『母さんへ』
母の日ということで。
「はい。お弁当」
「ん──行ってきます──」
「行ってらっしゃい。気を付けるのよ」
「はいはい」
母さんからお弁当を受け取って、俺は学校に向かった。
今日が母の日だと気づいたのは、昼休みに雄司とご飯を食べていた時だった──
*
「そういやさ、今日母の日じゃね?」
雄司がパンを食べながら言う。
「そういえば……。お前何かあげんの?」
「俺? 俺は、夕飯作る。金ないから──」
とカラカラ笑う。
雄司は母子家庭で、父さんがいない。
小さい頃に、事故で亡くなったらしい。
それからは、母さんと協力し合って生活してきたと言っていた。
母さんは毎日パートをやって、雄司もバイトをしている。
母さんが専業主婦で、父さんもいる俺には、きっと雄司の辛さはわからないだろう。
「そういえばお前さ、弁当作ってもらってるだろ?」
と雄司は俺の弁当箱を見る。
「うん、まあ──」
「もらうとき、ちゃんとお礼言ってるか?」
「……いや」
言ってないな。ん──で終わってる気がする。……てかそうだな。
「ちゃんとお礼言えよ? お前絶対お礼とか言わないもんな」
「……なんだよ。悪いか」
「悪くないけど……いなくなったらもう言えないんだからさ。こういう日ぐらい、お礼してみれば?」
*
「そんなこと言われたって……」
恥ずかしいだろ……
花屋の前で、俺は考えていた。
花じゃなくても、言葉で言えばいいんじゃね?
これは恥ずかし過ぎる……////赤面必須だ。照れた顔なんて、恥ずかしくて見せられない。なおかつ、何急に変なこと言って〜、この子ったら……と母さんがバシバシ背中を叩いてくる可能性も無きにしもあらず……
で、数分考えた挙げ句、花を買うことにした。
やっぱり、母の日っつったら、カーネーションだよな……
「カーネーションですか?」
「えっ!? あ、はい……」
「かしこまりました──」
女性の店員さんが、店の前で突っ立っていた俺に声をかけた。
きっと商売の邪魔だったんだろうな……すいません──
少しするとさっきの店員さんが出てきて、名刺サイズの紙とペンを渡してきた。
「口で言うのって、恥ずかしいじゃないですか。良かったら、使ってください」
「……ありがとうございます──」
粋な計らいだ。
この歳の男子というものは、お礼を言うこと。それも母親に言うなんて、顔から火が出るほどに恥ずかしい。
もちろん俺もだ。
「……」
「書けたら言ってください──」
と店員さんは戻っていった。
さて、何て書くか……。
………………。
いざ書くとなると、何を書けばいいのかわからない。
うむ……。いいや。適当で──。
「……あの」
「あ。書けましたか」
「はい。ありがとうございました」
「いえいえ。それじゃ、頑張ってくださいね──」
店員さんになぜか応援され、俺はカーネーション二本の花束(……束じゃないけど)を持って、家に向かった──
*
「ただいま──」
「お帰り。遅かったのね」
「……ん」
俺は、顔を見られないようにして母さんにカーネーションを渡した。
「まあ……ありがとう──」
「……べつに//」
母さんの嬉しそうな声が聞こえた。
それと共に、頭をワシャワシャ撫でらる。
「ふふ//こんな大きくなって……」
「……もう高二だよ」
「ありがとう。飾っておくわね──」
チラッと見た母さんの顔は、シワが少しあった。
それでも口は、三日月のようにニッコリ笑っていた。
「……うん──」
俺は照れた顔を見られたくなくて、母さんが花瓶にカーネーションを飾っている間に、自分の部屋に逃げた──
*
「ふふ//キレイね──ん?」
花瓶にカーネーションを飾った時に、紙がひらりとテーブルに落ちた。
それを拾って、紙に目を通す。
『母さんへ
いつもお礼とか言わないけど、感謝してます。
ありがとう』
読み終えた母は優しく微笑んで、紙をポケットにしまった──
感謝の気持ち、忘れずに。




