12 仲間に入る証はキスらしい
「運命よ! 運命には抗えないの! 逆に言えば運命のない人生なんて退屈だわ。こっちから願い下げよ、ウエ~」
そう言って吐きそうな顔を見せる。
「文句はないでしょ、私は役に立つオカマなんだから!」
「……オカマって言葉嫌いなんじゃないのか?」
カズトは少し驚いて聞いてみるとリンイは軽く首を振った。
「私はオカマって言われるのが嫌いなんじゃないのよ、オカマって悪い意味で言ってくる奴らが許せないだけよ!」
「オカマの悪い意味?」
オカマはオカマだろういい意味のオカマってあるのか……、カズトはリンイの言うことがイマイチ理解できなかった。
「ふんっ、大体こっちだって好きでオカマになったんじゃないわ! 考えても見なさいよこの顔にこの声で男らしくしても気持ち悪いだけでしょ。だから私は生まれた時からオカマになるしかない定めをもって生まれてきたのよ。私は一応男に戻ろうと思えばいつでも戻れるオカマなのよ、ああこの中途半端な体が憎らしいわ」
リンイは一人で自分の体を抱きしめながらクネクネと体を動かし目からは涙を一つこぼした。
「まあ、良く分からないが確かに男らしいリンイなんて想像したくもないな」
カズトは少しだけ男らしいリンイを想像してみたが、そんなリンイは現実には存在して欲しくないと寒気がした。むしろ今のオカマの方が強い女性の様で見ていて安心する。
「それじゃあリンイえーと、仲間の証に握手でもするか? ……」
カズトは一応手を差し出した。
「えー、そんなのつまらないわ! こういうのは最初が肝心なのよ、握手なんかで絆は結べないわ! 嫌よそんなの!」
頭を左右に振ってリンイは握手を拒否するように両手を体の後ろに隠した。
「そうか? こういう時どうするものなのかな」
「そうね、じゃあ私たちの仲間に入る証はキッスにしましょう」
「ふざけるなよ」
「ふざけてないわ、それぐらいできなきゃ仲間として信用できないわよ!」
「……いや、一理ある気もするがキスはないな、他のにしよう」
「じゃあ、おでこにキスなんてどう?」
「キスから離れろよ!」
「何よ! じゃあ勝手に握手でもなんでもしたらいいじゃない。そんな在り来たりの事で仲間になれると思ったら大間違いよ!」
リンイは拗ねてカズトに背を向ける。
「確かにそうかもしれないけど、だからってキスじゃなくても、他のを考えよう」
「…………」
リンイは無言で深いため息をついた。
「ん~、分かったじゃあオデコにキス……でいいのか」
少々納得いかないがこれから刑務所に忍び込むのにリンイの機嫌を損ねたままというのもマズイのでカズトは仕方なく承諾した。
「じゃあ、キスするか」
「もう……優しくしてね」
色気のある声を出しながらリンイは唇に人差し指をつけながら振り向いてウインクした。
「オデコに! だからな」
青ざめながらカズトは念入りにオデコを強調した。