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短編・エッセイらしきもの

『母さんへ』

作者: 本谷文途
掲載日:2014/05/11

母の日ということで。

「はい。お弁当」

「ん──行ってきます──」

「行ってらっしゃい。気を付けるのよ」

「はいはい」


 母さんからお弁当を受け取って、俺は学校に向かった。


 今日が母の日だと気づいたのは、昼休みに雄司(ゆうじ)とご飯を食べていた時だった──


         *


「そういやさ、今日母の日じゃね?」


 雄司がパンを食べながら言う。


「そういえば……。お前何かあげんの?」

「俺? 俺は、夕飯作る。金ないから──」


 とカラカラ笑う。

 雄司は母子家庭で、父さんがいない。

 小さい頃に、事故で亡くなったらしい。

 それからは、母さんと協力し合って生活してきたと言っていた。

 母さんは毎日パートをやって、雄司もバイトをしている。

 母さんが専業主婦で、父さんもいる俺には、きっと雄司の辛さはわからないだろう。


「そういえばお前さ、弁当作ってもらってるだろ?」


 と雄司は俺の弁当箱を見る。


「うん、まあ──」

「もらうとき、ちゃんとお礼言ってるか?」

「……いや」


 言ってないな。ん──で終わってる気がする。……てかそうだな。


「ちゃんとお礼言えよ? お前絶対お礼とか言わないもんな」

「……なんだよ。悪いか」

「悪くないけど……いなくなったらもう言えないんだからさ。こういう日ぐらい、お礼してみれば?」


         *


「そんなこと言われたって……」


 恥ずかしいだろ……

 花屋の前で、俺は考えていた。

 花じゃなくても、言葉で言えばいいんじゃね?

 これは恥ずかし過ぎる……////赤面必須だ。照れた顔なんて、恥ずかしくて見せられない。なおかつ、何急に変なこと言って〜、この子ったら……と母さんがバシバシ背中を叩いてくる可能性も無きにしもあらず……


 で、数分考えた挙げ句、花を買うことにした。

 やっぱり、母の日っつったら、カーネーションだよな……


「カーネーションですか?」

「えっ!? あ、はい……」

「かしこまりました──」


 女性の店員さんが、店の前で突っ立っていた俺に声をかけた。

 きっと商売の邪魔だったんだろうな……すいません──

 

 少しするとさっきの店員さんが出てきて、名刺サイズの紙とペンを渡してきた。


「口で言うのって、恥ずかしいじゃないですか。良かったら、使ってください」

「……ありがとうございます──」


 粋な計らいだ。

 この歳の男子というものは、お礼を言うこと。それも母親に言うなんて、顔から火が出るほどに恥ずかしい。

 もちろん俺もだ。


「……」

「書けたら言ってください──」


 と店員さんは戻っていった。

 さて、何て書くか……。

 ………………。

 いざ書くとなると、何を書けばいいのかわからない。

 うむ……。いいや。適当で──。


「……あの」

「あ。書けましたか」

「はい。ありがとうございました」

「いえいえ。それじゃ、頑張ってくださいね──」


 店員さんになぜか応援され、俺はカーネーション二本の花束(……束じゃないけど)を持って、家に向かった──


         *


「ただいま──」

「お帰り。遅かったのね」

「……ん」


 俺は、顔を見られないようにして母さんにカーネーションを渡した。

 

「まあ……ありがとう──」

「……べつに//」


 母さんの嬉しそうな声が聞こえた。

 それと共に、頭をワシャワシャ撫でらる。


「ふふ//こんな大きくなって……」

「……もう高二だよ」

「ありがとう。飾っておくわね──」


 チラッと見た母さんの顔は、シワが少しあった。

 それでも口は、三日月のようにニッコリ笑っていた。


「……うん──」


 俺は照れた顔を見られたくなくて、母さんが花瓶にカーネーションを飾っている間に、自分の部屋に逃げた──


         *


「ふふ//キレイね──ん?」


 花瓶にカーネーションを飾った時に、紙がひらりとテーブルに落ちた。

 それを拾って、紙に目を通す。


『母さんへ 

  いつもお礼とか言わないけど、感謝してます。

  ありがとう』


 読み終えた母は優しく微笑んで、紙をポケットにしまった──




感謝の気持ち、忘れずに。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 母の日にふさわしい、ストレートに良いお話でした。 [一言] 劇中で雄司くんが云った「いなくなったら……」のくだりに見事に当てはまりますので、その通りだよなーとしんみりしてしまいました。
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