2 出会い
「アガム大臣この者の処罰は私にお任せ下さい。なんの目的で侵入してきたのか必ず吐かせてみせます」
「それより……その者を離してやりなさい」
「はっ?」
「魔王様も物好きですな、賊が気になりますか。フムフム」
アガム大臣はニヤニヤと笑みを浮かべる。賊が侵入したことに魔王も大臣もなんの緊張もなかった。
「ほれ、早く離してやらんか魔王様の命令ぞ」
「それは危険です! 離せば何を仕出かすか!」
「うむ……いいから離してやりなさい」
「はっ! 魔王様のご命令とあらば、……おいっ、離してやれ」
兵士たちはローブの男を解放した。
「…………」
ローブの男はゆっくりと立ち上がって抑えられていた腕を解すように回した。
「きみ……何者かね」
魔王が静かな声で尋ねると男はローブを外し顔を見せた。
「むっ……お前は」
魔王は細い目を一瞬見開いた。
「さすがは魔王、こんな得体の知れない俺を自由にしてくれるなんて余程魔技に自信があるという事ですか?」
黒髪の少年は魔王を褒めるように両手で拍手をたたいて贈った。
「はじめまして俺はタケミ カズトという者です。ご存知ですか?」
「タケミだと! それは神国の名、貴様は神国の密偵か!」
ダルギスが剣を抜き矛先をカズトに向けた。
「落ち着けダルギス、小僧お主は何者だね」
アガム大臣がカズトに問いかけた。
「あれ? タケミ カズトという名に心当たりはありませんか……」
カズトと名乗る少年は先ほどに比べ声に威勢がなくなっていた。
見たところ十代後半の若者、しかしそれにしてはあまりにも堂々としている。まるで自分が死ぬとは思っていないような、それともそれだけの死線をくぐり抜けて来たのか。どちらにしろアガム大臣にはその少年に見覚えがあった。
「タケミ……イヅチと言うものなら知っておるが」
重い口調で魔王はその名を口にした。