17 頑張ります
三技の競技場は円形に広がり竜を模した石の門をくぐると観客の歓声が鼓膜を破りそうなほど飛び交ってくる。カズトとフェミナは二人で競技場に立っていた。
「なんだ、魔族同士の決闘なんぞ見たくねーよ! 失せろ、魔族!」
観客席からヤジが飛んでくる。
「あー、うるさいな」
「気にするな、それより竜国では武器の使用は禁止されている。武器は持っていないだろうな」
フェミナが確認のためカズトに尋ねる。
「ああ、それよりどちらかが死ぬまで闘うなんてルールじゃないよな」
「無論相手の息の根を止める必要はないが相手の意識を失わせるか降伏させるかだ」
「そうか……」
「ただ向こうがお前の命を狙わない保証はないぞ」
フェミナはカズトの顔を見て不安そうな顔をする。
「不安か?」
「問題ない。死線は何どもくぐり抜けてきた。今だってお前の部下になって三技に出場するとは思いもしなかったが死んではいない」
「そうか私はお前のことを見くびっていたようだな。カズト、これからはそう呼ぶとしよう。私のことも名で呼ぶがいい」
「いいのか? じゃあフェミナ!」
「ふっ、様をつけろ。お前は私の部下だろう」
フェミナは笑いながらカズトの背中を軽く叩いた。
「それじゃあ私は上でお前の事を見ているからな、裏切るなよ」
「フェミナ様が俺との約束を破らなければ」
「安心しろ。竜族の口の硬さは世界一だ。そして受けた恩は忘れない。受けた恥辱もな」
「じゃあ多めに恩を売っておかないとまずいな。これで勝てたら風呂場での事はすべて忘れてくれるか?」
「…………」
フェミナは何も言わずにギラリと目を光らせて睨みつける。
「がっ、頑張ります……」
「よし、それでいい」
通路を戻っていくフェミナの後ろ姿を見ながらカズトは少し後ろめたそうに目を伏せた。
「ほほほ、まさか君が出てくるとは思わなかったな。あのお姫様は余程人望がないようだね」
セブンが笑いながら反対の門から入ってくる。
「おや、もしかして心配です? 俺が君の命を奪うのではと?」
「別に……」
「大丈夫そんなことはしませんよ。俺達同族ですし」
「……」
「所で君は一体何者ですか? もしかして凄腕の魔技の使い手とかではありませんよね」
からかうようにセブンは帽子を脱いで。腰につけたバッグの中に入れた。
「ずいぶんお喋りだな。そんなに心配しなくても俺もお前の命を奪ったりしないよ」
「ほほ、それはそうでしょう。俺に勝てるわけがないのだから」
カズトは周りを見渡してフェミナの姿を探していた。
「ちゃんと見ていろよ。一瞬で終わるからな」




