8 魔国では
― 魔国 ―
「なんだと! タケミ カズトと名乗ったのか、確かにそう名乗ったのかクシャムよ!」
茶色い短髪の大柄な男が騎士の鎧が並べられた廊下を歩いていく。
男の着ている服装からして上位の人間だとわかる。胸には何かの称号バッジを多数つけ堂々としているが今は何かに苛立っているようで数歩後ろを付いて歩く白髪の女性兵士に怒鳴るように質問をしていた。
「はい、他のその場にいた兵士から確認を取れました。十七歳の少年で黒い服装に身を包み特殊な魔技を扱うようです」
白髪の女性は無表情にただ手にした書類を読み上げる。
「特殊な魔技だと!」
「どうやら我ら魔族、それも王族に伝わる伝説の魔技だとアガム大臣は話したようです。そして魔王様もそれを認め密偵としての命令を下し見事達成された暁には王族に向い入れる、と」
「なんと! 父上がそのような事まで、どういうつもりなのだ? まさかその小僧を自分の後継人にする気ではあるまいな!」
「いえ、それはないかと次期魔王候補には魔王様のご子息であられるオシリス様、ニルヘム様のそれもご兄弟の長男であらせられるオシリス様が選ばれるかと」
「黙れ!」
オシリスはクシャムの前にある騎士の鎧に拳を振りつける。鎧は土くずの様に粉々に粉砕された。目の前で拳を振り切られながらもクシャナは瞬き一つしなかった。
「父上はそのような事では自分の後継人を決めたりはせぬ、くそっ……その小僧は今どこにいるのだ!」
「それは分かりません、密かに後をつけていた兵も見失ったようで」
「うがぁああ!」
壁に向かってオシリスは両手を勢い良く叩きつける。すると壁に大きな亀裂入った。
「その小僧の居場所さえ分かればすぐに消し去ってくれるものを!」
オシリスは眉間に眉を寄せ歯ぎしりをして歩き出す。
クシャムは粉々になった鎧と壁の亀裂に目をやるとほんの僅かに微笑んだ。亀裂はさらに大きくなっていく。
「さすが『破壊公』 、……フフ」