07 竜国のナデシコ
「魔技には様々な種類があるが『風』と名のつく魔技は全て胸を押し付けることで発動を止めることができる」
「一説には他者の心臓音が魔技の波長を乱すことによりその効力を失わせると言われていますが本当のところはどうですかね?……」
スイリュウはカズトに尋ねるように言った。
「スイリュウ殿もご存知だったのですか」
「ええ、この魔技に私と竜王様は少なからず痛い目を見せられましたから」
フェミナは竜王の顔を見ると竜王は不機嫌そうに顔を背けた。
「くそ、じじいだな……」
カズトは大体の事情を察した。恐らく昔竜王と魔王は戦ったことがあるのだろう。しかしカズトもこの魔技にそんな欠点があることは知らなかった。
「しかしこの魔技を扱えると言うことは彼の言っている事はあながち嘘ではないのかもしれませんね。どうなされますか竜王様?」
スイリュウは落ち着いた男で常に微笑んでいる。先程の騒ぎにも微動だにせずに微笑んだままだった。その余裕の態度にカズトは自分より力量の上の者だと判断して予想以上に竜族には自分の魔技が通用しそうにない相手が何人もいそうだと感じた。
「父上方はこの者の事をご存知なのですか?」
フェミナが尋ねると竜王は何も言わずに考え込んでいた。
「失礼します国王。城に乗り込んだ賊を捕らえました」
「ムッ、なんだと賊が入ったなどと報告は受けておらぬぞ」
王室に入ってきたのは紫色の髪に色気のある美しい女性だった。
「姉上!」
「姉? そういえば竜国には王の娘が五人いて、竜国のナデシコと呼ばれている……」
「その名で呼ぶな」
フェミナはカズトを睨みつける。
「あら? その子も侵入者?」
「ドナよ、何故この俺に報告しなかった」
竜王が威圧のある瞳で見つめる。
「ちょうど私がいましたので、報告するまでもないかと思いまして。けれど……」
「なんだ?」
ドナは少し間を置いてため息をつきながら、
「私が捕らえるまでに城の兵六十名が負傷してしまいました。それも武器も持たないたった二人の竜人に」
カズトは嫌な予感がした。二人の竜人。思いつくのはひとつだけだった。




