞥していた。


「ううーっ、その先からとってもヤバい臭いがプンプンします」


「ぷぷっぷー」

  鼻をクンクンとさせながらのあかねの訴えにミンメイもほうきを止める。その刹那、嫌な気配が下水道に浸透、ミンメイたちを呑み込んだ。その気配はよく知っている。

 鳥肌が立つほどの嫌悪感があかねの両足をすくませて呼吸を狂わせるほどのプレッシャーを与える。

 その気配の主はミンメイたちの百メートル先の曲がり角から姿を現した。


「カナンなるもののおでましですわ」


「びえーん。あのメルヘンチックな風貌は間違いなくカナンなるものなのですーっ」


「ぷぷぷぷぷーっ」


どんよりと淀んだ空気が立ち込めた下水道に頭はシュークリーム。肢体は巨大なトランプ、両手両足はライオンと滑稽な生物がセーラー服をまとって現れた。


ただ、その滑稽な姿とは裏腹に血走り見開いたグリーンの瞳の鋭さは百獣の王の風格を漂わせている。


「あの醜い姿はデザートタイプの進化型ですわね。あそこまで進化するのにどれほどの魔装少女や妖怪、人間を喰らったのでしょう」


「み、見るからに美味しそう……いえ、やばそうです。シュークリーム型カナンなるものがあそこまで進化するなんて初めて見ました」


「ぷぷぷーっ」


「わたくしが知っている常識ではあの進化クラスは辺境に来ることはないはずですわ。何かがおかしいです。刃物恐怖症で尻尾が使えない馬鹿かまいたちクラスぐらいおかしいですわ」


「それってうちのことですよねーっ!」


「ぷぷぷっーっ」


 ミンメイはおとぎ話にでてきそうな煤ぼけたほうきを正眼に構えると手持ち無沙汰だった右手に華の紋章が浮き上がる。

 大気が震え血色の良い唇から小さな闇の呪文を口ずさむ。

 ミンメイの正面にいるカナンなるものの姿だけならさほど手ごわそうに見えない。

 ただ、その肉体から発する殺気は相手が悪かったとしか言い様がないほど凄惨な気質だ。

 そのおぞましい殺気の主をしっかり睨めつけながらも恐怖を奥歯で噛み潰して集中力を高めている。


「クルクックーっ!」

 

 おっとりとした声でシュークリームが鼓膜を劈くほどの咆哮をあげると強靭な両足で蹴り上げたトランプの体は羽のように宙に舞い、物凄いスピードでミンメイとの間合いをつめる。


「ちょ、ちょっとは手加減をしていただけないかしらーっ!」

 無意識に振りかざしたほうきに幾何学模様が浮かび上がるとミンメイも右手の紋章も共鳴する。


「クルクックーっ!」


「その叫び声……とっても嫌いですわ。あの時を思い出してしまいますもの」

 ミンメイの右手に具現化された漆黒の薙刀。その禍々しい薙刀の魔力は量産型魔装少女が手にしていたモノとは段違いだ。

 勝負は一瞬だった。

 現実離れしたシュークリームか顔の巨躯が見事なほどそして凄惨なほどに真っ二つに割れる。


「この薙刀はわたくしに絶対的忠誠を尽くしてくれた逸品。あのときの……そう臆病だったわたくしを守ってくれた友人の刃のサビにしてあげましてよ」

 ミンメイが振り上げた薙刀の波動は地下水道の先、カナンなるものが居た方向の先に鎮座した壁も破壊する。


「壁が崩れて進めなくなりましたーっ」


「ぷぷぷーぷー」

 

 あかねの眼中に蓄積した石壁の破片を涙目で歯噛みをしながら指差す。頭の上では逃げ場がなくなったにもかかわらず与太丸は子供らしく興奮してご陽気に笑っている。


「眉間にしわをよせて過ぎたことをとやかく言うなんて……これだからいかず後家のブラコン年増妖怪は困りますわ」


「むむーっ、誰が年増妖怪ですかーっ!? うちはピチピチの百歳弱なのですよ」


「百歳も長生きすればシワシワのおっぱいヌンチャクができるおばあ様の出来上がりですわ」


「うちのお肌は張りとツヤがたっぷりの魅惑的なお肌なのです! 遠野の実家の近くに住んでいた砂かけババアから『まぁ、わたしがモテモテだった若い頃のお肌ぐらいきめが細かく良いお肌じゃのぉ』とお墨付きをもらったほどなのですよ」


「確かに……お風呂場で見たときは凄く綺麗なお肌でしたわね。今晩ペロペロしてあげましょうか?」


「なんですか、そのペロリスト発言はぁーっ。ううっ、こんな女装変態元魔法少女に裸を見られたなんて……もう、お嫁に行けない」


「おほほほっ、だからわたくしが貰って差し上げますわ、夜の危険なアバンチュール付きですが、じゅるるる」


「口横から溢れるよだれは何をあらわしているのですか! そのような世迷言は心からご遠慮しますーっ!」


「ぷぷぷーぷー」


 カナンなるものがキラキラとした粒子になって消えていく。とても綺麗……そうこぼしたくなるほどの淡く優しい光。

 その光が暗闇に支配されていた下水道に光を灯す。まるでこちらにも道があるよと言いたげに。


「ほらほらかまいたちと赤ん坊コンビであたふたしながら油を売っていないでくださいまし。この下水道、貴女方にはふさわしい場所でもわたくしには似つかわしくありませんわ。こんな臭いところから早く抜け出しますわよ」


「ミンメイさんだけには言われたくないですーっ」


 呟くように言い放ったミンメイは薙刀をほうきにかえすとひょいとまたがり足を止めていたあかねを一瞥すると仄かな灯りで輪郭が浮かび上がった新たな道をスイスイと進む。


「ちょ、ちょっと、おいていかないでくださいよーっ!」


「ぷぷぷーぷぁー」


 少し不満げな面持ちではあったが天井が崩落していく下水道を見上げると顔を青ざめさせてブルブルと首をふりのんびりと進むミンメイの後ろ姿を追いかけていった。


いかがでしたか?

かなり独特の世界観を感じていただけましたら嬉しいです。

たんぽぽ荘とともに宜しくお願いします。

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